第135話 閑話 思い出の地を巡る②
さて、ミアズマの姿はもう満足したので次はカブトムシの姿に変身だ。まずは銀色のカブトムシだね。僕は懐かしき銀色のカブトムシに姿を変え、ヴォーラが棲んでいた山へと向かった。
(ヴォーラがいなくなったせいか、ワイバーンが増えてるなぁ)
上位種であるドラゴンがいなくなったせいか、この山はワイバーンの巣窟になっていた。そう言えば、キリの方のお店の在庫が減っていたな。ワイバーンの素材はお手頃価格でそこそこの武器や防具が作れるから、中級冒険者に人気なんだよね。
(よし、ここで少し在庫を増やしておくか!)
僕は銀色のカブトムシのままワイバーンの群れの中へと突っ込んでいった。
「グゥラァァァァァ!」
ワイバーンが雄叫びを上げながら群がってくる。これだけのワイバーンがいるのだ、おそらく常に食糧不足の状態なのだろう。そんなところに、大好物の昆虫型の魔物が現れたのだ。我先にとワイバーン達が集まるのも無理はない。しかし、彼らがどんなにくちばしで突こうとも、どんなに立派な鉤爪で斬りつけようとも、僕の甲殻は傷ひとつつかない。
(そろそろ、いいかな。サンダーウェブ!)
数十匹のワイバーンが集まったところで、僕は雷魔法第3階位の"サンダーウェブ"を放つ。僕を中心に網の目のように広がる雷。その場にいた数十匹のワイバーンが全て地面に倒れ込んだ。それらのワイバーンにとどめを刺そうと思ったのだが……全部死んでしまっていた。うーん、強くなりすぎてしまったなぁ。
僕はワイバーンを全てアイテムボックスにしまい、懐かしの食事場へ行くことにした。
(おお、懐かしい。まだ×印が残っているじゃあないか! しかし、あの食事場を独占しているヤツがいるな。あいつのせいで、他の虫達が食事にありつけていないではないか!)
僕が以前よく食事をしていた大木に来てみると、一匹の大型の昆虫型の魔物が蜜を独り占めしていた。僕はまだ自分がビートルだった頃のことを棚に上げて、集まった虫型の魔物達を押しのけひとりで蜜を吸っているヤツの前へ飛んで行き張り付く。
真っ黒な身体に2本の巨大な鋏。頭には立派な冠をつけたカブトムシのライバル。そうあいつは紛れもなくクワガタだ! ヤツは目の前にとまった僕に警戒したのか、蜜をなめるのを止め、上半身を起こし鋏を大きく広げることで自分を大きく見せ始めた。だが残念。それが通用するのは、知性のない本能で生きているやつらだけなのだよ。
しかしこのクワガタ、身の程知らずにこの僕とやろうというのか。よしよし、受けて立とうではないか。
ガキィィィィン!
僕が大胆にも威嚇中のクワガタに近づくと、ヤツは僕の身体をその大きな鋏で挟み込んできた。
ふっ、しかし僕の鉄壁の鎧は傷ひとつつくことなく光り輝いている。こいつがどれだけ頑張って攻撃しようとしても、僕の身体に傷をつけることはないだろう。
何て思っていたら、ヤツの狙いは僕の身体に傷をつけることではなかったようだ。先端が2つに分かれたその鋏で、僕の身体をがっちりとホールドし持ち上げようと力を込め始めた。なるほど、クワガタの鋏が微妙に下に向かって湾曲しているのは、上から挟み込んで持ち上げるためだったのか。
ぐいぐいと僕を持ち上げようと、目の前のクワガタの顔に血管が浮かんでいる気がした。だが、僕の6本の足はがっちりと木の皮に食い込み、微動だにしない。逆に僕は自慢の角をヤツの腹の下に滑り込ませる。
この体制になれば僕の勝利は間違いなしだ。ヤツの腹の下の角をぐいっと持ち上げると……
「ギィシャァァァァ!」
(!? クワガタが鳴いただと!?)
ヤツは自分の身体が浮き上がりそうになったの感じ、金属がこすれたような鳴き声を上げた。
その鳴き声に合わせて現れる一本の石の槍。
(いや、魔法使うんか―い!!)
僕が勝手に力勝負だと思っていたが、どうやらあいつはそうは思っていなかったようだ。しかし、クワガタが撃ち出した石の槍は、当たり前だが僕の頑丈な鎧を傷つけることなく砕け散っていった。
(そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!)
このままぶん投げてもよかったのだが、僕だって魔法が使えることを見せてやろう。
僕は大きめの水の玉を作り出し、必死に耐えるクワガタの顔の周りを覆ってやった。そいつはすぐに苦しみ出す。踏ん張っていた足をバタバタさせるもんだから、すぐに身体が浮き上がり苦もなく投げ飛ばせてしまった。
以前の状態であれば、このままとどめをさしたところだけど、今の僕は時空神となり心にもレベルにも余裕が生まれている。弱者をあえて倒すことなどしない。地面に落ちたクワガタの顔に張り付いていた水を消し、蜜をひとなめしてから飛び立った。
周りで見ていた他の虫型の魔物達が一斉に蜜に群がるのを探知で感じながら、僕はそのまま
(確かここは、階層またぎの魔物がでるんだったよね。さすがに今の僕なら大丈夫だとは思うけど、一応気をつけておこう)
ここの
転移で一階層へと移動してみたが、さすがに人気の
特に姿は隠していないけど、みんなカブトムシのバッジをつけてるからいいよね? 何か、指さされたり騒がれたししてるみたいだけど。
(お!? ピンチに陥っているパーティー発見!)
僕は11階層から12階層へと降りる階段の下にひと組のパーティーを発見した。どうやら、11階層に戻る途中に待ち伏せにあったようだ。おそらく、12階層にチャレンジしてみたはよいが実力が足りず戻る途中だったのではないだろうか。魔力がもうないとか、ポーションがなくなったとか聞こえてくるから、これはピンチに間違いないでしょう。
僕が11階層から降りていくと、階段を塞ぐように立ちはだかるオーガの背中が見えた。何だろうこの既視感は。この
僕は威力を抑えた小さめのストーンニードルをひとつ、棍棒を持つオーガの右腕にぶつけてやった。威力は抑えたつもりだったが、それでもオーガの右腕は肘から先が吹き飛んでしまった。
「なっ!? よくわからんが、チャンスだ! 先にオーガからやるぞ!」
右腕を失ったオーガが痛みのせいか、その場で膝をついてしまったところを見逃さず、冒険者達が攻め立てる。さすがに自力で12階層まで来ただけあって、片腕をなくしたオーガを倒すくらいの実力はあったようだ。
あっという間にオーガを倒し、階段へと逃げ込んできた。そこで、僕の姿を発見しピタッと足が止まる。
「か、階段に魔物が!? なぜ?」
「終わった……」
「いえ、待って。みんなよく見て! あのお姿を!」
「えっ!? もしかして!? 救世主様!?」
「ヘレン様の教えの通りのお姿だ……はっ!? お前ら頭を下げるんだ!」
何これ? 何が始まったの? みんな僕の方を見て土下座を始めたんだけど……
ヘレン様とかちょっと怖いんだけど。って言うか、あの怪我してる人はめっちゃつらそうじゃん。治しておこう。
僕が怪我をしているひとりを治療すると、土下座がますます深くなってしまった。うん、恥ずかしいからもうここから離れよう。
僕は土下座する冒険者達の頭上を飛び越し、そのまま階段付近にいたゴブリンの集団を魔法で瞬殺し、さらにピンチになっているパーティーがいないか探し回った。
最終的には他に4組ほどのパーティーを助け、どのパーティーも同じような反応で背筋が冷たくなりました。感謝はしているけど、宗教って恐ろしい面もあるな。
(それにしても、今日もまた階層をまたぐ魔物が現れたらしい。僕は運良く遭遇しなかったけど、やっぱり
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