第134話 閑話 思い出の地を巡る①

 時空神となった僕は、神の衣の効果で様々な姿に変わることができるようになった。そこで今日はここでの記憶を確かなものにするために、今まで進化して来た姿に変わりながら、ファルンティアでの人生を振り返ってみることにした。


「よし、まずは苔からだな」


 僕はこの世界に初めて降り立った、木に囲まれた小さな池の真ん中の岩に苔の姿で張り付いた。


「……」


 ああ、昨日のことのように思い出す。僕はここで、慌てながらスキルを選んだのだ。あの時のスキル選択は間違っていなかったと、今なら言える。


 しかし、あの時は目が見えてなかったからね。改めて見てみると、綺麗な池だねここは。


(おっ!? 僕の宿敵エービがいるではないか!)


 あの時は見えなかったが、このエービは鮮やかなオレンジ色をしていた。やっぱり、地球のエビとそっくりだな。


 おや、このエービめ。僕を食べようとしているな! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!


 僕はあの時と同じように、ウォーターエッジで真っ二つにしようとしたのだが……


 ザッパァァァァァン!!


 割れた。池が真っ二つに割れた。どうやら手加減をミスったらしい。思い出の綺麗な池が、大地に傷跡を残す、歴戦の戦場のようになってしまった……



(さて、次は毒草だったかな……)


 僕は巨大なクレバスに水が流れ込んでいる池を背後に、毒草に姿を変えて地面に生えてみた。


(おお、このヒラヒラ感が懐かしい)


 まだ自力では身動きが取れず、風に吹かれるままヒラヒラしていたあの頃を思い出す。そして、この毒草に進化したのも正解だったな。後に瘴気に進化する、毒生成をゲットできたのが大きかった。


 おっ、あそこに見えるはラビートではないか。確かあの時は覚えたてのポイズンエッジで倒したんだったよね。どれどれ、今度はしっかり手加減して……


 シュ!


 よし! 狙い通り当たったんだけど……毒が効く前に真っ二つに切れちゃいました。


(お次はイグアーナだったかな)


 僕の記憶が確かなら、次に倒したのはイグアーナだったはずだが、残念。近くにはいないようだ。代わりに現れたのは、Cランクのブラッドベアーだ。イグアーナより百倍強い魔物が現れちゃったけど、今の僕なら大丈夫。


(エクスプロージョン!)


 あら不思議。念じただけで、ブラッドベアー中心に起こる大爆発。木っ端みじんに飛び散る熊の魔物。そして、飛び散る火の粉。それが森の木に引火し……


(ダイタルウェーブ!)


 鎮火させるために放った第1階位の魔法に、木々に燃え移った火は消えたのだが、前方100mほど更地になってしまった。


(よし! 猛毒草は飛ばすとしよう。ミアズマに変身してさっさとこの場を離れるのだ!)


 僕は逆さまにしたイソギンチャクのような身体に変身して、変貌してしまった森を背にうねうねとその場を後にした。






(そう言えば、この辺で疾風の風のみんなに出会ったんだよね。向こうは、僕がミアズマだったりカブトムシだったりしたことを知らないと思うけど)


 僕は疾風の風がまだ駆け出しの冒険者だった頃、フォレストウルフに襲われているのを助けたんだよね。


 ガキィィィィン!


 そうそう、あの時もこんな金属音がしていたなぁ。


 …………あれ? また誰かが戦闘している?


 僕がミアズマのまま戦闘音のしたところに向かうと……いた。4人組の冒険者がフォレストウルフの集団に襲われていた。ご丁寧に一人がやられているところまで一緒だ。


「くそ! ちょっとやばいかもしれない! そっちはどうだ!」


「大丈夫だ。問題ない」


「いやいや、問題ありまくりでしょ! あんた達、抑えきれてないから! ああ、もうファイアーボール!」


 前衛の二人の男の子が撃ち漏らしたフォレストウルフに、ファイアーボールを放つ魔法使い風の女の子。まだ若いパーティーに見える。ああ、思い出すね。あの時のことを。


 よし、怖がられても構わない! このままの姿で助けに行こう!


 僕がうねうねと触手を動かし、彼らの背後から近づいていく。最初に気がついたのは、やはりフォレストウルフだった。今まさに、前衛の二人に飛びかかろうとしていた5匹の動きが止まった。


「おい、なぜ襲ってこないんだ? まさか、俺達をいたぶってから殺すつもりなのか?」


 若いパーティーは僕の存在に気がついていないので、なぜフォレストウルフが襲ってこないのか戸惑っているようだ。そして、彼らを襲っていたフォレストウルフはじりじりと後ずさりして……逃げ出した。うん、命拾いしたね。


「た、助かったの? 私達?」


 魔法使いの女の子がその場にペタッと座り込む。その女の子の声に反応するように振り向いた前衛二人と目が合った。気がしたのは僕だけだよね。ミアズマには目がないから。


「う、う、う、うしろ。うしろ。うしろ」


 リーダーっぽい男の子が、僕を指さし震えている。隣の男の子も口をパクパクさせて驚いているようだ。


 魔法使いの女の子が、まさに恐る恐るといった感じで振り返る。その目がいっぱいに開かれて……



「「「ミアズマ様!?」」」


 3人のまるでアイドルにでも出会ったような叫び声が重なった。

 

(えっ? ミアズマ……様?)


 なぜか嫌われ者のはずのミアズマが様付きで呼ばれて混乱する僕。目の前には目をキラキラさせて僕を見つめる


「ほらな! やっぱりこの森の守護神はいたんだよ!」


 剣を持ったリーダーっぽい男の子が僕を指さして、なぜか自慢げに胸を反らしている。残りの二人は彼の言葉を信じていなかったのか、ばつの悪そうな顔をしていた。


 ってか、そこの怪我している女の子を放っておいていいのだろうか……


 頭から血を流し、割と顔色が悪かったので僕は聖魔法で治療してあげた。それを見た彼らは……


「おぉぉぉ!? ミアズマ様が聖魔法を!?」

「まじか!? 本当に守護神がいたとは!?」

「きゃあ、マジでやばいんですけど!? 臭い息をかけられたいわ!」


 大はしゃぎしている。一人おかしなテンションになってる子がいるけど、危ないから関わらないようにしよう……


 彼らのテンションに身の危険を感じた僕は、怪我をしている女の子が治ったのを確認し、後ろの森に入るべくずりずりと後ずさりする。そして、彼らが女の子の様子を確認している隙に猛ダッシュで逃げ出した。


(まさか、こんなところにも信者のみなさんがいたとは……)


 ちょっとした恐怖体験だったけど、あの時にステータスを底上げしてくれていた中の何人かだと思えば、ちょっとした恩返しができたのかなと思った今日この頃でした。

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