第133話 閑話 オーロラとの休日

 僕が邪神を倒してから約半年が過ぎた。フォッグの方は冒険者ランクがSランクへと上がり、キリの方のは商業ギルドのランクが金級ゴールドクラスへと上がった。どちらも異例の早さらしい。オーロラとも時々交流を重ね、今では気軽に冒険に出かける仲になっている。


 今日はオーロラに相談されて、新しい召喚獣を召喚する手伝いをすることになっているのだ。






「フォッグさん、おはようございます!」


 帝都に転移した僕を、オーロラのまぶしい笑顔が迎えてくれる。


「オーロラさん、おはよう。今日はよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 軽く挨拶を交わして、今日の予定を確認する。


 オーロラが召喚できるのは今のところ『スノウ』のみ。魔王との決戦の時に召喚を試したけど、応えるものはいなかった。今なら誰か来そうな気もするけど、せっかくだから強い魔物を召喚させてあげたい。

 オーロラに相談されたときに真っ先に思いついたのが、奇怪のエクセルから聞いた話だ。何でも、サミュエルにドラゴンゾンビを召喚させるために、目の前で召喚魔法を唱えさせたらしい。そうすると、その魔物とリンクする確率が上がるのだそうだ。


 そこで僕は一度召喚された経験のある、人間界に興味があるドラゴンを紹介しようと思ったわけだ。


「おい、ちょっと待ってくれ! 余も一緒に連れて行ってくれ!」


 オーロラと一緒に霊峰ドラゴニアに転移しようとしたら、何やら慌てた感じの声が聞こえてきた。これは、アレだなどこぞの皇子様だな。探知をするまでもない。


 声のする方を振り返ってみると、案の定テオドールが走ってくるのが見えた。次期、皇帝候補がこんな街中を気軽に走っていていいのだろうか?

 とは言え、テオドールがオーロラに関心があるのは誰もが(オーロラ以外)わかっていることなので、涙ぐましい努力と言えるのかもしれないね。


 僕はそんなテオドールを置いて行くほど鬼ではないので、ちゃんと待ってあげるのですよ。オーロラも特段嫌がっているわけではなさそうだし。僕以外の人間関係も大切にしてほしいと思っている。


 と言うわけで、3人で手をつないで霊峰ドラゴニアへと転移した。ちなみにオーロラの手は小さくて、温かくて、柔らかかったです。






「こ、ここはもしかして!?」


 ドラゴニアの入り口に転移したテオドールが、入り口で寝そべるドラゴンを見て驚きの声を上げた。さすがに皇族だと、来たことはなくてもその存在は知っていたらしい。


「あれは、ドラゴンさん!?」


 オーロラも生ドラゴンに興奮しているようだ。自分が紹介される魔物がドラゴンだとわかって、一気にテンションが上がっているのかな?


〈おお! お久しぶりですミスト様! そちらの人間はミスト様の奴隷ですか?〉


 以前も門番を務めていたドラゴンが僕に念話を投げかけてきた。しかも、オーロラとテオドールを奴隷呼ばわりで! ドラゴンから見たら、そんな風に見えるのかな?


〈違うよ! この二人は僕の友達だよ。あまり失礼のないようにね! あとこの姿の時はフォッグだからね!〉


 僕が軽く注意すると、門番ドラゴンはちょっと後ずさって後ろ足で立ち上がり敬礼のポーズで中に入れてくれた。もちろん、ドラゴンのそんな姿を見たオーロラとテオドールの顔は引きつっている。


「と、とりあえず入れてくれるみたいだから、中に入ろうか」


 僕は少し緊張気味の二人を連れてドラゴニアの内部に入る。辺りはドラゴンばかりだからそりゃ緊張するよね。


 僕は二人をナギニの部屋に案内した。事前にヴォーラにも来てほしいと伝えているので二人で待っていてくれているみたいだね。


「久しぶり! ナギニ、ヴォーラ 」


 オーロラとテオドールがいるので、あえて声に出して二人に挨拶をする。


〈久しぶりだな、ミ、フォッグよ。よく来たな。そちらが、貴殿が言ってた召喚士のオーロラかな?〉


 ナギニがみんなに聞こえるように念話を送る。って言うかこいつ、今、ミストっていいいそうになったな!?


「は、初めまして……。オーロラと申します。きょ、今日はよろしくお願いします」


 オーロラはナギニの迫力に圧倒されているようだ。テオドールに至っては、人形のように動かず固まっている。


〈我の名はヴォーラ。オーロラとやら、今日はよろしく頼むぞ〉


 そう、今日はオーロラにヴォーラの前で召喚魔法を唱えてもらって、もし波長が合えば召喚に応じてもらう予定なのだ。事前にヴォーラに確認したら、『久しぶりに人間と行動をともにするのもおもしろいかもしれん』って言ってもらえたから、今日はオーロラを連れてきたのだ。


 ヴォーラの自己紹介に口をキリッと結んで頷くオーロラ。うん、やっぱりかわいいね!


 お互いに自己紹介を終えたので、早速、オーロラが召喚魔法を唱えることになった。僕とテオドールはオーロラの後ろに下がり、オーロラとヴォーラが向かい合う。ナギニはヴォーラの後ろで見守っている。



【あなたと魔力の波長が合う者が召喚魔法を唱えました。ただし、一度契約を切ったものは召喚に応じることはできません】


 目の前に3度目となるウインドウが現れた。おっと、召喚の様子を見たら、オーロラの後ろに自分がいるじゃないか。なんとも不思議な感じだね。


 ヴォーラの様子を見てみると、どうやら上手く波長が合ったようで虚空を見つめながら低い声で小さく唸っていた。そして、ウインドウの数字カウントが減っていき……0になった。


〈何!? 我より格上の者が承認しただと!?〉


 あれ? ヴォーラが何か叫んでいるぞ? 何々? ヴォーラより格上の者が召喚に応じたから、ヴォーラが弾かれたのかな? 可能性は0じゃないけど、ヴォーラより格上なんてそうそういないだろうに……って思ってたら


〈すまぬ〉


 ナギニの申し訳なさそうな念話が届いた……


 いや、お前さんかい!『だって我も召喚されてみたかったんだもん』なんて言い訳通用するか!


 

 ナギニがヴォーラに散々責められていたが、どうやらオーロラは召喚魔法のスキルが上がっていたらしく、3体目も召喚可能のようだった。それを説明することで何とかヴォーラも落ち着きを取り戻し、無事3体目の召喚獣として契約することができた。


「よし、無事契約も済んだし、せっかくだからこのまま地下迷宮ダンジョンにでも行ってみようか?」


 僕の提案にオーロラは嬉しそうに頷き、ヴォーラとナギニも久しぶりに思う存分戦いたいと賛成してくれた。テオドールは……うん、まだ固まってるから勝手に連れて行こうか。


 僕は気合い十分のオーロラと手をつなぎ、口をぽかんと開けて固まっているテオドールの方に空いている方の手を置き、地下迷宮ダンジョン『宝石箱』へと転移した。






「ここは、何と言う地下迷宮ダンジョンなのですか?」


「ここは宝石箱ジュエリーボックスだね。62階層までしか行ったことがないけど、出てくる魔物はかなり強いですよ」


 オーロラに聞かれた僕は、ここの情報を伝えておく。


 それを聞いたオーロラは、更に気合いを入れ直し早速3体となった相棒達を召喚した。


「おいで、スノウ、ヴォーラ、ナギニ!」


 オーロラの足下に3つの魔方陣が現れ、そこにのオーロラの召喚獣である3体の魔物が召喚された。Aランクでレッドドラゴンのヴォーラ。SSランクでストームドラゴンのナギニ。そして、僕の進化と共にSランクのアルティメットグリフォンに進化したスノウ。改めて見てみると、オーロラ一人で一国を滅ぼすことができるほどの過剰戦力ではなかろうか?


 スノウは新しく仲間となったヴォーラとナギニに挨拶をしているようだ。ヴォーラは知り合いだけど、ナギニは初対面だからね。仲良くやってくれるといいんだけど。初めてスノウを見たナギニも、希少なアルティメットグリフォンという種族に驚いているようだった。


 

 一通り召喚獣達の挨拶が終わり、山の麓にポツンとある入り口に入ろうとして気がついた。ヴォーラとナギニ入れないじゃん……


 オーロラは気まずそうに先に中に入り、低階層を飛ばすため50階層に転移したところで、恥ずかしそうに再召喚していました。





 宝石箱ジュエリーボックスの50階層では、レベル90を超える魔物が現れる。ヴォーラはレベル90なので少々きつそうだけど、スノウはレベル95。こちらは同格の上に、スキルと加護が優秀なので十分互角に戦えそうだ。一方、ナギニはさすがの120。頭ひとつ抜けてるね。


 お、早速何か来たようだぞ。どれどれ、あれは……



種族 クリスタルゴーレム

名前 なし

ランク S

レベル 95

体力   1612/1612

魔力   503/503

攻撃力 923

防御力 905

魔法攻撃力 555

魔法防御力 962

敏捷    627


スキル

咆哮 Lv18

硬化 Lv19

土魔法 Lv15

土耐性 Lv15

雷耐性 Lv15

物理耐性 Lv16

魔法反射 Lv14

状態異常耐性 Lv20




 おお、いつぞやのクリスタルドラゴンの劣化版ではないですか。ステータス的にも丁度よさそうだし、オーロラ達に頑張ってもらいますか!


 クリスタルゴーレムは僕等を敵と認定したみたいで、雄叫びを上げながら両手を挙げて足をひとつ踏みならした。と言うか、あれは雄叫びじゃなくて魔法の詠唱みたいだ。みんなわかっているかな?


 案の定、オーロラ達の足下に土魔法第1階位"ストーンニードル"が迫ってきた。しかし、僕の心配をよそにオーロラ達も詠唱だとわかっていたようで、ナギニが風魔法第2階位"エアウォール"で防いでいた。その隙に、スノウとヴォーラがクリスタルゴーレムに迫る。どうやら、ナギニが防御に徹して、スノウとヴォーラで攻めるようだ。


 まずはオーロラの召喚獣強化を受けたスノウが正面から突っ込んでいく。そのタイミングに合わせ、クリスタルゴーレムが太い腕を振るったところで急停止し、魔眼を発動させる。クリスタルゴーレムは一瞬ビクッとなったものの、抵抗に成功したようで再び雄叫びを上げて魔法を唱えようとした。


 そこに背後に回り込んだヴォーラが炎のブレスを浴びせる。クリスタルゴーレムはさほどダメージは受けていないようだったが、詠唱が中断されたせいか怒りの矛先をヴォーラに変えた。だが、今度はスノウの風魔法第3階位"エアリアルブレード"が炸裂。相性の関係もあり、胴体に浅くはない切り傷ができた。


 クリスタルゴーレムには魔法反射のスキルがあるけど、どうやらスノウの魔法なら突破できるみたいだね。多分、ヴォーラの魔法も行ける気がする。


 後手に回ったクリスタルゴーレムが表情はまるで変わらないが、お返しとばかりにスノウに無数のストーンバレッドを撃ち出すが、またしてもナギニのエアウォールに阻まれる。だがそれは陽動だったようで、振り向きざまにヴォーラに向かって突撃した。


 魔法を放った直後の隙を狙っていたヴォーラはその突撃を飛び上がって躱そうとしたが、躱しきれずに尻尾をつかまれ地面に叩きつけられてしまった。追撃しようとしたクリスタルゴーレムに、慌ててナギニが風魔法第3階位"エアリアルブレード"をお見舞いすることで右腕を切り落とし、ヴォーラを解放することに成功した。その間にヴォーラは体勢を立て直し、クリスタルゴーレムに炎魔法第2階位"エクスプロージョン"を放つ。


 それと同時にスノウが風魔法第2階位"トルネード"を放つことで、エクスプロージョンの炎とトルネードの風が合わさり、巨大な炎の竜巻が完成した。期せずしてスノウとヴォーラの複合魔法の完成だ。


 そして、炎の竜巻が収まったあとには、身体中に傷を付け所々が溶けてドロドロになり、片膝をついて蹲っていた。かなりのダメージを負ったようだけど、相変わらず表情に変化はない。ゴーレムだから当たり前だけど。ただ、二人同時に相手をするのは不利だと悟ったのか、クリスタルゴーレムはすくっと立ち上がると傷を負ったヴォーラめがけて走り出した。


 しかし、慌てず騒がずヴォーラはそのクリスタルゴーレムを十分引きつけたところで、再び炎のブレスをお見舞いした。


 至近距離からのブレスにかろうじて防御は間に合ったようだが、クリスタルゴーレムは後方へと吹き飛ばされる。そこに待ち構えていたスノウが、エアリアルブレードで切り刻んで試合終了だ。


「スノウ、ナギニ、ヴォーラ、お疲れ様!」


 無事にクリスタルゴーレムを倒した3体を笑顔で労うオーロラ。そして、すぐに傷を負ったヴォーラを聖魔法で治していく。その様子をテオドールは顔を引きつらして見ていることしかできなかったようだ。それもそうだよね。オーロラを怒らせたら、帝国が滅んじゃうくらいの戦力だから。


 その後も、オーロラと召喚獣の仲間達はゴーレムを中心に狩り続け、僕も素材をたくさんもらってほくほく顔で地下迷宮ダンジョンデートを楽しんだのでした。

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