第122話 武闘大会 ④
審判の男性のかけ声で試合が始まった。
「オラオラオラオラ!」
開始早々ダライアスが槍の猛攻を仕掛けた。しかし、その全てがサヤカの結界に阻まれる。
「くそ、聖女の結界は全てを防ぐか。なら壊れるまで攻撃するだけだ!」
おおう、何という脳筋の考え……ってか、お前さんの攻撃力じゃ一生かかっても壊れないぞ。
そこから大体1時間、ひたすらダライアスが結界を叩く姿を見せられた。何だこの拷問は。
観客達も飽きていて、トイレに行ったり食べ物を買いに行ったりしてる。
結界の中のサヤカなんか本を読んでるぞ……
それにしても、1時間も攻撃を続けるなんて根性あるな。普通だったら飽きるだろうに。いや、別の方法を考えるか……
そして、いよいよダライアスが万策尽きたところでサヤカが動いた。
「降参します」
うおおーい! このタイミングで降参かよ! 全く何しに来たのだか……いや、でもダライアスの疲れ切った様子を見たら、どちらが格上かは一目瞭然か。ある意味上手いこと聖女の力をアピールしたってことなのか。
「勝者、ダライアス!」
勝ったダライアスも納得のいかない表情をしてるけど、まあ準決勝に残ったんだから喜ばしいことなんじゃないかな。観客達は呆然としてるけど。
さてと、ここまでずいぶん長かったけど、ようやく僕の出番か。相手はこの武闘大会を開催した張本人だね。全ての国を支配するなんてバカな考えは叩き潰すとして、どうやってやろうかな。
力の差を見せつけるにしても、上手くやらないとハヤトみたいに悪者になっちゃいそうだからね。オーロラも観客席で見てるみたいだし、いっちょ格好いいところを見せるとしますか。
案内の人に名前を呼ばれた僕は、先に出たヨルムガンを追いかけるように控え室を後にした。
「第4試合、ヨルムガン 対 フォッグ、始め!」
審判の開始の合図の後も、僕らは睨み合ったまま動かなかった。おそらくヨルムガンが動かないのは、人族(に見える)の僕を格下だと思っているからだろう。格下相手に自分から動くのは、プライドが許さないといったところか。
一方、僕が動かないのはヨルムガンに聞きたいことがあったからだ。
「なぜ他の国を支配しようとする?」
そう、なぜ竜人達が他の国を支配しようとしているのか、寡黙な剣士風に尋ねてみる。
「最強である我ら竜人族が、貧弱な他の種族どもを守ってやると言っているのだ。素直に従えばよいのだよ」
「守る? 搾取するの間違いでは?」
「グフフ、そうとも言うな。だが、死ぬよりはましではないかな?」
ダメだな。全く話にならない。こいつはやっぱり身体に刻み込んでやった方がよさそうだ。そもそも、お前達は最強ではないということを。
僕は会話はこれで終わりと言わんばかりに、剣を抜き構える。ブラウン師匠の教えの通りに、右足を引き重心はやや前に置く。剣先が見えないように、腕を下ろし身体で剣を隠すのが僕の構えだ。
対するヨルムガンは一応槍先をこちらに向け、腰を落として構えてはいるが、どうやら先手は譲ってくれるようだ。
ならば先に攻撃させてもらおうか。相手は待ってくれているのだから、十分にためを作り腰から力が伝わるように剣を斜め下から振り上げた。
キン!
乾いた金属音がして、ヨルムガンの槍の真ん中に一本の筋が入る。その筋が段々とずれていき、ヨルムガンの槍の半分が地面へと落ちた。
「ハヘェ?」
真ん中からスッパリと切れた槍を見て、ヨルムガンの口から変な声が漏れる。
観客席からもどよめきが起こる。おお、オーロラも驚いているみたいだ。探知で居場所はわかってるからね。むっ、隣にいるのはテオドールか? ちょっと距離が近いんじゃないかな。
なんてよそ見をしてたら、ヨルムガンが慌ててブレスを放ってきた。まあ、武器がないからそうなるよね。この程度のブレスなら受けても問題ないけど、ここも格好よく防ぐために準備していたウォーターウォールを展開する。
僕が創り出した水の壁は、ヨルムガンのブレスを完全に防ぎ切った。僕はそこからさらに
この水のドラゴンに内包された魔力の量を感じ取ったのか、ヨルムガンが一歩、二歩と後ずさる。
水の壁がドラゴンに変化したことで、観客席も大盛り上がりだ。ふふふ、ハヤトとの試合とは大違い! 僕に対する黄色い声援まで聞こえて来る。
竜人のブレスは連発できないのか、ヨルムガンは攻撃する術を失いどうしようもできないようだ。畳み掛けるならここだね。
僕はヨルムガンの背後に
その気配に気がつき、背後を見たヨルムガンの顔が絶望の色に染まる。染まってるよね? 竜人の顔色はわかりづらい。
前門のドラゴンと後門の虎が咆哮をあげ、ヨルムガンへと襲いかかった。
「降参する……」
ヨルムガンの宣言に、噛み付く寸前だったドラゴンと虎が霧散する。まるで映画のワンシーンのように美しい決着に、観客達は感嘆し、そして大歓声をあげた。
僕はその声援に応えることなく、クールに闘技場を去る。チラッと頭の中に浮かんだ『明日は服を幻惑で……』なんていうとんでもない思いつきを振り払いながら。
そして控え室に戻った僕は、誰も残っていない部屋を見ながらこう思った。
(みんな帰るの早いなと……)
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