第121話 武闘大会 ③
本日は武闘大会の2日目。昨日は一回戦の4試合があったが、僕は運良くシードだったため試合はなかった。たがしかし、今日は4試合目に昨日、イグニートさんに勝利したヨルムガンと戦うことになっている。
朝早くに自宅から王都に転移し、街をぷらぷら歩きながら闘技場へと向かっていると、朝から露天で串焼きを食べているオッチョさんに出会った。
(よし、せっかくなので話しかけてみよう!)
「おはようございます」
寡黙なキャラに慣れてしまったせいか、これしか言葉が出てこない!
「ん~、おはようなんだなぁ」
しかし、僕の心の葛藤などどこ吹く風。マイペースなオッチョさんに癒される。
「オッチョ殿、いやオットーどのはなぜこの大会に参加してるのだ?」
実はこれが聞きたかったんだよね。オッチョさんって元はSランク冒険者だけど、引退してひっそりオーク亭で働いていたんだよね。
ある意味僕が目指すスローライフを体現していたと思うんだけど、なぜ今になってこんな目立つ大会に参加したんだろうって疑問に思ってたんだ。
「ん~、この国の存亡がかかってるからって、王様に頼まれたら断れないんだなぁ。オラの店がなくなっても困るしなぁ〜」
ほー、そりゃ国の存亡がかかってたら僕でも断れないか……えっ? この大会に国の存亡なんてかかってるの? 聞いてないんだけど。
予想外の回答に驚いて、思わず詳しく聞いてしまった。
オッチョさんによると、この大会は魔王と教皇がいなくなったのを知った竜人族が提案した大会なんだとか。この大会で竜人族が優勝したら、竜人族がトップとなって全ての国を支配下に置くと宣言したそうな。
なんとびっくり。半分僕のせいでした……
竜人族としては武力で制圧してもよかったのだが、数少ない竜人族の人数を減らしたくなかったのか、こんな提案になったのだとか。
もちろん他国にとっては許されることではないのだが、竜人の強さを考えると断るわけにもいかず、各国とも最強と呼ばれる人材を派遣して、必死に阻止しようとしているというわけか。
まあ、結局竜人国から参加した二人は昨日勝ってるわけだし、今のところ思惑通りになってるのね。
だけど彼らの今日の相手は……アジダハはハヤトとヨルムガンは僕とだよね。これ二人とも勝てないでしょ。負けたらどうするんだろう? 撤回するのかな? やけになって戦争を始めたら面倒だ。戦争を起こす気もなくなるほど、コテンパンにやっつけてやるか。
僕は色々教えてくれたオッチョさんに、お礼の串焼きを渡して一足先に闘技場に向かった。
「本日の第一試合はハヤト 対 アジダハ、始め!」
闘技場に着いてからまもなく、第一試合が始まった。審判の男性が言った通り、魔人族のハヤトと竜人族No.2のアジダハの試合だ。
ハヤトは槍を、アジダハは片手剣を持って構える。あっ!? ハヤトが持ってる槍は魔王が持ってたやつだ!
アダマンタイトで創られた貴重な槍のはずだよね。ちゃっかり拾ってたのか。まあ、僕は拾い忘れたんだから仕方がないか。
さて、試合の方はと言うと、ハヤトは"鑑定"を持っているからね、アジダハのステータスもスキルも把握しているのだろう。
そこに間違いがないか、慎重に戦いながら確かめているみたいだ。
そんなハヤトの思惑に気がついていないアジダハは、今は気持ちよく攻めている。ハヤトが防戦一方だと思っていそうだな。
アジダハの連続突きをアダマンタイトの槍で逸らし、炎属性のブレスはダークウォールで防いでいる。明らかに余裕を持った対処の仕方に、控え室で試合を見ているヨルムガンの表情が険しいものへと変わっていく……ような気がする。竜人の表情はわかりづらいから。
しばらく気持ちよく攻めさせたハヤトが、ぼちぼち反撃に出るようだ。
槍スキルの突きを前に出ながら躱し、驚いているっぽい雰囲気を出しているアジダハの胸を、すれ違いざまに柄の方で強打した。
「グボァ!」
防御力の高い竜人が明らかにダメージを受けている。あれは単純な腕力か? それともスキルなのか?
どちらにせよ、大きなダメージを負ったアジダハは地面に片膝をついてしまった。
だが、ハヤトはこのチャンスに追撃するわけでもなく、槍を肩に担ぎながらニヤニヤとその様子を眺めている。
なるほどね。ハヤトも竜人族の思惑は承知しているというわけか。僕と同じように、戦争を起こす気もなくなるほどの、実力差を見せつけるつもりだな。
案の定、立ち上がったアジダハにまた攻撃させ、カウンターで強烈な攻撃を叩き込んでいく。毎回、柄の部分で。その度にアジダハの鱗がへこみ、ひび割れ、飛び散っていく。
最早、試合というよりは一方的に痛めつける展開に、観客達も盛り上がるどころか、息を呑んで見つめている。
最後は満身創痍のアジダハが、なんとか立ち上がろうとするが意識を失い倒れたところで試合が終了した。
「勝者、ハヤト!」
本日最初の勝利なのに、観客が盛り上がっていない。やっちまったなハヤト。槍を高々と挙げて勝利宣言した顔が引きつっているぜ。
危なかった。僕も同じようになるところだった……
「やっぱり魔人の印象がよくなかったのか……」
控え室に帰ってきたハヤトがサヤカに愚痴を言っている。
「あなたの戦い方が悪かったんじゃなくて?」
おっと、ズバッと言われハヤトが落ち込んでしまった。何だか夫婦漫才を見ているようだが、あまりじろじろ見るのも失礼か。
僕は次の試合が始まる闘技場の方に目を向けた。
「第二試合、ルサール 対 オットー、始め!」
おっと、オットーさんの試合だ。いや、オッチョさんか? まあ、どっちでもいいか。この試合でオッチョさんの本気の姿が見られるのかな? 楽しみだ。
「伝説のSランク冒険者があなたのような『豚』でしたとは少々がっかりですわ」
またしてもルサールが試合前に相手の神経を逆なでするようなセリフを発している。これはあれか、そういう性格なのか?
「ん~、よくオラが豚の獣人だとわかったんだなぁ」
しかし、オッチョさんにもルサールの煽りは全く効いていないようだ。むしろ、種族を当てられて感心しているそぶりさえ見える。
「そ、そういう意味で言ったわけでは……」
むしろ、ルサールの方がダメージを受けてないか?
「あんまり動くとお腹が空いちゃうんだなぁ。すぐに終わらせてもらうよぉ。覚醒なんだなぁ」
オッチョさんが覚醒と叫んだその瞬間、元々小太りだった身体がさらに巨大化した。縦にも横にも巨大化したオッチョさんだったが、その脂肪の塊の内側にはとんでもないパワーを秘めていそうだ。この状態を鑑定してみると……
種族
名前 オットー・ハンバーグ
ランク SSS
レベル 150
体力 2044/2044
魔力 0/0
攻撃力 2311
防御力 2578
魔法攻撃力 0
魔法防御力 2432
敏捷 1896
スキル
覚醒
ステータス隠蔽 Lv25
棍術 Lv25
称号
古の種族
わお! すごいなオッチョさん! これズメイに迫る勢いだよ。レベル150というのもすごいな。どうやってそんなに上げたんだろう?
これは決勝戦の相手が決まったな。ふふ、何だか楽しみになってきた。
試合は一瞬で終わった。オッチョさんがかなり素早い動きでルサールの背後に回り、手にした棍で首元を打ち付けハイ終了。手加減も絶妙だった。
観客達も何が起こったのかわからないまま、崩れ落ちるルサール。
オッチョさんもいつの間にか元の姿に戻り、懐から取り出した串焼きを食べながらこちらへと戻ってきている。
「しょ、勝者、オットー!?」
審判の男性にも見えなかったか。無理もない。敏捷1896。普通の人どころか、一流の冒険者にも見えてなかっただろう。ほら、ハヤトも驚いた顔をしている。何せSランクのハヤトですら敏捷は600ちょい。3倍以上だもんね。
あっ、ちなみに僕の敏捷は3062。今のオットーさんの攻撃もあくびをしながら躱せるレベルだ。
しかし、オッチョさんはいつも何かたべてるねぇ。主に串焼きを。
っと、次の試合は……っと
「第三試合、サヤカ 対 ダライアス、始め!」
そうだ、サヤカの試合だった。
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