第123話 武闘大会 ⑤

 昨日は竜人国No.1とやらのヨルムガンをコテンパンにやっつけてやった。No.2のアジダハとやらもハヤトにメタメタにやられていたから、もうあの二人は変な気は起こさないだろう。


 そして今日は武闘大会最終日。ハヤトとオッチョさんの試合と僕とダライアスとの試合が行われ、勝った二人が優勝をかけて戦う。


 そう言えば、何も聞いてなかったけど、これ優勝したらなんか貰えるのかな? まさか、タイヨウと戦える権利だけじゃないよね?


 ちょっと微妙な気持ちになりながら、今日も闘技場へと向かう。


 控え室にいたのは勝ち残っている四人だけ。ただ、負けた八人も観客席にいるようだ。ヨルムガンとアジダハまで残ってるのは意外だな。さっさと帰ると思ってたのに。


 さてと、今この控え室には緊張感が漂っている。そして串焼きの臭いも漂っている。オッチョさん、マイペースすぎだろう。

 緊張しているのはハヤトとダライアスだ。さすがに昨日の試合を見て、お互い対戦相手の実力に気がついたのだろう。ハヤトの方は武者震いといった感じだけど、ダライアスに至っては悲壮感が漂っている。


 しかし、控え室がどんな状況であれ、時間は進んでいくもので、案内の男性がハヤトとオッチョさんを呼びに来た。ハヤトは無言で拳を打ち鳴らし、魔王の槍を持って控え室を出て行った。


「さて、行ってくるんだなぁ~」


 オッチョさんは入り口付近にいた僕にそんな言葉を投げかけて、ゆっくりと歩いて出て行った。うん、余裕があるね。


「本日の第一試合、ハヤト vs オットー、始め!」


 残念ながら、審判の男性の開始の合図の前にオッチョさんは"覚醒"を済ませており、覚醒前の一瞬を狙おうとしたハヤトの作戦は不発に終わったようだ。ハヤトが舌打ちしているからわかっちゃったよ。


「お前さんも相当強いんだなぁ。オイラと彼がいなければ、優勝だったんだなぁ~」


 おおっと、オッチョさんから話しかけるとは。それだけハヤトの実力を認めているということか。そしてその彼って言うのは僕のことだよね? 今チラッとこっちを見たし。


「まあ、そうかもしんねぇな。でもよ、やってみなけりゃわからないこともあるぜっと!」


 ハヤトが会話の途中で雷魔法第2階位"インドラジャッジメント"を放った。完全なるだまし討ちだが、実力差を考えれば誰も卑怯とは言うまい。


 激しい音とともにオッチョさんの頭に稲妻が落ちるが、彼は何事もなかったように動き出し、手に持つ棍を軽く突き出した。


 オッチョさんにとっては軽くでも、ハヤトにとっては致命傷になり得る速度と威力を伴った突きを、ギリギリ身を捻ることで躱し、その勢いを利用してアダマンタイトの槍を橫薙ぎに振るう……が、そこにすでにオッチョさんの姿はなく……ハヤトは咄嗟に空へと逃げた。


 ゴォォォン!


 直前までハヤトがいた場所にオッチョさんの棍が振り下ろされ、地面に大きなクレーターを作る。


「今のを躱すとは勘がいいんだなぁ」


 今のハヤトの動きに、オッチョさんが感心したように呟いている。しかし、その動きは止まることなく大きく跳躍したオッチョさんは、ハヤトの頭上を簡単にとり、空に逃げた魔人を棍でたたき落とした。


 ズガァァァァン!


 先ほどのクレーターの橫にもう一つ大きなクレーターができてしまった。


「ゴォハ……」


 一応、腕で防御はしたみたいだけど、その腕は明らかに変な方向に曲がっているし、ハヤトの口からは血が溢れ出ている。


「まだやるのかなぁ?」


 オッチョさんの問いかけにハヤトは……


「参った。完敗だ」


 素直に負けを認めた。





 オッチョさんとハヤトの試合が終わるとすぐに、救護係の人が駆けつけ、ハヤトの傷を治し始める。よかった、ちゃんと治してくれる人達がいて。あっ、サヤカがかけつけたようだ。これなら安心だね。


 ハヤトが治療している間に、オッチョさんが先に控え室へと戻って来る。何か声をかけようとも思ったがやめた。どうせ後で語り合うことになるだろうから。


 少しするとハヤトの治療も終わり、少しふらつきながらも控え室へと戻ってきた。結果は負けだけど、思いの外晴れやかな顔を見せている。


 一度負けたくらいでは心が折れないのが、彼の本当の強さなのかもしれないね。


 さて、次は僕らの番だ。先に闘技場の中央で待つダライアスの元へ、ゆっくりと歩いて行く。それだけで大きな歓声が上がる。

 それだけ注目されているということか。大丈夫、余計なことは考えるな。目の前の敵に集中しよう。


「第二試合、ダライアス 対 フォッグ、始め!」


「きょえぇぇ!!」


 なんか開始早々奇声を上げて突っ込んできた。どうした第2皇子? 気が狂ったのか?


 あっ、もしかして今までの戦いを見て、その戦力差に気が触れてしまったのか!?


 そこそこイケメンだったために、多くの女性ファンがいたみたいだけど、みんな口をぽかんと開けて唖然としているぞ。


 テオドールも幽霊でも見たような、驚きの表情だ。あと、オーロラとちょっと近い。


 さて、思考加速があればこの程度考えるのなんて余裕のよっちゃんだけど、さすがにそろそろ目の前に来たから対処するか。


①奇声を上げながら放ってきた突きを、右に動いて躱します。

②横を通り過ぎるところに右足を差し出して足を引っ掛けます。

③勢いよく転びます。

④倒れたところにとどめを……あら、槍の柄が鳩尾に入ってピクピク痙攣している……

⑤終了です。


「勝者、フォッグ!」


 なんか、ダライアスの人気を落とすような結果になって、申し訳ない気持ちになった。できれば、しばらく気絶したままだといいんだけど。


 まあでも、仕方がないと割り切って、決勝戦に臨もうか。ダライアスが運ばれて、入れ替わるようにオッチョさんが姿を現した。


 そして、いよいよ決勝戦が始まる。

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