第115話 Cランク昇格試験
「さて、今日は先に商業ギルドに行くとするかな」
昨日、イグニートさんが来た時に、商人ランクと冒険者ランクが上がるという話を聞いた。じゃあどちらを先にと考えた時、冒険者ランクの方は試験があるから、先に商人ランクを上げようと思ったわけだ。
僕は子どもの姿になって、意気揚々と家を出た。
「すいません。商人ランクが上がると聞いて来たんですけど」
僕はいつぞやの優しそうな受付のお兄さんを見つけ、その窓口で用件を告げる。
「ああ、キリさんですね。少々お待ちください」
受付のお兄さんは、相変わらずの優しい笑顔で対応してくれる。うん、安心感があるね。受付のお兄さんは、何やら書類を確認し、頷いたかと思うと一度奥へと引っ込み、手に何かを持って帰って来た。
「キリさんのお店で、きちんと取引が行われていることが確認できました。こちらが
受付のお兄さんが、優しく、わかりやすく説明してくれた後に、くすんだ銀色のカードを手渡してくれた。これで僕もいっぱしの商人になったわけだ。また、次のランク目指して頑張ろう!
商業ギルドで無事ランクアップをはたした僕は、いったん自宅へと帰り、フォッグの姿になって冒険者ギルドへと向かった。
カロンコロン
小気味よい音を立てて、冒険者ギルドの扉をくぐる。相変わらず、やたらと視線を感じるけどそれらを無視してすぐに受付へと向かう。
僕が向かった受付の席を、なぜかお姉さんが取り合っているように見えるのは気のせいだろうか。
その取り合いに勝利した、ちょっと体格のよいお姉さんが息を切らせながら聞いてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ、ようこそ冒険者ギルドへ! 今日はどのようなご用件ですか?」
はぁはぁ言ってるお姉さんが、ぐいっと顔を近づけながら迫ってくるのはなかなか怖いものがあるな。
「ランクアップ試験。それとギルドマスターに呼ばれている」
今日もクールに端的に用件を伝える。
「はい、お伺いしております。ギルドマスターはただいま来客中ですので、先にランクアップ試験を受けていただいてよろしいでしょうか?」
「構わない」
なぜか、やたらとネームプレートをいじりながら説明をする受付のお姉さんに短く返答する。
「それでは、試験官を探して『その試験、オレ様が引き受けよう!』……ウルグルさん!?」
受付のお姉さんが試験官を探しに行こうとしたら、突然後ろから大きな声で会話に割って入って来た人物がいた。
振り返るとそこには、身の丈2m程ある狼の獣人が腕を組んで立っていた。彼が会話に割って入って来た張本人であろう。
受付のお姉さんは『ウルグル』と言ったかな。名前に聞き覚えはなかったけど、どこかで見たような……ああ、この間、イグニートさんとゴーダさんが店に来た時にいた客だね。顔は隠していたみたいだけど。
「Cランクの試験官を探してるんだろ? このオレ様がたまたま空いていたからな、相手をしてやろうじゃないか! 何も問題ないだろう?」
たまたまどころか、絶対あの時の話を盗み聞きしてて、狙って来たに違いない。理由はわからないけど、あの時もゴーダさん達が帰ったら、すぐに何も買わずに出て行ったからね。
「ウルグルさんはAランクじゃないですか。いつもは面倒くさいと言って、引き受けたことがないのに急にどうしたんですか?」
ほらみろ、受付のお姉さんだって何かあると疑ってるぞ。
とは言え、Aランク冒険者とやらの実力を測るいい機会でもあったり?
「うぐっ。いや、いつもは忙しくて……でも、今日だけは暇してて……」
いやもう面倒くさいからこいつでいいや。どうせAだろうがBだろうが、僕にとっては誤差の範囲だろうし。
「構わない」
僕は了承する旨を受付のお姉さんに伝え、さっさと訓練場へと向かう。
しかし、ウルグルが大騒ぎしたせいで、ギルド内にいた冒険者のほとんどがギャラリーと化して、悠々と歩くウルグルについてくる。これは面倒に巻き込まれないように、終わったらすぐギルドを出なければ。
僕は先に訓練場に足を踏み入れて、勝手知ったるように木樽から木剣を取り出して一振りする。
遅れて来たウルグルは、ギャラリーに手を振りながら訓練場へと入って来た。確か、前の登録試験で戦ったカクドンですら、僕の素振りを見て顔色を変えたというのに……
あー、こいつはそこにいる獣人の女の子を見て鼻の下を伸ばしている。Aランクらしいけど……駄目そうだな。さっさと終わらせよう。
受付のお姉さんがウルグルに、くれぐれもランクアップ試験なので手加減するように言い聞かせている。ありがとうお姉さん、でも必要ないよ……
ウルグルが両手にナックルを嵌め、お互いの準備ができたところで、受付のお姉さんが始めの合図を出す。
ウルグルが前に飛び出そうと重心を移したところで、そのまま地面へと倒れ込んだ。僕がすれ違いざまに放った突きが鳩尾に入ったからだろうけど。
僕は試験官を倒せば合格だと知っているので、唖然とするギャラリー達を背に、そのまま受付へと行って新しいギルドカードを催促する。
できれば大騒ぎになる前にもらいたいものだ。
だけど僕の希望も虚しく、倒れたウルグルを放置して騒ぎ出した冒険者達に囲まれ、パーティーへの熱烈な勧誘を受ける羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます