第114話 武闘大会参加依頼
ゴーダさんと取引が済んだ3日後、この日は朝からそこそこお客さんが来てくれていた。中には冒険者風の獣人さんまで来てくれている。顔はスカーフのようなもので隠していたからわからなかったけど、あの身のこなしならかなり強い部類に入るんじゃないだろうか?
お店に来てくれたお客さんを眺めながら、時折会計をしていると入り口からかなり目立つ二人組が入ってきた。ひとりついこの間取引したばかりの、ドワーフのゴーダさんだ。もうひとりは知らない人だな。いや、人というか竜人じゃないのかな、あれ。
「失礼するよ。私の名はイグニート。こっちにいるのは知っていると思うがゴーダという」
イグニートと名乗った竜人の紹介に、ゴーダさんが右手を挙げて応える。その顔は昨日より険しく見えた。僕は軽く会釈をして、改めてイグニートへと向き直る。
「初めまして、キリと申します。ここ万屋の店長をやらせていただいております」
自分で言ってて子どもらしくない挨拶だったなと反省する。
「突然の訪問ですまない。少々、お時間をもらえないだろうか?」
ゴーダさんがいるから薄々感じていたけど、どうやら素材を買いに来たのではなさそうだ。
「もうすぐお昼休憩に入りますので、その時でしたら大丈夫ですよ」
「ありがとう。それじゃあ少し商品を見ながら待たせてもらうよ」
そう言ってイグニートは、いや年上っぽいからイグニートさんか? イグニートさんは机に置かれている値札を眺め始めた。
その後、別のお客さん2人に素材を売ったところでお昼休憩の時間が来たので、イグニートさんとゴーダさんを別室に案内し話を聞くことにした。
話は主にイグニートさんがして、ゴーダさんは仏頂面で聞いている。その話を簡単にまとめるとこういうことだった。
近々、国際的な武闘大会が行われる。そこに『万屋』の専属冒険者であるフォッグに出場を依頼したい。本当は直接話をしたくて冒険者ギルドで待っていたのだが、会えなかったのでこっちに来た。その武闘大会には、竜人国、王国、帝国、聖国、それに過去に一度も参加などしたことのない魔王国、そしてここ共和国の6カ国が参加する。
各国2名ずつ代表を出し、トーナメントで強さを競い合う。優勝者には多額の賞金と前大会の優勝者である、タイヨウ・ミカドと戦う権利が得られる。
と言うことだ。うん、タイヨウと戦う権利とかいらねぇ……
共和国からはイグニートさんが出場するのが確定しているが、もうひとり捜しているところにフォッグの噂を聞いたので、その打診に来たというわけだ。
イグニートさんが話している間、時々ゴーダさんの顔を確認していたのだが、終始渋い顔をしていた。どうやら、今話してくれた以外にも何か重要なことが隠されているのかもしれないね。
「ちなみに、各国の参加者が誰かなんていうのはわかったりしているのですか?」
武闘大会にはそれほど興味はなかったけど、各国の代表者というのが気になった。もしかしたら、知り合いが出るかもしれないからね。
「はっきりとわかっているのは、開催が決まってすぐに名乗りを上げた竜人国と今回突然の参加を決めた魔王国だな。竜人国は竜人族の族長であるヨルムガンとNO.2のアジダハだな。魔王国は、突如新しく魔王になったと宣言したハヤトという魔人とNO.2のルサールという魔人だ。
それ以外ははっきりしていないが、王国は、今は引退している王国最強の元Sランク冒険者が出てくるのではないだろうか。帝国は最近きな臭い噂しか聞かないが、第2皇子や部隊長クラスが考えられるな。聖国も最近になって教皇が変わったみたいで、情報が全然ないのだがブライアン辺りが第1候補だろう」
ほほう。ハヤトが出るのは確定か。それにちょこちょこ聞いた名前が出てきたから、お祭り気分で参加してみるのもいいかもね。その間、店を閉めなきゃいけないけど、ひょっとしたらオーロラやテオドールに会えるかもしれないしね。
まだ会いに行くのは早いと思っていたけど、武闘大会で偶然見かけるくらいならいいかも。まあ、来るとは限らないけど。
ちなみに開催場所はヴァルデリン王国だそうだ。
とりあえず、なんか面白そうなので参加してみることにしよう。
「わかりました。フォッグに伝えておきます。明日の月の日に、冒険者ギルドに顔を出すように言っておきますね」
僕がそう伝えるとイグニートさんはにやりと笑った。あっ、竜人の笑い顔を見たことがないから、僕がそう思っただけかもしれないけど。
ゴーダさんは僕があまり嫌がる姿勢を見せなかったからか、少しホッとしたように顔の険が取れたように見えた。
イグニートさんとゴーダさんは用が済んだとばかりに席を立つ。そこでイグニートさんが思い出したように、追加の情報を伝えてくれた。
「そう言えば、商業ギルドのオースウェンと冒険者ギルドのギラデルから伝言です。オースウェンからはキリさんに商業ギルドに来てほしいと。どうやら商人ランクが上がるようですよ。それからギラデルからはフォッグさんに、ランクアップ試験を受けてもらいたいと伝えてほしいそうです」
お、二人ともランクアップできるのか。これは嬉しいかも。
「わかりました。フォッグには明日ギルドに行ったときに試験を受けるように言っておきます。僕も時間を見つけて商業ギルドに行ってみますね。ランクは上げておきたいので」
ランクアップはしておきたいので、そう答えておく。
それを聞いて、今度こそ用は済んだとばかりに二人は店を後にした。
よし、明日はフォッグもキリもランクアップだ!
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