第113話 トロンバレン評議会
~side ???~
「それでは第33回評議会を始める」
ここはトロンバレン共和国の首都トロンバレンのとある会議室。
ここでは週に一度、各組織の代表6名が集まり共和国の運営について話し合っている。
そのメンバーはと言うと……
・総括部代表―――――イグニート
・冒険者ギルド代表――ギラデル
・商業ギルド代表―――オースウェン
・錬金ギルド代表―――シルフィ
・鍛冶ギルド代表―――ゴーダ
・警備部代表―――――ウルグル
の6名だ。
本日の司会は私
「まずは先週からの引き続きの議題についてだが……」
「いい人材でも見つかったか?」
私が議題の確認を行おうとしたのを遮り、ウルグルが半ば挑発するかのように発言する。
「いや、それはまだだな」
実はこのトロンバレン共和国は現在進行形で、頭を悩ませる問題を抱えている。それは先週突然、竜人国アルティメイトからとんでもない要求が来たことに始まる。
その要求とはこのトロンバレン共和国にいる竜人全てを、アルティメイトに移住させろというものだった。
その背景には魔王と教皇の死が絡んでいるらしい。竜人でもおいそれとは手を出せないでいた強者二人が相次いで死亡。その情報が入って来るや否や、竜人国は他の全ての国に統一宣言を発した。それは、竜人が全ての国を治めるというとんでもない内容だった。
当然、他の国は反発したが竜人国はそれを武力で抑えようとしている。そのため、多くの戦力が必要となり、この共和国に住む竜人達が目をつけられたというわけだ。
もちろん共和国に住む竜人達は反発した。彼等は竜人主義の自国が嫌になって出てきた者ばかりだったので、反発するのは当然だった。
ヤツらが力ずくで来たら、さすがに敵わなかったのかもしれないが、共和国に住む竜人はそれほど多くはないとは言え、彼等の戦闘力は侮れない。争いとなれば竜人国もダメージを負う可能性がある。他国と戦争になる可能性もある中、それは避けたかったのか、竜人国からある提案がなされていたのだ。
『各国の代表を集めて武闘大会を行う。そこで我らの代表に勝てたならば、今回の要求はなかったことにしよう』と
私ははすぐさま自分が参加する意思を示した。現状、この国の最高戦力は私だからだ。だが私でも、竜人国の長に勝てるかといえば難しい。そこでこの評議会ではその武闘大会に出場し、竜人に勝てる者を探しているのだが状況はあまりよくない。
だが今日はそこに一石を投じる者がいた。
「ワシに一人心当たりがあるんじゃがいいだろうか?」
鍛冶ギルド代表のゴーダだ。
「む、あなたが発言するとは珍しい。竜人と戦っても勝てる見込みのある強者を見つけたとでも?」
私は『国のことはわからんわい』と言っていつも会議中は居眠りをしているドワーフが、急に発言してきことに少々驚いていた。
「ああ、ワシが推薦したいのはまだDランクの冒険者なのじゃが……」
「はっ! Dランクの冒険者だと!? バカも休み休み言え! それならオレ様が出た方がまだましじゃねぇかよ!」
ゴーダの話を遮ったのはまたも獣人のウルグルだ。本当にこいつは人の話を最後まで聞かない。
「控えろウルグル。まだゴーダの話の最中だ」
私がひとにらみすると、ウルグルは渋々といった感じで引き下がった。悪いやつではないんだが、すぐ頭に血が上るというか何というか。
「あー、続けるぞい。そいつはまだDランク冒険者なんじゃが、どうやらクリスタルドラゴンを単独で討伐したみたいなのじゃよ」
「なんだと!? クリスタルドラゴンをひとりで倒しただと!? ふざけるな! そんなやつがいるはずない!」
引っ込んだと思っていたウルグルがまたも大声を上げる。しかし、今回はそれを咎める者はいない。なぜならみな同じことを思っていたからだ。
「じゃが、実際にそいつはクリスタルドラゴンの爪を持ってきたからの。いや、正確にはそいつに依頼をかけた商人から受け取ったんじゃが、同じことじゃろ」
しかし、ゴーダはウルグルの発言も、我々の疑うような視線も涼しい顔で受け流し、クリスタルドラゴンの爪を受け取ったと言っている。鱗ではなく爪を。
「嘘つけ! 鱗ならともかく、爪を持ってこれるはずがねえ! 鱗と違って爪は生え替わらねぇからな!」
「じゃから、倒してといっておるじゃろ。実際ワシは爪を受け取った。今それで剣を創っている最中じゃからな。それは間違いない。ワシは情報を提供しただけじゃ。後はお前さん達が考えるがいい」
ゴーダは自分を信じないメンバーにイラッとしたのか、ふて腐れたように腕を組んで目を瞑り黙り込んでしまった。
にわかには信じられない情報だが、これが真実なら一考の余地があるどころか、今すぐにでもその人物を探しに行きたいくらいだ。ゴーダ以外のメンバーが自分達の考えに浸っていると、商人ギルド代表のオースウェンがゴーダに向かって問いかけた。
「ゴーダさん。もしやその冒険者に依頼した商人は『キリ』と言う名前ではありませんでしたか?」
オースウェンが聞いたのは、その冒険者のことではなく、冒険者に依頼した商人の名前だった。ひょっとして、商人の情報網で何か知っているのか?
「おお、オースウェンも知っておったか! そうじゃ、その通りじゃ。そいつに依頼したのは『キリ』という名の小僧じゃったよ。いや、小僧は失礼じゃったな。やつは立派な商人じゃったよ。んで、キリはフォッグと専属契約をしていると言っておったな」
質問したオースウェンが『やはりそうでしたか』と呟く声が聞こえた。これは何かを知っているに違いない。すぐに聞き出さなくては。
「オースウェンはその冒険者について何かご存じなので?」
私の質問に少し間を開けてオースウェンは話し始めた。
「はい、私が知っているのはその『キリ』という少年の方なのですが、その少年は少し前にとある男性の娘に『神霊水』を渡した人物なのですよ」
「神霊水だと!? んな伝説の代物どっから持ってきたんだよ!?」
大人しくしていると思ったらまた騒ぎ出した。まったくウルグルは、いちいち大声を出さないと気が済まないのだろうか。
「私もそれを疑問に思ってたのですが、今の話を聞いて納得しました。クリスタルドラゴンを倒せるほどの冒険者を抱えているなら、神霊水を手に入れることもそう難しいことではないでしょう」
「ほう、神霊水ですか。それは私も興味がありますね」
今まで静観していた錬金ギルドのシルフィが、神霊水に興味を示す。まあ、立場上わからなくはないが今はそれを追及する場面ではない。後で個人的に聞いてもらおう。それより……
「ギラデル、その冒険者について何か情報はないのですか?」
そう、そのような冒険者がいるならギルドマスターの彼が知らないはずがない。
「あー、一応俺には冒険者に関する守秘義務があるからよ。自分から言うのは避けたんだが、知ってるやつがいるなら仕方がねぇな。
確かに最近登録した冒険者にクリスタルドラゴンの鱗を持ってきたやつがいた。まさか爪まで持ってるとは知らなかったがな。そいつの名は『フォッグ』。登録試験で、Dランクの試験官を誰も気づかないうちに倒しちまったって話だ」
なるほど。やはりギラデルは知っていたか。知ってて黙っていたのは少々腹が立つが、彼の性格を考えれば仕方のないことだとも理解できる。彼は真面目で、決まりを忠実に守っているだけなのだから。まあ、今は国の存続がかかっている問題を話し合っている最中なのだから、少しは融通を利かせてくれてもいいと思うのだが。
とは言え、これらの情報は朗報に間違いない。クリスタルドラゴンは
まだ、本当にその者がクリスタルドラゴンを単独で倒したという保証はないが、一度当たってみる価値はありそうだ。
まずは彼と専属契約しているという『キリ』という少年に、私とゴーダで会いに行くことにした。ウルグルも付いて来たがっていたが、彼が来ると面倒ごとになりそうなので当然許可できない。
少しだけ明るい未来が見えたところで、会議は次の議題へと移っていった。
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