第111話 地下迷宮『宝石箱』

 『万屋』開店から3日間、思った以上にお客さんが入り、まずまずの結果で終えることができた。この調子なら、安定した収入が望めるだろう。


 さて、今日からの4日間はフォッグの方で冒険者を楽しもうと思い、朝から冒険者ギルドに来ているのだけど、パーティーへのお誘いがすごいことに……


 僕がパーティーに入ると、クエストの達成率が100%になるという噂が広まり、勧誘合戦が始まってしまったのだ。


 それはそれで嬉しいんだけど、今日からはちょっとやることがあるからね。パーティーへの参加は、また今度の機会にしてもらおう。



「指名クエストが来ていないだろうか?」


 今日も言葉少なめに受付のお姉さんに確認する。


「…………あっ、はい!? 指名クエストですか? しょ、少々お待ちください!?」


 いつも通り一時停止していたお姉さんが、再起動してから奥に引っ込んで何やらゴソゴソ探し始めた。


 まあ、僕はまだDランクだから普通に考えたら指名クエストなんて来るはずがないんだけど……


「あ、ありました! 来ています! えーと、依頼主は『キリ』様で、依頼内容は……えぇぇ! クリスタルドラゴンの鱗の納品ですか!?」


 あぁ、そんな大きな声で叫んだら……


 受付のお姉さんが依頼内容に驚いて、大声で叫んでしまった。案の定、それを聞いた冒険者達が騒ぎ出す。


「クリスタルドラゴンだと!? あのSSランクの?」


「あいつ、確かDランクだったよな? 大丈夫なのか?」


「いや、どう考えても無理だろ? SSランクだぞ?」


「クリスタルドラゴンってことは、ゴーダのおやっさんがらみか?」


 受付のお姉さんもこの状況に、ようやく自分の失態に気がついたのか、慌てて口を押さえているがもう遅い。


 奥から男性のベテランっぽい職員が現れ、彼女を叱責した後、僕を奥の個室へ連れて行ってくれた。あのままあの場にいたら、騒ぎが収まらないという判断なのだろう。ありがたい。


「うちの受付が失礼した。彼女には後できつく言い聞かせておくので勘弁してやってほしい」


 部屋に入って早々、ベテラン職員から謝罪を受けたが、それほど気にすることではないので、素直に受け入れる。


「気にしていない。あまりきつくあたってやるな」


 僕の言葉が意外だったのか、ベテラン職員はピクッと眉を吊り上げ少し驚いた表情を見せた。


「優しいのだな。なるほど、女達が騒ぎ立てるわけだ」


 ふむ、女性達が何を騒いでいるのかはわからないが、それほど悪い印象は持たれていないということか。


「指名クエストは受ける。今から向かうが問題ないか?」


 さて、騒ぎから遠ざけてくれたとはいえ、いつまでもここにいるわけにはいかない。クリスタルドラゴンを見つけるのにどのくらいかかるかわからないからね。今すぐにでも出発したいのだよ。


「ああ、手続きはこっちの方でやっておこう。それにしても、本当に大丈夫なのか?」


 手続きをやってくれるのはありがたい。それに大丈夫とは強さ的な意味なのか? 時間的な意味なのか? 服装的な……それはないか。

 まあ、どちらにせよ問題ないので静かに頷いて返事をしておいた。


 僕はギルドの裏口へと案内してもらい、そこからギルドを後にし地下迷宮ダンジョン『宝石箱』へと向かった。





「ここが『宝石箱』か」


 僕はピッケル片手に地下迷宮ダンジョン『宝石箱』の入り口へと来ている。ここに来るまでにもそこそこ強い魔物もいたが、全て『万屋』の素材として僕のアイテムボックスに入っている。


 『宝石箱』は山の麓にある入り口から入るようだ。中では宝石系の鉱石が手に入るらしいが、出てくる魔物のランクが高くなかなか挑戦する者はいないそうだ。現に入り口付近にも冒険者の姿はない。


 中に入ると早速、Bランクのゴーレムが3体襲いかかってきた。


 なるほど、入ってすぐにBランクの魔物が複数で襲ってくるとは、なかなか難易度の高い地下迷宮ダンジョンのようだ。


 僕はウォーターバレットでゴーレムを粉砕しつつ、鉱石の採掘ポイントを探していく。途中で冒険者パーティーっぽい反応を確認したけど、特に苦戦もしていないようだったので、スルーして先にすすむ。




「うぉ、これはアメジストか? こっちはエメラルドっぽい!」


 時折現れる魔物を蹴散らしながら、僕は鉱石ポイントを見つけては採掘していく。これが面白いように宝石が採れるので、思わず夢中になってしまった。


「危ない危ない。危なく夢中になりすぎて本来の目的を忘れるところだった」


 今ここは『宝石箱』の45階層。宝石に混じって、ミスリルとかアダマンタイトとかが採れるのでちょっと採掘に時間をかけてしまっていた。だが、本当の目的はクリスタルドラゴンだ。ここからは、最速で下へと降りてクリスタルドラゴンを探そう。




 45階層からさらに降りること15階層。ここは60階層だ。大分、深く潜ったけど最終回層も近いのかな。


 そして、62階層でようやくそいつを見つけた。ここまで来るのに丸々2日間もかかってしまった。


種族 クリスタルドラゴン

名前 なし

ランク SS

レベル 108 

体力   1813/1813

魔力   1054/1054

攻撃力 1436

防御力 2012

魔法攻撃力 1038

魔法防御力 2001

敏捷    699


スキル

念話

飛翔 Lv22

咆哮 Lv22

ブレス(土)Lv21

土魔法 Lv19

物理耐性 Lv20

魔法反射 Lv20

状態異常耐性 Lv20


 ほぉ、物理耐性とか魔法反射とかぜひほしいスキルだなぁ。あとサヤカさんが持ってた生活魔法とかもあったら便利かも。今度、挑戦してみるか。


 っと、クリスタルドラゴンがこちらに気がついたようだ。口の中で魔力が高まっている。これはブレスだな。とりあえず結界でも張っておくか。


 クリスタルドラゴンのブレスから始まったこの戦闘だが、せっかく物理耐性とか魔法反射とか新しいスキルを見つけたので、ちょっとどんなものか試してみようと思う。


 まずは魔法反射だね。レベルがあることから、あいつの魔法反射レベル以下の魔法を反射すると予測する。


「ファイアーボール!」


 僕は覚えたてのファイアーボールを放ってみたが、予想通り反射されてしまった。


 では、次は……っと


水其全包込者也みずそれはすべてをつつみこむものなり


 新人類ネオ・ヒューマンになってから覚えた魔法を使ってみる。今までの固定化された形ではなく、イメージ通りの魔法が創り出せるように進化している魔法だ。今回は水の龍を創り出して飛ばしてみた。


 ドゴォン!


 僕が創り出した水龍は、予想通りクリスタルドラゴンの鱗を貫いた。何せ、この魔法Lv30以上の魔法だからね。Lv20の魔法反射では防げないと思ったよ。魔法防御力も大して高くないし。


 自慢の鱗に穴が空いて、苦しがるクリスタルドラゴン。さて、次は物理耐性の方を試させてもらおう。


 僕は短距離転移でクリスタルドラゴンの頭上に転移し、落ちる力を利用して殴りつけた。剣なら折れちゃうだろうから、今回は素手で殴ってみる。


 ボゴオン!


 はい、クリスタルドラゴンの頭が陥没しました。僕のレベルはここまで来るのに80まで上がっている。攻撃力なら2500超えだ。仮に物理耐性スキルが物理攻撃の何%かを軽減するとしても、無効じゃない限り高い攻撃力で殴られれば無事じゃ済まないと思っていたよ。


 ただ、頭が陥没してそれっきり動かなくなってしまったのは想定外だった。


 あっさり倒れてしまったクリスタルドラゴンをアイテムボックスに回収した僕は、残り1日を鉱石の採掘に充てることにした。


 この深い階層では、ダイヤモンドらしき宝石に加えオリハルコンなる希少な鉱石まで手に入った。まさに『宝石箱』と呼ぶに相応しい。時折襲いかかってくるSランクの魔物さえ倒せればの話だが。


 丸1日採掘し、かなりの量のお土産をゲットした僕は、ほくほく顔で転移で自宅へと戻るのであった。 

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