第110話 『万屋』開店
クロウ達のパーティーに参加してから2日が経った。あの後、クロウ達が僕のことを酔っ払いながら宣伝してくれたようで、他の冒険者パーティーからのお誘いがたくさん来て大変だった。
昨日はそのうちの2つのパーティーとご一緒させてもらったよ。どちらもDランクの討伐依頼で、僕がそれほど頑張る必要がない程度の依頼だったんだけど、それでも要所要所でのサポートがよかったらしく、お褒めの言葉をいただきました!
また、その時一緒だったみなさんが僕のことを宣伝してくれるもんだから……いやぁ、人気者はつらいね!
えっ、元苔が調子に乗るなって? 言ってみたかっただけです。ごめんなさい。
何はともあれ、冒険者稼業は月の日から木の日までと決めているから、明日から日の日までの3日間は万屋の方で頑張ろうと思う。
「いらっしゃいませ!」
翌日、朝早くに店を開けた。特に大きく宣伝はしていないので、今日はせいぜい商人ギルドの職員さんが見に来るくらいかと思っていたけど、開店早々お客さんが来てくれた。って、あれはノアのお父さんのカッターさんじゃないですか。
カッターさんは店に入るや否や僕のところへ猛烈な勢いで駆け寄って来た。
「キリ君だったね? 本当にありがとう! 君のおかげで妻の命が助かっただけではなく、2本目の神霊水のおかげでお金にも余裕ができたんだよ!
おかげで、雑貨屋の方も買い戻して続けられることになったし、全ては君のおかげだよ! すぐにでもお礼をしようと思ったんだけど、なかなか君を見つけられなくて……。で、商業ギルドで聞いたら今日ここのお店が開店だって教えてくれたから、急いで来たんだよ!
あっ、ノアも来たがってたんだけど、まだ妻の体力が戻ってなくてね。今日は妻と一緒にいてもらってるんだよ!」
おおう、いきなり早口で捲し立てられて戸惑ったけど、要は全て上手くいってるってことだよね。よかった。着ている服もこぎれいになってるし、血色も以前よりいいみたいだ。
その後も10分ぐらいしゃべり続けていたんだけど、急に何かを思い出したようにフォレストウルフの毛皮を買って帰っていった。家の玄関に敷くんだってさ。
さて、とりあえず最初のお客さんは来てくれたけど、その後はしばらくお客さんは来ず、昼前に商業ギルドの職員が来て、一通りのチェックをしてから問題ないと言って帰って行った。それで午前中の営業は終了。お昼を食べてから、また受付に座ってお客さんを待つとするか。
「じゃまするぞ」
お昼に店を開けてからしばらくすると、ひとりのドワーフがお店に入ってきた。彼は値札を一通り見て回ると、ここには置いていない商品が書いてある冊子を手に取って眺め始めた。
彼は時折、目を見開いたり、『うむう』と唸ったり、感心したように頷いたりしていたが、最後にはパタンと残念そうに冊子を閉じた。そして、
「お主がこの店の店長か? カッターの言うとおり本当に子どもなんじゃな。だが、なかなかのやり手のようじゃの。ここに書かれている品はなかなか手に入る物じゃあない。これはいい店を紹介してもらったようじゃ」
「ありがとうございます!」
ドワーフの評価に満面の営業スマイルで答える僕。お店を褒められて上機嫌だ。
「そこで一つ質問だ。クリスタルドラゴンの鱗を手に入れることは可能か?」
ん? なるほど、さっき残念そうに冊子を閉じてたのはお目当ての素材がなかったからか。それがクリスタルドラゴンの鱗という訳か……はて? クリスタルドラゴンってどこにいるんだ?
「無知ですいません。クリスタルドラゴンとはどのような魔物で、どこに住んでいるのかご存じでしょうか?」
鱗をほしがっている位だから、これくらいは知っているよね?
「無論だ。クリスタルドラゴンは、このトロンバレン共和国の南にある魔獣の森のさらに奥深くにある
ほほう、随分と強そうな魔物がいたものだ。まだ、そんな魔物がいたとは。ぜひ戦ってみたい。それに
「その依頼引き受けました。万屋で専属契約している冒険者に指名依頼を出します。しかし、彼は月の日から木の日までしか活動していないので、次の金の日にまた来ていただけますか?」
「ほう、開店したばかりだと言うのにもう専属の冒険者がいるのか。しかも、SSランクの魔物と聞いても即答か。おもしろい。期待して待っているとしよう。おっと、ワシの名を教えていなかったな。ワシの名はゴーダ。この街で鍛冶屋をしておる。それでは、次の金の日にまた来るとしよう」
そう言い残してゴーダと名乗ったドワーフは帰って行った。それにしてもクリスタルドラゴンか。また一つ楽しみが増えたな。
この日のお客さんはゴーダさんが最後だったけど、次の日は少しお客さんが来てくれた。どうやらゴーダさんやカッターさんが僕のお店を宣伝してくれているようだ。さらに土の日に来てくれたお客さんがまた宣伝してくれたようで、日の日には一時混み合うくらいの繁盛ぶりだったよ。
上手く行き過ぎな気もするけど、商売の方も順調な滑り出しでよかった。この調子で頑張ってオーロラに会ったときに、それなりの立場で自己紹介したいな。そんな野望を胸に秘めつつ。僕はお店のドアに閉店の札をかけるのだった。
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