第93話 ドラゴンの里



 あの後、ズメイにもっと頻繁に会いに来いと怒られた僕は、天国の扉ヘブンズドアーを後にし、今はヴォーラの案内の元、穏健派のドラゴンたちが住んでいるという『ドラゴンの里』を目指して空を飛んでいる。


 ドラゴンの里はユークレア大陸の北端、ドワーフたちが住む『地下王国ゴルゴンティア』の西にそびえ立つ『霊峰ドラゴニア』にあるそうだ。


 霊峰ドラゴニアはその名の通り、多くのドラゴンが生息する山として有名だ。ドラゴンが数多く生息すると言うことは当然、攻略難度は高く山頂までたどり着いたものはいないという。

 その山の山頂に穏健派のリーダーであるナギニ率いる穏健派のドラゴン達が、来たるべき時に備えて腕を磨いているのだとか。


 数刻前にグルーバル大陸を出て、今眼下には広大な海が見える。飛行速度はヴォーラに合わせているため、全力とはいかないが、それでもかなりのスピードが出ている。ヴォーラによれば後2時間も飛べば着くそうだ。転移できればもっと早く着くのだが、いかんせんまだ行ったことのないところには転移できないからね。


 僕は"念話"でヴォーラに里に住んでいるドラゴン達のことや、里で気をつけなければならないことなどを聞きながらノンストップで飛び続けた。


 そして約2時間後、僕等はドラゴンの里へと到着した。





〈おい、ヴォーラさんが帰ってきたぞ!〉


〈本当だ! しかも後ろに白いドラゴンを連れている。もしかして、ズメイ様が来てくれたのか!?〉


 僕等が上空から里に近づくと、近くにいたドラゴンが騒ぎ出した。ちなみにここでは通常、一定の範囲に聞こえるように"念話"で会話するのが礼儀らしい。


 それと僕の身体が白っぽいせいか、何頭かのドラゴン達にズメイと間違われているようだ。




〈皆のもの静まれ。ヴォーラよよく戻った。して、そちらのドラゴンはどなたかな? ズメイ様ではないようだが〉


 僕等が山頂へと降り立ち、若い(?)ドラゴン達に囲まれていると、奥から一際大きなドラゴンが姿を現した。エメラルドグリーンに輝く鱗に、水色の宝石のような目、頭から後方へと伸びる2本の角は長く立派でまるで王冠の役割を果たしているようだ。


〈ナギニ様、このヴォーラただいま戻りました。ズメイ様をお連れすることはできませんでしたが、ズメイ様が認める強者の協力を得ることができました〉


 ヴォーラが頭を下げ、ナギニに報告する。


〈ほほう、ズメイ様が認めるものとは。それは期待できそうだ。してそちらの御仁、名前をお聞かせ願えるかな?〉


 ナギニがこちらに顔を向け、その透き通った目で僕を見つめる。


〈僕の名前はミストと言います。ズメイ様に頼まれてお手伝いに来ました。訳あって長くはいられないので、過激派の者達を一掃するまでの間になりますがお世話になります〉


 一応、穏健派ドラゴン族の長みたいだから敬語を使ってはみたが、決して傘下に入ったわけではないので、遜らないように注意して挨拶してみた。それからこっそりナギニを鑑定してみると……


種族 ストームドラゴン

名前 ナギニ

ランク  SS

レベル 120

体力 1023/1023

魔力    809/809

攻撃力   1211

防御力     1189

魔法攻撃力 798

魔法防御力 956

敏捷      815


スキル

念話

飛翔 Lv21

咆哮 Lv21

ブレス(風)Lv20

風魔法 Lv23

水魔法 Lv16

風耐性 Lv20

水耐性 Lv20

火耐性 Lv20

猛毒耐性 Lv19

麻痺耐性 Lv19

睡眠耐性 Lv19

混乱耐性 Lv19


 ほほう、なかなかの強さだね。変身した教皇よりも強く、魔王にはあと一歩及ばないと行ったところか。

 他のドラゴン達もざっと鑑定してみたけど、ここにいるドラゴンの中でヴォーラより強いのはナギニしかいなかった。もちろん里を離れているドラゴンもいるだろうから一概には言えないけど、この場にいるドラゴン達の対応を見るにヴォーラがこの里のNo.2なのかな。


 その後、僕とナギニとヴォーラの三人で今後のことについて打ち合わせをした。ナギニによると、過激派は着々と戦力を増強しており、近いうちに全面戦争が起こる可能性が高いそうだ。それがいつ起こるかまではまだわからないが、それまでの間に少しでもレベルアップして強くなっておきたいらしい。


 話し合いの後、僕はヴォーラに寝床へと案内してもらった。ドラゴンの里ではドラゴン一頭一頭に寝床として、洞穴が用意されているらしく、意外と快適な生活を送ることができそうだ。僕は来たるべき決戦に備えてどう行動するかを考えながら、ドラゴンの里1日目の眠りについた。





 さて、僕がドラゴンの里に来てから1週間ほどが経った。あれから僕は若いドラゴン達とレベル上げに行ったり、里の中で模擬戦をしながらお互いの技量を高めあったりしている。


 さすがにこのレベルになると、レベル上げのための魔物を探すのも一苦労なんだけどね。レベルの低い若いドラゴン達はそれなりにレベルが上がったけど、僕やヴォーラはほとんど上がらなかったし、そもそもナギニはこれ以上上がらないらしい。


 ただ、ナギニもヴォーラも僕との模擬戦でスキルレベルが上がったと喜んでいた。どうやらレベルが上がらなくても、格上と戦うだけでスキルレベルが上がることが判明したようだ。


 それからこのドラゴニアの山頂の頂には、小さな湖があって、その水は万病に効く薬になるのだと教えてもらった。が、各種耐性を持ち治癒魔法を使える僕にとっては『ふーん』って感じだったので、話半分にしか聞いていなかったけど。


 そんなこんなの1週間で、若干の戦力アップを果たした穏健派のドラゴン達だったが、つい先ほど偵察に行っていたドラゴンが、『過激派のドラゴン達がこちらに向かって進行中』という情報を持って帰ってきた。


 そこでナギニはこれを迎え撃つことを決意し、いよいよ穏健派と過激派による全面戦争に突入することになったのだった。

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