第92話 ヴォーラ再び
魔王との死闘(?)を終えた僕は、オーロラと話すのが恥ずかしくて、後始末をハヤトに丸投げし
ここに来たのは訳がある。教皇が邪神の復活を目論んでいたと知ったからだ。僕の記憶が確かなら、邪神はここ
あのズメイが倒されるとは思えないけど、もしかしたらズメイなら何かを知っているんじゃないかと思って聞きに来たのだ。
僕は
〈何者だ!〉
僕の姿を見たレッドドラゴンの鋭い声が飛んでくる。ってか、見覚えがあるなこのレッドドラゴン。そして、僕が出会ったレッドドラゴンは一匹しかいない。
〈なぜヴォーラがここに?〉
〈!? なぜ我の名前を知っている? お主何者だ?〉
思わず念話で呟くという器用なことをしてしまった僕に、ヴォーラの警戒心が高まるが……
〈慌てるなヴォーラよ。そやつは見た目こそ変わっているが、おそらく我の知り合いだ。あの時は黒猫の姿であったな。名前は……はて、名前はなんだったかな?〉
お、なんでわかったんだ? 確かズメイは"鑑定"を持っていなかったはずだが。
〈あの時は名前はありませんでしたが、今はミストと言います〉
今更ながらに自己紹介を試みる。
〈黒猫でミストだと? もしや、アストラル平原で出会った猫なのか?〉
僕の名前を聞いてヴォーラが戸惑っている。そりゃそうだよね。あんな小さな黒猫が、ドラゴンになるなんて信じられないよね。
なぜズメイが僕をあの時の猫だと断言できたのか。その疑問はズメイの次の言葉で氷解した。
〈おそらく進化したのであろう。時々、そういうヤツが現れるからな。まあ、猫からドラゴンに進化した個体など我も初めて見るが。
だが、そいつはこの
なるほど。確かに僕が初めてここに来たときに『初めて到達した者が猫とはな』って言ってた気がする。その後に誰も来てないなら、転移水晶を持っているのが僕だけだって言うのは納得だね。
〈ほう、あの時ただ者ではないと思ったが、すでにここの転移水晶を持っているとはな〉
ヴォーラもズメイの説明に納得したのか、警戒を解いてうんうん頷いている。しかし、転移水晶を持っていないところを見ると、ヴォーラもここまで自力で来たということが。ヴォーラくらいのドラゴンなら道中はなんとかなりそうだけど……どうやってここに入ったんだろう?
ここは人間の衛兵さんが入り口を守っているからね。無理に入ろうとすれば大騒ぎになりそうなもんだけど。
っと、疑問に思ったのでこっそり"鑑定"してみて納得した。ヴォーラも僕と同じように"矮小化"のスキルを獲得していた。レベルも前に会ったときより上がってるし、なんだかんだで過激派に負けないように頑張ってるんだな。
〈ところでズメイさんはなぜそのようなお姿に?〉
ズメイが、見た目の割に元気そうに"念話"してたので後回しにしてたけど、あのズメイにこれだけの傷を負わせるなんて、とんでもないことだよね。そこに気づいてから嫌な予感が止まらない。なにせ、教皇が邪神を復活させようとしているのを知ってから、ここが気になって仕方がなかったんだよ。
だって、ズメイは以前ここで『"邪神ヴリトラ"の封印を守っている』って言ってたからね。教皇の言う邪神がヴリトラのことだったら、絶対ここを狙ってくると思ったんだ。ただ、ズメイがいるからそれほど心配はしていなかったんだけど、ズメイのこの姿を見たら……
〈うむ、情けない話で申し訳ないが、封印の扉を破られてしまったのだよ〉
ため息とともにズメイが吐いた言葉に僕は衝撃を受ける。慌ててズメイの背後にある扉を見ると、無残にも粉々に破壊されていた。ってか邪神の封印が破られるって相当まずいのでは?
そこから語られた『封印が破られるまでの話』はにわかには信じられないものだった。
まず、ズメイをここまで傷だらけにしたのはたった一人の魔人だったそうだ。その名は『エクセル』と言ってたそうだ。『奇怪のエクセル』。確か魔王軍の幹部である四天王の一人がそんな名前だったような。ってか、魔王の下につきながら、明らかに魔王より強いズメイに勝てるってどういうことだ?
ともかく、そのエクセルという魔人が突然現れ、封印を解くためにズメイに戦いを仕掛けてきたと言うのだ。ズメイは"鑑定"を持っていないので、具体的なステータスはわからないが、エクセルはどちらかと言えば魔法を得意とする戦い方で、ズメイの素早く強力な攻撃をのらりくらり躱しながら、3000近くある魔法防御力を突破するような攻撃魔法を何度も放ってきたそうだ。
さらにズメイ曰く、当たると確信した攻撃すらも、なぜかエクセルを捉えることができなかったそうだ。おそらく、相当やっかいなスキルを持っているのだろう。
ただ、範囲攻撃のいくつかは当たっていたようで、エクセルも無傷というわけではなかったようだ。それに、ここの封印は破られたとしても、邪神を封印している扉はもう一つある。それこそ魔王国にある
ズメイによるとそこの門を守る
ズメイからなかなかに衝撃的な話を聞いて、新たな目標を立てたところでふと気がついた。
〈ところでヴォーラはなんでここに? ヴォーラも邪神復活の話を聞いて心配になったから来たの?〉
そう、なぜこの場にヴォーラがいるのか聞いていなかった。
〈いや、そういうわけではなく……ちょっとズメイ様にお願いがあってな……どうせ無理だろうとはわかっていたのだが、ダメ元でお願いしてみて、無理でも何かいいアドバイスでももらえないかと思ってな……〉
ヴォーラにそのことを尋ねると、なんとも歯切れの悪い答えが返ってきた。
その後の説明を詳しく聞くと、何でもここ最近過激派の勢力が拡大しており、中でも急成長しているドラゴンがいるのだとか。
その名は『アグニ』と言い、種族はフレアドラゴンだそうだ。そいつは突然現れ、その圧倒的な力であれよあれよいう間に過激派リーダーのクルドに次ぐ、No.2の座についているそうだ。一説によると、個人の強さで言えばクルドを超えているという話だ。
それで、ズメイの知恵を借りようとここまで来たら、こんなことになっていたという訳らしい。
〈しかし、よかったなヴォーラよ。これでアグニとやらに対抗できる者が見つかったではないか〉
僕等の話を聞いていたズメイの発言に僕は顔をしかめた。
〈ズメイ様、それはどういう意味で?〉
よくわかっていないのかヴォーラが問い返す。そして、それに対するズメイの回答は僕が予想していた通りだった。
〈そこのミストは今や立派なドラゴンだろ。そやつを連れて帰ればいいではないか。我ほどではないがその実力はナギニをも超えているだろう〉
この場で一番強いズメイの鶴のならぬ竜の一声で、僕は穏健派の一員として過激派と戦うことが決まってしまったのであった。
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