第90話 vs 魔王 ⑤

 いや、魔力全然ないじゃん!?


「ダークウィップ」


 焦る僕をよそに、魔王ゼノスが動かなくなったタイヨウめがけて、闇魔法第2階位"ダークウィップ"を放った。


 ギィィィン!


 しかし、その闇の鞭は僕がギリギリ回復した魔力を使って張った結界によって弾かれる。


「!? 何やつ!?」


 予想外の結果に驚いたのだろうか、魔王の動揺が伝わってきた。


 僕はすぐさまタイヨウの前に移動し、彼を守るように魔王の前へと立ちはだかる。っていうか、ハヤトの奴め覚えていろよ! 終わったら説教してやる!


「ホーリードラゴンだと? なるほど、先ほどの結界はお主のものか。しかし、今の今まで全くへ気配を感じなかったが……"空間転移"か? しかし、ホーリードラゴンが"空間転移"など扱えるはずもないのだが……」


 さすがは魔王。突然現れた僕に驚きつつも、すぐに冷静な分析を始める。だが、あちらが動かないのはこちらにとっても好都合だ。今の結界で、せっかく回復していた魔力がまた減ってしまったから。


 魔王が慎重になってくれたおかげで、少し魔力がたまったので、タイヨウにエクスヒールをかけた。タイヨウの傷は治ったが……くそ、これでまた魔力がすっからかんだ。


「うっ、き、傷が……」


 僕のエクスヒールで傷を癒やしたタイヨウが顔を上げ、僕の背中を見つめている。そんなに見られたらちょっと恥ずかしいな。

 そして、傷が回復したタイヨウだが、体力はまだ戻っていないようで、立ち上がることはできないようだ。そんなタイヨウをかばいつつ、僕は魔王を鑑定してみる。いつも感じることがないちょっとした抵抗感があったものの、鑑定は成功した。


種族 魔人族

名前 ゼノス

ランク  SS

レベル 120

体力 1538/1660

魔力   756/956


攻撃力     1546

防御力     1336

魔法攻撃力 966

魔法防御力 1046

敏捷      706


スキル

槍術   Lv25

身体強化 Lv24

鑑定   Lv25

鑑定妨害 Lv28

火魔法  Lv21

土魔法 Lv14

闇魔法  Lv22


称号

魔王

魔神の眷属


 ほほう、なかなかの強さだ。ステータスで言えばさっきの教皇よりも上だね。魔法攻撃力も高いけど、槍を使った物理攻撃が主体で間違いなさそうだ。

 さっきの教皇戦でレベルが上がっていなかったら、接近戦ならやられていたかもしれないな。まあ、そのときは魔法で倒したんだろうけど……いや、魔力ないんだった。これ、レベルが上がってなかったら、本当にハヤトのせいで死ぬところだったかも。


 それにしても称号欄にある『魔神の眷属』がちょっと気になるな。確か教皇には『邪神の使徒』って称号があったよね。魔神と邪神って似たような感じがするけど、違う存在なのかな? 後で説教ついでにハヤトに聞いてみよう。


 さて、魔王ゼノスだけど……今の僕なら接近戦でも問題なさそうだ。しばらく接近戦の練習相手になってもらって、その間に魔力を回復させてもらおうか。まあ、20分もあれば3分の1くらいは回復するでしょう。


 そう考えた僕は、自慢の翼で一気に魔王との距離を詰め、挨拶代わりに前足を振り下ろした。


 ガキィィィィン!


 僕が振り下ろした前足は、魔王が持つ濃い紫色に輝く槍によって受け止められた。その槍を鑑定するとアダマンタイトの槍と出る。

 アダマンタイトはオリハルコンやヒヒイロノカネほどの硬度はないが、ミスリル同様魔力との相性がよく、多くの魔力を込めることでオリハルコン以上の硬度になることが知られている。だが、その産出量の少なさから、かなり希少な金属でもあるはずだが。


 そのアダマンタイトを惜しげもなくつぎ込んだ槍は、魔王が持つのに相応しい価値を持っているようだ。


「ほほう、癒やしが専門のホーリードラゴンが我に接近戦を挑むとは。先ほどの"空間転移"といい、よほど変わった個体のようだ。なぜ、ハヤトやドラゴンが帝国の味方をするのかはわからぬが、我の邪魔をするなら容赦はせん。そのでかい身体に風穴を開けてくれるわ!」


 ゼノスは手に持った槍を凄まじい速さで連続して突いてくる。その攻撃力は1500オーバー。僕の素の防御力に近いものがある。まともに当たれば、このきれいな鱗に傷がついてしまうかもしれないね。だがしかし、レベルが上がった僕の敏捷は1500を超えている。この巨体からは想像もできないほど素早い動きが可能なのだ。


 現にゼノスの黒い槍を華麗に躱して……躱して……あんまり躱してないな。身体が大きすぎて、躱しきれずに当たってるね……

 実際、かすっている程度だからほとんどダメージはないんだけど、身体が大きすぎるのも考えものだな。でも、せっかくだから少し躱す練習をさせてもらうか。


 僕は魔力の回復時間を稼ぐことも兼ねて、魔王の連続攻撃をどれだけ躱せるかゲームを開始した。


 開始直後はかすっていた槍も、段々と空を切るようになっていき、10分を超える頃には、完全に躱せるようになっていた。

 ゲーム開始直後は魔王も魔法を織り交ぜていたけど、僕の魔法防御力が高すぎて全くダメージがないとわかると、槍での攻撃だけになっていった。

 っと、今で丁度100回連続を達成したぞ!


 さて、切りのいい数字も出ましたし、躱してばかりじゃつまらないから、そろそろ攻撃もさせてもらおうか。


 槍の連続攻撃で少々疲れが見えた魔王に対し、まずは左右の前足による降り下ろし連打を試してみる。お、3発目の爪の先がわずかにかすったようだ。わずかとはいえこの巨体から繰り出される一撃は相当な威力らしく、ゼノスが面白いように吹き飛んでいく。


 そこに追撃の尻尾アタッーク! む、飛び上がって躱したか。ならば追い打ちのかみつき攻撃!


 ゼノスは苦し紛れに鼻先を槍で突こうとしてきたので、爪ではじき返す。そのせいでかみつき攻撃は失敗に終わったけど、かえってよかったのかもしれない。あのまま噛みつきが成功していたら……想像したくもない。よし、噛みつき攻撃は封印でいこう。


 槍を上手く爪に弾かせることで体勢を立て直した魔王は、槍先をこちらに向けたまま、先ほどよりも余裕のない顔でこちらを見ている。


「まさか、上位種とはいえ名もなきドラゴンごときに、槍の間合いでここまで後れを取るとは。お主が魔法を得意としていなくて助かったわ」


 ん? どういうことだ? 僕はどちらかと言えば魔法の方が得意だけど。まさか、自分と互角に戦ってるだけで、僕が物理特化のドラゴンだと勘違いしたのか? こちらは単に魔力の回復を待っていただけなのだぞ。


 そして、その魔力もいい具合に回復している。


 仕方がないなぁ! 僕が魔法も得意なところを見せてあげようではないか! 魔力も大分回復してきたことだしね。っと、まずはドラゴンお決まりのブレスといきますか!


 ゴォァァァァ!


 僕は槍をこちらに向けたまま、慎重に僕の動きを観察しているゼノスに向けて、予備動作なしのホーリーブレスを放ってみた。


 真っ白な極太のレーザーがゼノス周辺をまとめて飲み込んでいく。


 僕は魔王の気配を感じ、顎を上げて上空を見る。すると、背中の羽を羽ばたかせ宙に浮いているゼノスと目が合った。その足はホーリーブレスがかすったのであろう、防具がぼろぼろに砕け青い血がにじみ出ていた。


「ブレスの威力も範囲も桁違いだな。さすがの我も今のは死んだかと思ったぞ」


 と、悠長にしゃべっている間に、さらに追撃の魔法を放ってみる。


「ぬわ!」


 僕が無詠唱で放った雷魔法第2階位"シャイニングボルト"をゼノスは間一髪、槍を避雷針代わりにすることで直撃を避けた。しかし、その衝撃までは避けることができず、ゼノスはまたしても吹き飛ばされ、槍からも手を離してしまった。


(さぁて、まだまだ行きますよ! 水魔法第2階位"メイルシュトローム"!)


 ゼノスが吹き飛んだ先に突如現れる大渦。身体の自由がきかないゼノスは、その渦になすすべもなく飲み込まれていく。その状態が数分続き、大渦が消えた後にぐったりと片膝を突いたゼノスの姿が現れた。奇しくも先ほどのタイヨウと同じ姿勢だ。


「な、なぜ、これほどの魔法を……」


 もう魔王ゼノスはまともに言葉を発することもできないのだろう。びしょびしょに濡れた身体から、水滴がしたたり落ちている。さて、そろそろとどめと行きますか。


 チラッと後ろを見るとハヤトがラッシュの胸を貫き、スノウのファイアーアローが何本もドリーの身体に突き刺さっているのが見えた。


(光魔法第1階位"フラッシュノヴァ")


 膝をつき頭を垂れて動けないゼノスの目の前に小さな光の球が現れ、一瞬の後に光の大爆発を起こした。


「ああ、お主は魔法の方が……」


 光に飲まれたゼノスの言葉は最後まで聞き取ることができなかった。


 こうして、僕等は教皇に引き続き魔王を倒すことに成功したのだった。

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