第89話 vs 魔王 ④
オーロラの召喚魔法のおかげで見えた景色から、"空間転移"を試みた僕らだったが、視界が悪かったせいか少々座標がずれてしまい、オーロラの真上ではあるがかなり離れたところに転移してしまったようだ。
だけど、かえって誰にも気づかれずに転移できたのでよかったのかもしれない。
眼下では赤い髪の青年が一際強そうな魔人の攻撃を受けていて、スノウは筋肉マッチョの魔人と小柄な女性タイプの魔人と戦っている。どちらも苦戦しているようで、ここからの挽回は難しそうだ。
〈向こうの魔人が魔王でゼノスって名前だ。魔王にやられてるのがタイヨウ・ミカドだな。オレと同じ転生者でオレより先に来た先輩になる。
んで、そこのグリフォンと戦ってるのが、破壊のラッシュと幻夢のドリーって名の魔王軍四天王の二人だ。堅固のテクターは……そこに転がってるわ。奇怪のエクセルはこの場にいねぇみたいだな〉
元々ここ魔大陸で暮らしていたハヤトが情報をくれる。っていうか、ハヤトのせいで魔力がほとんど空っぽなんだけど……まあ、"魔力自動回復"のスキルLv30のおかげで、現在進行形でどんどん魔力が回復していってるんだけどね。
〈ハヤトはグリフォンの方を助けてあげて。名前はスノウ。何て言うか……僕の友達みたいなものなんだ。魔王の方は僕に任せてほしい〉
〈ちっ! 本当は俺が魔王を倒したかったが、どうやらそいつは無理そうだな。仕方がない、四天王の方は俺に任せておけ。
あのスノウってのがあれだけ動けるなら、オレと組めばラッシュとドリーなんざ目じゃないぜ。その代わり、きっちり魔王ゼノスを倒してくれよ!〉
魔王が戦う姿を見てハヤトもその強さを感じたのだろう。僕の提案をあっさり受け入れてくれた。そして、ハヤトは僕の尻尾をつかんでいた手を離し、四天王めがけて落下していく。どうやら狙いは破壊のラッシュのようだ。落下の勢いを利用し、ラッシュの頭めがけて槍を突き出した。
突然の乱入者に全員驚いているようだが、そこはさすが四天王。ハヤトの奇襲に対し、咄嗟に腕をクロスすることで身を守ることには成功した。だが、その勢いまでは殺しきれずに地面に背中からたたきつけられてしまう。
「スノウって言ったか? こいつは俺に任せろ。お前さんはそっちのちんちくりんの相手をしてくれ」
「誰がちんちくりんよ! って、ハヤトじゃないの。あんたどっからわいてきたの? っていうか、あんたこの状況をわかってるの? まさか魔王様を裏切るつもり?」
ドリーと呼ばれた魔人がハヤトに食ってかかっているが、きっちりツッコミを入れる辺りはなんとも言えない残念臭が漂っている気がする。
スノウも突然の乱入者に警戒しているようだが、その言動から瞬時に味方と判断したようだ。すぐに空に舞い上がり自分の得意フィールドでドリーへ戦闘を仕掛ける。
「おいおい、ハヤト。これはどういうつもりだ? 今すぐ謝ってそこのグリフォンを倒すのを手伝うなら許してやらなくもないが、お前の返答次第では死んでもらうことになるぞ?」
ハヤトの一撃で地面にたたきつけられたラッシュだったが、それほど大きなダメージはなかったようで、ほこりを払いながら何事もなかったように立ち上がり、ハヤトに剣呑な眼差しを向けている。だが、彼はわかっていないようだ。この1ヶ月でどれだけハヤトがレベルアップしているかを。
「何て言うか……あれほど遠くに見えたあんたの背中が今は小さく見えるな」
「その言葉、敵対と受け取った。死ね」
ハヤトの挑発ともとれる言葉に怒りを露わにしたラッシュが殴りかかるが、軽快なステップでそれを躱し逆に手にした槍で反撃する。
「なっ!? どういうことだ!?」
ハヤトのカウンターで太ももに傷を受けたラッシュは、痛みよりも驚きが勝っているのか信じられないものを見るような目でハヤトを見つめている。
「まあ、ちょっと魔王さんを倒せる算段がついたんで、ここらで反抗させてもらうぜ! お前達も知ってるように俺は元人間だからよ。お前さん達とは考えが合わないんだわ。魔神を復活させる? バカ言え。俺は人間とも仲良くして、自由気ままに生きたいんだよ!」
「くっ!? ちょっとレベルが上がったくらいでいい気になりおって。魔王様を倒す算段がついただと? まさかこの程度で魔王様を倒せるとでも? そこのぼろぼろの人間とグリフォンと協力したところで、魔王様の足下にも及ばんわ!!」
何やらハヤトとラッシュの舌戦が盛り上がっているが、しゃべりながらも身体は動いているのはさすがだ。ラッシュのパンチやキック、肘打ちなどをきれいに槍で捌いている。
素早い攻撃が売りの格闘術のスピードにあの槍でついていっているのだから、もはやステータスだけではなく戦闘技術でもハヤトはラッシュの上をいっているようだ。その様子からも、万が一にもハヤトが負けることはないだろう。
一方、スノウもドリー相手に優位に戦いを進めている。先ほどまではラッシュに接近戦で攻め込まれ、ドリーに遠距離から援護されていたせいで手も足も出ていなかったが、魔法タイプながら魔物特有の高い身体能力で接近戦もある程度こなせるスノウであれば、どちらか一人なら自分の得意なフィールドで相手をすることができる。
実際、魔法特化のドリー相手に接近戦で挑むことによって魔法を使う隙を与えず圧倒している。ドリーとしてはなんとか距離を離して魔法戦に持ち込みたいところなのだろうが、素早さで劣ってしまうスノウ相手にそれができず、苦々しい表情で防御魔法を使うのが精一杯のようだ。
さて、ハヤトが参戦したことで戦況のパワーバランスが一気に傾いた。魔王もハヤトの裏切りに驚いた様子だったけど、この状況を見て黙っているわけがない。すぐにでも本気を出してタイヨウを片付け、ラッシュやドリーに加勢するだろう。
さて、そうなる前に僕も動くとしようか。
僕は、片膝をついて動く気配のないタイヨウに向かって、強力な魔法を放とうとしている魔王の前へと転移しようとして思い出した……
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