第88話 vs 魔王 ③ side 第三者視点

 魔王の猛攻にさらされたタイヨウの身体は傷だらけで、立っているのがやっとの状況だ。


 しかし、タイヨウが魔王ゼノスを倒すと信じて時間稼ぎに徹していた他のメンバー達はもっとひどい有様だった。


 初めに決着がついたのは幻夢のドリーと戦っていたパールとアルマンディである。パールと魔法合戦を繰り広げていたドリーが突如、無詠唱で風魔法第2階位"トルネード"を放ったのだ。

 ドリーはパールとの魔法合戦の間は必ず詠唱をしていたので、パールもアルマンディもドリーが詠唱破棄を持っているとは思っていなかった。不意の出来事にパールの防御魔法が遅れ、ドリーの魔法をまともに受けてしまったアルマンディは吹き飛ばされ、地面にたたきつけられたまま動かなくなってしまった。


 アルマンディの弓によるけん制があってようやく互角に渡り合えていたパールは、アルマンディのサポートがなくなったことで、徐々に追い込まれていく。まもなくして、ウォーターバレットを腹部に受けてしまったパールもまたその場に崩れ落ちてしまった。



 破壊のラッシュと死闘を繰り広げていたジャックとテオドールは、パール達より善戦していた。特にテオドールの召喚獣であるスパークが上空から炎のブレスを吐くことで、戦況を有利に進めていた。


 だが、その状況もラッシュの思い切った行動で一変する。


「ハッ!」


 こともあろうかラッシュはジャックとの攻防中にスパークに格闘術のスキル"気功弾"を放ったのだ。気功弾は拳から気の塊を打ち出し、遠くにいる敵をも倒せる技だが撃った後の硬直時間が長いスキルでも有名だ。そんな技を戦っている最中に放てば大きな隙を見せることになり、当然ジャックがそれを見逃すはずもなくラッシュの左脇腹にジャックの拳が突き刺さった。

 だが、気功弾の効果は抜群であの状態からの遠距離攻撃を想定していなかったスパークは、気功弾をまともにくらいきりもみ状態で地面へと落ちていく。


「スパーク!」


 召喚主であるテオドールの叫び声もむなしく、地面に墜落したスパークはピクリとも動かない。


 一方、ジャックの渾身のボディーブローに5mほど吹き飛ばされたラッシュだったが、それだけだった。おそらく撃たれる直前に闘気をまとい防御力を上げたのだろう、地面に倒れることなく撃たれた箇所をさすっている。


「久しぶりにいいのをもらっちまったが、この程度の拳で倒れるオレ様ではないわ!」


 そこからのラッシュの攻撃はさらに苛烈を極めた。考えたくもないが、どうやら先ほどまでは手加減していたようだ。ジャックも反撃を試みるがその全てがいなされ、躱され、受け止められる。

 その様子を見て勝ち目がないと悟ったテオドールが一か八か背後から斬りかかるが、本気を出したラッシュに隙はなく後ろ回し蹴りの一撃で吹き飛ばされ、スパークの橫で動かなくなってしまった。


 そして、ジャックの捨て身の正拳突きもラッシュに受け止められ、逆にアッパーカットを顎に決められ10mほど吹き飛んだ後、背中から地面に落ち同じように動かなくなってしまった。



 この場でただ一箇所、敵を追い詰めていたのはオーロラとスノウのコンビだ。スノウはその種族の上限であるレベル80まで上がっている。それだけでは、四天王の一人を相手にするには少々不足だったがそれを補ったのがオーロラだ。オーロラの召喚魔法レベルは22。つまり"召喚獣強化"を使えばスノウのステータスは全て22%上昇するのだ。

 もちろん、このスキルは使用している間常時魔力を消費するのだが、オーロラにはミストの加護がある。本人は気づいていないが、その加護の能力の中に"魔力自動回復"があるので、他の魔法さえ使わなければオーロラは召喚獣を半永久的に強化し続けることができるというわけだ。


 ステータスが大幅に強化されたスノウは、敏捷で堅固のテクターを上回り、相性の良い風魔法でじわじわと体力を削っていく。ならば召喚主を先に狙おうとテクターがオーロラに狙いを変えようとするのだが、それを察したスノウはすぐに魔法でけん制しオーロラに攻撃が行くことを許さない。


 元々、攻撃力と敏捷で劣るテクターは決定的なダメージを与えることができずに、最後はスノウの"エアリアルブレード"で首をはねられたのだった。



「おいおい、テクターのヤツやられちゃってるぜ!?」


「あらあら、いくら四天王最弱とはいえこれはちょっと恥ずかしいですわね」


 ようやくの思いでテクターを倒したオーロラ達の前に姿を現したのは、破壊のラッシュと幻夢のドリーだ。二人はテクターが苦戦しているのを見て、相手の生死を確認する手間も惜しんで駆けつけたのだ。

 もっとも、今の言動を見るにテクターを心配したと言うよりは、圧倒的強者である彼らにとっては、テオドール達が生きていようが死んでいようがどうでもよかったのかもしれない。

 それよりもテクターを倒したスノウに興味があると言ったところか。


「最悪ですが、やるしかありませんね」


 ちらっと後ろを確認してみると治癒士のダリアもやられてしまったようだ。護衛のいない治癒士を無力化するなど、彼らにとってはさぞかし簡単なことだっただろう。最早この場に立っている味方はスノウとタイヨウのみ。そのタイヨウも魔王に敗れる寸前だ。


〈主様、ワタクシが時間を稼ぎます。お逃げください〉


 スノウからオーロラに念話が届く。珍しく焦ったような雰囲気が伝わってきた。それほど状況は絶望的というわけだ。


〈みんなを置いては逃げれない!〉


 しかし、オーロラがそんな選択をできるはずもなく……


 オーロラはここで一か八かの賭けに出ることにした。それは事前にスノウとも確認していた最後の手段。成功する可能性は低く、成功したところで状況が良くなる可能性はもっと低い。


(それでも、もうこれにかけるしかない)


 オーロラはミストと契約を切ったことで空いた枠を利用し、召喚魔法を唱え始めた。

 それを察知したスノウは床にエアショットを放ち、舞い上がった粉塵でオーロラの足元に浮かび上がった魔法陣を隠そうとした。


 そして、スノウが四天王の二人を間に必死に時間を稼ぐことでオーロラの召喚魔法が完成する。




「……ダメだったわ」




 無情にもオーロラの召喚に応じる魔物はいなく、魔法陣は何も召喚しないまま消えてしまった。

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