第83話 vs 教皇 ①

「サ、サヤカ様!? な、なぜこちらに!? 帝都にいらっしゃるはずでは!?」


 サヤカがその顔を隠すことなく、堂々と正門に現れたことで門を守っていた兵が驚きの声をあげる。あっ、こいつは感情が豊かなのね。


「教皇様にお伝えしたい重要事項があります。お取り次ぎ願えますか?」


「しょ、少々お待ちください!」


 聖女であるサヤカは、教皇に次ぐNo.2の位にいる。その性質上、権力はほとんどないようだがことに人気で言えば教皇を遙かにしのぐ。正門の両脇に立ってた衛兵が、守るべき門を残して二人で慌てて建物の中に入って行ってしまうくらいの影響力はあるらしい。


 サヤカは誰もいなくなった門をくぐり、きれいに掃除された真っ白な廊下を悠々と歩いてく。お取り次ぎ願うといいながら、待つという選択肢は彼女の中にはなかったようだ。

 衛兵の慌て具合が内部の人たちに伝染し、聖女の姿を見てさらに混乱が広がったようで、大聖堂の中はちょっとした騒ぎになっていた。大聖堂には"思考鈍化"を促す煙が焚かれていないのは本当のようで、ここにいる者は実に感情豊かに慌てた様子を披露してくれている。


 そのおかげでハヤトも僕も騒ぎに乗じて難なく潜入することができた。


 僕が祈りの間の天井に到達してすぐに教皇が祭壇に姿を現した。隣に控えている二人が枢機卿だろう。僕はサヤカが来る前に三人のステータスを確認する。


種族 人族

名前 シュトレイゼ・クレメンス

ランク  S

レベル 66

体力 666/666

魔力    666/666

攻撃力     666

防御力     666

魔法攻撃力 666

魔法防御力 666

敏捷      666


スキル

分裂

自己再生 Lv15

杖術   Lv25

身体強化 Lv25

鑑定   Lv25

聖魔法  Lv25

闇魔法  Lv25

結界魔法 Lv20


称号

教皇

邪神の使徒



種族 人族

名前 ブリュノ・ラペルトリー

ランク  A

レベル 72

体力 581/581

魔力    612/612

攻撃力     334

防御力     486

魔法攻撃力 505

魔法防御力 607

敏捷      349

状態異常(憑依)


スキル

杖術   Lv18

聖魔法  Lv20

光魔法 Lv12


称号

枢機卿




種族 人族

名前 レイモン・デスタン

ランク  A

レベル 70

体力 563/563

魔力    600/600

攻撃力     351

防御力     442

魔法攻撃力 493

魔法防御力 585

敏捷      333


スキル

棍術   Lv16

聖魔法  Lv19

火魔法  Lv17

闇魔法 Lv11


称号

枢機卿

邪神の信者


 うん、なんか色々おかしいみたいだ。まずは教皇だがステータスの全ての数値が666って、意図的に操作された感じがする。スキルの"分裂"や"闇魔法"も怪しさ満点だが、称号の"邪神の使徒"ってこれ黒幕確定じゃん。邪神がどのような立ち位置かはわからないけど、やってることを考えてもまともじゃないことは確かだ。


 さらにその両隣にいる枢機卿の二人。こちらは教皇よりも聖職者に近いステータスだが、状態異常の欄に"憑依"とある。もう片方に至っては"邪神の信者"だし、サヤカの話だと片方は味方って言ってたけど、どうやらあまり期待できなさそうだ。


 教皇達を鑑定していると、高そうな白い鎧に身を包んだ男が6人現れた。おそらくこいつらがサヤカの言っていた、神下十二部隊の部隊長とやらだろう。中でも一番強そうな男を鑑定してみると……


種族 人族

名前 ブライアン・マルクミュート

ランク  S

レベル 95

体力 910/910

魔力    553/553

攻撃力     742

防御力     813

魔法攻撃力 441

魔法防御力 818

敏捷      479

状態異常(憑依)


スキル

剣術 Lv22

身体強化 Lv19

聖魔法  Lv15


称号

神下十二部隊 第一部隊長



 残念なことに、この男も何かに憑依されているようだった。ステータス的にはハヤトといい勝負ができるほどの強者だけに、敵に回るとちょっとやっかいだな。それにしても、どうなってしまっているのだ、この聖国は。まともな人間がいないじゃないか。


「おお、聖女サヤカよ。そなたは確か魔王子ハヤトと共に帝国へ出向いていたのではなかったのかな?」


 僕が色々鑑定している間に、サヤカが祈りの間に姿を現したようだ。教皇は祭壇の上で両手を広げ出迎えている。実際、困ったようなふりをしているがその口角は上がっているのが見えた。


 作戦がばれているとは思わないけど、教皇にはこの状況を楽しむ余裕があるようだ。


「ええ、その予定でしたが教皇様に少々確認したいことがございまして……」


 教皇のいやらしい笑みに動じず、サヤカが言葉を返す。


「ほほう、それはどういったよ……っ!?」


 教皇がしゃべりながら一歩前に踏み出した瞬間に、祭壇の後ろにあった柱の影から、ハヤトが弾丸のように飛び出し教皇の首めがけて槍を振り下ろしていた。


 完璧な不意打ちに、神下十二部隊の隊長達どころか教皇の隣に控えていた枢機卿ですら反応できていなかったのだが、教皇は振り向きざまに杖を振り上げその槍を受け止めていた。


「おやおや、ハヤトさんの姿が見えないと思っていたら、こんなところに……で、いったいこれはどういうことですかな?」


「チッ! あれを防ぐかよ。さすがは腐っても教皇といったところだな!」


 不意打ちを防がれたハヤトだったが、慌てる事なく教皇をそのまま押し込み、次の作戦へと移行する。


 ギィン!


 ハヤトが教皇を押し込んだところで、僕は教皇とハヤトとサヤカだけを囲うように結界を張った。


「む、これは結界ですか? これは……サヤカの結界ではありませんね。ふむ、貴方達、この場にもう一人ねずみが紛れ込んでいるようです。探し出して始末しなさい」


 どうやら、結界を張ったことで僕の存在がバレてしまったようだ。一斉に動き出す枢機卿の2人と部隊長6人。だが、天井に隠れている僕が見つかるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。その間にハヤトとサヤカが教皇を倒してくれるといいんだけど。


 天井の陰に身を隠しつつ、結界の中を見てみると……


「はっ! 教皇様とやらもこの程度の力かよ!」


「ハヤト、油断しないでください! 何かがおかしいです!」


 ハヤトが教皇に猛攻をしかけ、教皇は防戦一方になっていた。時折、反撃のために放たれた闇魔法もサヤカの結界によってはじかれている。このままならハヤトが教皇を倒すのは時間の問題だと思われるのだが……


「ふふふ、まさか魔王子がここまで強いとは。おかしいですね、事前の情報ではそこの枢機卿と似たようなステータスだったはずですが」


 教皇は致命傷になりそうな攻撃だけしっかりと杖で受け止め、それ以外の攻撃は当たるに任せるといった戦い方をしていた。致命傷以外といっても、身体を切られれば血も出るし、放っておけばすぐに動けなくなりそうなものだが、槍で突かれた小さな傷はシュウシュウと音を立てながらすぐに治ってしまう。おそらくスキル欄に見える"自己再生"の力だろう。僕が持つ"体力自動回復"よりも数段上の回復力だ。


 とは言え、教皇の攻撃がハヤトに当たらない以上、教皇の勝ち目はないように見えるのだが何だろうあの教皇の余裕は。


「いたぞ! 天井に隠れている! 引きずり出せ!」


 おっと、ハヤト達の戦いを見ていたらブライアンに見つかってしまったようだ。すかさず枢機卿の二人から光魔法第2階位"シャイニンググアロー"と炎魔法第3階位"ファイアーアロー"が飛んできた。僕はこれ以上隠れているのを諦め、パタパタと羽音を響かせながら彼らの前へと躍り出た。


「まさか、ドラゴンとは。しかも、聖竜ホーリードラゴンですか。貴方達、まだ幼竜のようですが油断するんじゃありませんよ」


 鑑定を使ったのであろう教皇が結界の中から枢機卿達に鋭い声を飛ばす。


「もちろんです、教皇様。こやつを倒してすぐにそちらへ参ります」


 邪神の信者である枢機卿のレイモンは、そう答えると舌なめずりをしながら僕へと迫ってきた。

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