第82話 作戦会議
聖国に到着した僕達は、身分を隠して入国することにした。ハヤトはともかく、帝国にいるはずの聖女がこんなところにいたら怪しまれること間違いなしだからね。
僕が"幻惑"のスキルでギルドカードの名前をごまかし、フードと仮面で顔を隠したハヤトとサヤカが無事入国審査を切り抜けることができた。もちろん幻惑の腕輪もつけている。
ちなみに僕もハヤトの従魔ということで普通に国に入ることができた。もっとも、従魔の首輪をつけられてしまったけどね。まさかスノウがつけられていた従魔の首輪を自分がつけることになるとは。
「おい、興味本位で聞くんだが、その首輪はお前さんには効果があるのか?」
無事に入国した僕らがメイン通りを歩いていると、ハヤトがそんなことを聞いてきた。
〈うーん、なんとなくの感覚だけど僕がその気になったら、この首輪は……壊れる気がする〉
「だと思ったよ……」
ハヤトに伝えたように、おそらくこの首輪では僕の力を抑えることはできないだろう。もちろんこんな街中で暴れる気なんてないし、この首輪をつけていることで自由に歩き回れるじゃなくて飛び回れるなら、壊すという選択肢はないんだけどね。
首輪の性能を確認しながら、聖国の街並みを見てみると……
さすがに世界最大の宗教である聖教の聖地だけあって、王都や帝都にも劣らないほどの大きさだ。確かにサヤカが言うようにかすかに甘い匂いがするので、"思考鈍化"の影響はあるのだろう。
ただ、活気という面では王都や帝都ほどではないが、それでもサヤカが言うほど人の感情は低下していないように思えた。僕らはまず一緒に冒険者ギルドに赴き、道中で倒した魔物の素材を売り払い宿賃を稼ぐことにした。
冒険者ギルドも同じで、大きさはそれなりなのに、王都や帝都のような活気はない。まるで日本のファミリーレストラン程度のざわめきしかない。ハヤトがちょっと強めの魔物の素材を出したときが一番騒がしかったくらいだ。
無事に宿代を稼いだ僕らは、そこそこ高級でセキュリティがしっかりしていそうな宿を選んで、教皇を倒す具体的な作戦を立てることにした。二人と一匹がハヤトの部屋に集まり作戦会議を始める。
「それで、教皇ってのはどんくらい強いんだ?」
教皇を倒す作戦を立てるにあたり、ハヤトが教皇の強さについてサヤカから聞き出そうとするが……
「えーと、私は鑑定を持っていないのでステータスはわからないのですが……何か得体の知れない不気味な感じがしました」
そう、サヤカは"鑑定"を持っていないので、教皇のステータスやスキルはわからない。事前に偵察して見ることができればいいのだが、教皇はめったに大聖堂から出ないようなのでそこはあまり期待しない方がよさそうだ。
よって教皇のステータスをその場で確認し、臨機応変に対応しなければならなくなるだろう。だからこそ、この作戦会議が重要であり万全の準備をして臨みたいのだ。
「まあ、教皇を倒すのは予定通り俺の役目として、それ以外はどうする?」
「私はハヤトのサポートにまわります。教皇の右腕である枢機卿は、もう一人の枢機卿が抑えてくれることになっています。それで、ミストさんにはその他の人達を抑えてほしいのですが……」
この作戦の肝は、ハヤトとサヤカが協力して教皇を倒すことにある。この次は魔王を倒す予定なので、聖国のトップと魔王国のトップが協力関係にあることを他国に見せつけたいのだ。
そうすることによって、生まれ変わった聖国と魔王は、他の国とも友好関係を結びたいとアピールすることに繋がる。
そのために、味方である枢機卿と僕で、ハヤトとサヤカが教皇を倒す時間を確保するという単純かつ明快な作戦というわけだ。
しかし、これは……
「おいおい、いくらミストが強いとはいえ少々任せすぎなんじゃねえか?」
そう、ハヤトの言う通り僕の負担が一番大きいような……
何せ、聖国には教皇や枢機卿以外にも強者が大勢いる。神下十二部隊などはそのいい例であろう。その神下十二部隊の隊長ともなれば、レベル60超えばかりだとか。
その中でも第一部隊の部隊長であるブライアン・マルクミュートに至っては、レベル90を超えているという噂だ。強さがよくわからない教皇よりも、ひょっとしたら強いのかもしれない。
今は帝国との戦争中なので、神下十二部隊のいくつかは前線にいるようだが、少なくとも第一部隊を含む半分は聖都にのこっているらしい。
その全てを僕一人で抑えるとなると……うん、できるとは思うけどね。
〈まあ、ハヤトとサヤカで教皇を倒すとなると、必然的にこうなるよね〉
「えっと……ミストさんお願いできますか?」
〈こっちは任せて! その代わり、教皇を倒すのは任せたよ!〉
「おう、そっちは俺に任せておけ!」
美人のサヤカにお願いされたら嫌とは言えないよ。ハヤトもレベルが上がって自信がついたようで、笑顔でサムズアップしている。
作戦決行は3日後。まずはサヤカが正面から堂々と登場する。帝国に向かったまま1ヶ月も音信不通だったから、おそらくちょっとした騒ぎになるだろう。その隙にハヤトは裏から、僕は屋上から侵入する作戦だ。
サヤカが教皇と面会するのは、おそらく大聖堂の中央にある祈りの間になるはず。僕らはそこで合流し、できればハヤトが不意打ちで教皇を倒す。もし、不意打ちで倒せなかった場合は僕が結界で教皇とハヤトとサヤカを隔離し、ハヤトが教皇を倒すまで結界の外で耐えるのだ。
万が一の長期戦に備え、ハヤトとサヤカにはポーションと魔力回復ポーションを持たせた。大聖堂の内部構造もしっかり頭に入っている。万が一に備えて、逃走経路も確保済みだ。まあ、逃走経路とは言っても僕は転移で逃げるだけだけど。
上手く教皇を倒すことができたら、味方の枢機卿と協力して教皇の交代を宣言する。新しい教皇には、味方の枢機卿にお願いする手はずになっているそうだ。その後、創造神の名を汚す聖職者達を一掃するのだ。聖女であるサヤカが協力すれば、民衆達の混乱も少ないだろうとの予測だ。それこそ"思考鈍化"のおかげでね。
念のため、決行までの2日間はみんなで大聖堂を見張っていたが、教皇が姿を現すことはなかった。代わりにと言っては何だが、神下十二部隊の第一部隊、第四部隊、第七部隊、第十~十二部隊の6部隊が残っていることがわかった。丁度、半分の部隊が残っていることになる。
そして、作戦会議から3日後。いよいよ、決戦の時が来た。
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