第81話 聖国とは
エリック達に倒されたはずのワイバーンがなぜか復活したかと思ったら、いきなりその男を殴り殺し瘴気を振りまき始めたのだ。その瘴気はかなり強力なものだったらしく、村長の娘だけではなく疾風の風のメンバー全てが麻痺したように地面に倒れてしまった。
さすがに僕も慌てて飛び出したよ。なんて言うか、僕はもうエリック達のことは仲間だと思っちゃっているからね。さすがにこんなところで殺させるわけにはいかない。
〈我が領域を荒らす者は何人たりとも許さん〉
とりあえず、身体を元の大きさに戻しワイバーンゾンビの前に降り立った。同時に念話でここが自分の縄張りだとアピールし、ワイバーンゾンビを倒す理由付けを忘れない。
すでにワイバーンゾンビは理性を失っており、こちらの念話は届かないようだ。これなら心置きなく殺せるというものだ。いや、すでに死んでるんだけどね。ワイバーンゾンビの弱点は聖属性。そして僕の今の種族は
後はエリック達の状態異常を回復して立ち去るだけ。
〈さて、汝らからは悪意は感じぬ。身体は治してやるから、早々にここから立ち去るがよい〉
僕は覚え立ての聖魔法第2階位"エクスキュア"を使い、できるだけドラゴンっぽく偉そうに念話を送りすぐに立ち去る。
それから村の近くに戻った僕は、ハヤトとサヤカに念話を送り問題が解決したことを報告し、また2人と一緒に聖国を目指して動き出した。
〈ちょっと二人に聞きたいんだけど、死んだ魔物をゾンビにして蘇らせる
僕はエンヤの村を出て聖国へと向かう途中に、ワイバーンがゾンビ化したときに使われた黒い球についてハヤトとサヤカに聞いてみた。
「ああ、なんか聞いたことがあるなぁ」
「私も聞いたことがありますね。確か、"黄泉の宝玉"でしたっけ?」
「あー、そうそう、そんな名前だったな。ただ、邪神が創ったって言われるもんでよ、そう簡単には手に入らないはずだぞ」
どうやらあの黒い玉については二人とも知っていたようで、色々教えてくれた。その中に、"邪神"とかどう考えても嫌な予感しかしない単語がでてきたな。
「邪神は遙か昔に勇者達に破れて、どこかの
はて、どこかで聞いたような話だな?
あんまり関わりたくない話だけど、嫌な感じがするから頭の片隅には残しておいた方がよさそうだ。
〈ところでサヤカさん、聖国ってどんなところなの?〉
僕はこの話は終わりとばかりに、聖国についてサヤカに尋ねる。
「そうですね……一言で言うと、『狂った国』でしょうか」
うん、思ったよりも重たい答えが返ってきた。
聖国で信仰されているのは『聖教』のみで、創造神アスタルティーナを信仰の対象としているらしい。アスタルティーナと言えば忘れかけていたが、僕をコケにいや苔にしてくれた張本人ではないか。まさかあの選択画面がスクロールするとは……と過去の話はさておき、表向き創造神を信仰してはいるが、裏では聖教のトップである『教皇』と一部の権力者達が信者達から富を吸い上げているのだとか。
そんな状況なので創造神の加護なども与えられるわけもないが、かといって天罰がくだるようなこともないそうだ。まあ、短い付き合いではあったが、あのアスタルティーナの性格から考えるとどうでもいいんだろうね。過度にこちらに干渉するような感じでもなかったし。
さて、肝心の聖国についてだが、なんとこの国の国民全てに"思考鈍化"がかけられているのだという。"思考鈍化"になるとその名の通り、思考力が低下し物事を深く考えることができなくなる。さらには感情の起伏も小さくなり、最終的には言われたことだけを黙々とこなす人形のようになってしまうそうだ。
聖国がどのように信者達を"思考鈍化"の状態にしているのかというと、ある植物の葉っぱを乾燥させ粉末にし、特殊な薬品を加えて固め、それに火をつけることで発生する煙を吸うと徐々に思考力が奪われていくのだとか。
さらに、この"思考鈍化"の恐ろしいところは、 "状態異常"に当てはまらないところにある。どちらかというと『脳の機能低下』つまり『老化』に近いらしく、聖魔法の"キュア"や"万能薬"といったものでは治せないらしい。
もちろん治療法は存在するのだが、それには煙を吸わないようにし、長い時間かけて思考や感情を取り戻していかなければならない。もしかしたら聖魔法第2階位"エクスキュア"であれば効果があるかもしれないが、どちらにせよ聖国の至る所で焚かれているその薬をなんとかしなければ、根本的な解決にはならないだろう。
さすがにやり過ぎると他の国から怪しまれるだろうからか、"思考鈍化"の程度はある程度コントロールされているようだけど、それでも国民の思考を誘導して自分たちだけ贅沢するなんて、聖職者の風上にもおけないな。ちなみにサヤカにはその煙の効果はなかったのか聞いてみたが、彼女が住んでいた神殿は煙が来ないように、風魔法が付与された
さて、次に聖国を仕切っている上層部の面々だが、一番偉いのが言わずもがな『教皇』で一人しかいない。
教皇に次ぐNO.2は『枢機卿』で、二人いる枢機卿のどちらかが次期教皇なのだとか。
さらにその下の『大司教』は大きな都市に一人ずついて、その地域の教会をまとめている。
他にも各教会には一人ずつ『司教』がいて、その教会を運営している。
その司教を支えているのが『司祭』である。ここまでが階級を与えられている者たちで、その下にシスターや見習いなどがいる。
ちなみに聖女は枢機卿と同じ階級で、巫女は司祭と同じ階級である。もっとも、この聖女と巫女は階級こそ高いが政治的な権力はほとんどないらしい。だが、聖女ともなると民衆からの人気は相当な者らしく、その影響力は侮れないのだとか。
今回、サヤカは教皇を物理的に排除し、その民衆からの人気を利用して聖国を立て直すつもりなのだ。
〈なんだか、究極の管理型社会みたいだな〉
僕はサヤカから聖国の現状を聞いて最初に思い浮かんだのはそんな感想だ。確かにいいように使われてはいるが、"思考鈍化"のせいで犯罪を起こそうという気も起きないらしく、犯罪やいじめなどは少ないのだとか。大きな幸せもないが大きな不幸も感じない。人生としては寂しい気もするが、幸せの形としてはなくはないという気がする。
まあ、自分がその中に入りたいかといえばNOなのだが。
とにかく、サヤカが教皇を倒してこの国を変えたいというのであれば協力するだけだ。なにせ、聖国はオーロラがいる帝国に戦争を仕掛けたのだ。それだけでも敵対するに値する。サヤカによると、枢機卿のうちの一人と、聖国にいる貴族の何人かが味方なのだとか。
よかった。一人で何とかしようとしていたんじゃなくて。枢機卿が味方なら、上手く教皇を倒した後も、混乱せずに聖国を立て直すことができそうだ。
そうこう考えているうちに、白い壁に囲まれた巨大な都市が現れた。どうやら、ようやく聖国へと到着したようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます