第70話 お別れ

 コメントの中でハヤトやサヤカサイドの話が知りたいと言うことでしたので、急遽閑話を作り昨晩、近況報告に載せました。現在、サポーター限定公開になっていますが、2日ほどで外す予定です。

 多少のネタバレというかこれから登場する内容とかすっている部分がありますので、ネタバレを望まない方はそっとしておいても問題ありません。(言うほど核心には迫っておりませんが)

 また、おそらく大部分の方が想像している内容では無いであろうことが予想されます。そういった場合は、読み切る前にそっとブラウザをお閉じください。

 あ、あとついでのようになって申し訳ないですが、この場を借りて再度読者のみなさまにお礼をさせてください。現在、この『苔から始まる異世界生活』が想像以上にたくさんの方々に読んでいただけております。あまりに色々な数字が急激に増えており、怖くなって自分でも色々調べてみました。フォロー数や☆、♡の数、PVなんかも検索してみました。その結果、なんかとんでもないことが起こっているようです。もちろんありがたいという意味ですが。

 その中でも特にギフトやコメント付きレビューなど、明らかにハードルが高そうなものまでいただき恐縮しきりです。

 この作品を投稿し続けられるのも、偏に読者のみなさまのおかげだと感謝しております。今後も、みなさまの暇つぶしに少しでも貢献できたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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 さて、オーロラの前で本当の実力を発揮してしまった僕だったが、とりあえずハヤトとサヤカには話をつけた。


 何でも2人ともこの任務には乗り気ではなかったが、ハヤトは魔王から命令され仕方がなく、サヤカも教皇に民衆を人質に取られ仕方なく受けたのだそうだ。ずいぶんノリノリに見えたけど、ほんとかいな?


 そこで僕はこの任務は失敗したことにして、魔王と教皇を3人で一緒に倒そうと話を持ちかけてみた。


 意外なことに、サヤカの方は直ぐに賛成してくれた。理由は聖国では教皇をはじめ、権力者が思考力を鈍化させる煙を国中に撒いていて、民衆からいいように富を搾取しているからだそうだ。

 さらに教皇がいずれサヤカとの結婚を考えているらしく、『あんなエロジジイと結婚するくらいなら死んだ方がマシだ』と息巻いていたので、その覚悟があるならいっそ先にやっつけてしまってはどうかという話になったのだ。


 実のところ反教皇派もそれなりの数がいるらしく、ハヤトと僕がいれば上手くいきそうだと、サヤカは判断したようだ。


 ハヤトの方は最初は渋っていた。魔王が我々3人よりも強いからというのがその理由だ。それについては考えがあるので、それを説明したら渋々了解したくれた。ただ、僕の作戦は少々時間がかかるので、この任務に苦戦して時間がかかっているという嘘の情報を流すことにした。


 2人と話がついた僕はオーロラの元に向かって、開口一番念話で実力を隠していたことを謝った。いきなり泣き出された時には焦ったけど、正体を隠していたことより、僕と会話できていることへの嬉し泣きだと聞いて安心した。


 その後、ハヤトとサヤカには1日待ってもらうことにして、僕達はいったん帝都へと帰ることにした。みんなの僕を見る目が変わってしまっていたのが、少々寂しさを感じる。


 テオドール達にはオーロラを通して全てを打ち明けることにした。一応、内緒にしてもらうつもりだけど、どのみちここを離れるつもりだから、バレてもそれほど問題はない。それよりも、オーロラにこれからの話をどう切り出そうかの方がよっぽど難しい問題だ。


 幸いにもテオドール達はオーロラの『帝都に戻ってから説明します』という言葉に素直に従ってくれた。すぐには納得しないと思ってたけど、さっさとハヤト達と離れたかったのだろうか。


 



 帝都に戻ったところで、オーロラがみんなにあの時の状況を説明し、テオドール達はすぐに皇帝にそのことを伝えに行った。もちろん全てを正直に話すわけではなく、魔王子と聖女に襲われたが、高ランクの魔物が偶然現れ聖女達に襲いかかったので、その隙に逃げてきたと嘘をついてもらった。


 これで聖国側にも聖女が任務の遂行中だということが伝わるだろうし、前線に聖女がいないこともわかるだろう。そうすれば、ミカド・タイヨウが一気に聖国を蹴散らしてくれるかもしれない。そうなれば僕達の作戦の成功率も上がるというものだ。


 さらに魔王子がいたことで、聖国と魔王国の繋がりにも気がつくだろう。いい加減、身内で足の引っ張り合いをしている場合ではないことにも、気がついてほしいところだけど。


 僕とオーロラは一足先に寮に戻り、汚れを落とし、夕食を食べた後、ゆっくりと話し合った。


 僕は召喚された直後から、目立ちたくないために隠蔽のスキルを使ったこと。そのせいでオーロラが馬鹿にされてしまったことを謝った。


 オーロラは全く気にしてないと言ってくれたし、むしろ召喚に応じてくれてありがとうと言われた。なんていい子なんだろう!


 それから冒険者登録試験の時は、手加減が難しくてバレてしまったんじゃないかとドキドキしたこと、魔物には殺虫剤は効かないことを教えてあげた。


 どうやらオーロラは今の今まで、グリーンワーム大先生に殺虫剤が効くものだと思っていたらしい。


 その後も今までの思い出をたくさん話した。その間、僕はハヤトとサヤカとの約束をいつ切り出そうか考えているうちに、話疲れたオーロラは寝入ってしまった。


 仕方がないから今のうちに、孤児院に差し入れでもしておこう。しばらく帝都には戻って来れないだろうから。僕はオーロラに毛布をかけて、夜の街へと繰り出した。





 翌朝、朝食を終えた僕は意を決してオーロラへと話しかけた。


〈おはよう、オーロラ。今日は大事な話があるんだ〉


「おはよう、ミスト。話ってあなたがいなくなってしまうこと?」


 何!? なんでそのことがバレてるんだ!?


「うふふ、その顔は図星だったみたいね! 私はこれでもあなたの召喚主よ。あなたが考えていることなんてお見通しなんだから」


 そうか、召喚主は召喚獣の考えがある程度わかるんだったな。ってことは昨日から気づいていたのか。わかっててわざと話を逸らしていたんだな。


〈……いじわる〉


「ふふ、気がついたみたいね。だって、せっかくミストと話ができて嬉しかったんだもん。そんな時に悲しい話なんてしたくないでしょ?」


 まあ、オーロラの言うことはわからないでもない。確かに昨日はとっても楽しい時間を過ごさせてもらったから。


 それでもいつまでもこうしているわけにはいかない。森ではハヤトとサヤカが待ってるからな。


〈僕はこれから教皇と魔王を倒しに行こうと思う〉


 僕はそう切り出して、ハヤトとサヤカとの約束についてオーロラに説明した。現時点では教皇はともかく、魔王には手も足も出ないかもしれないから、"進化"することも伝えた。おそらく進化することで、召喚獣としての契約が切れてしまうであろうことも。これについてはそんな感覚がするとしか言えないが、確信がある。


「そっか……でも、とっても大事なことなんだよね……」


 聖国とそこに繋がる魔王をなんとかしないことには、帝国に安全は訪れない。そのことはオーロラも理解しているのだろう。


「それで、進化って言ったけど、次は何になるのかな?」


 気持ちを切り替えたのか、努めて明るい声で聞いてきた質問に答えるべく、進化先を確認する。


□進化先を選んでください

・ファイアードラゴン

・ウォータードラゴン

・アイスドラゴン

・アースドラゴン

・サンダードラゴン

・ウインドドラゴン

・ホーリードラゴン

・ダークドラゴン


(うお!? 随分といっぱい出てきたな。今回の進化先は全てドラゴンか……)


〈次の進化はドラゴンかな〉


「えぇぇぇ!? ドラゴン!?」


 僕が進化先を伝えると、オーロラは口に手を当てて驚いている。そりゃ驚くか。小さな猫の進化先がドラゴンだったら。


〈僕はこう見えてもAランクだからね。次はドラゴンくらいじゃないと、釣り合わないのさ〉


 なんてちょっと格好つけて言ってみた。


「そっかー、ドラゴンか……あんまり姿が変わっちゃったら、次に会った時にわからないかもしれないね」


 オーロラが心配になるのはもっともだけど……


〈大丈夫、僕が覚えているから〉


 もう少しだけ格好つけさせてもらおう。


「ありがとう。絶対にまた会いに来てね」


 涙ぐむオーロラの声は少し掠れている。こんないい子と別れるのは僕も辛いが、しばらく前からレベルが上限に達し、進化するタイミングを見計らっていたところだったので丁度いい。というかこのタイミングを逃したら一生この状況から抜け出せなくなりそうだ。


 それはそれで幸せそうだとは思うが、僕が最初に立てた目標はまだ達成できていない。転生者を見つけることはできたが、スローライフにはまだまだ程遠い。スキルももっとたくさん集めたいし、最終的には人間まで進化して自分で稼いで独り立ちしたい。できるかどうかわからないけど。


 そこまでできたら改めてオーロラに会いに来よう。

 

「ねえ、ミスト。あなたはこのまま進化し続けたら人間になれるのかな?」


 僕が自分の考えに浸っていると、オーロラが僕の考えを読んでいたかのように聞いてきた。


〈えっ!? それは……どうなんだろう?〉


 突然、考えていることを当てられて動揺してしまった。全ては"特殊進化"がいつまで続くのかにかかっている。

 いつかは、転生する時に選ぶことができた竜人や魔人、人間を選ぶことができるようになるのだろうか?


 もし最後にそれらを選ぶことができたなら……人としての生活を送ることができるのかもしれない。まあ、過度な期待はダメだった時のショックが大きいから、できたらいいなくらいで考えておこう。


 どちらにせよ、自分が納得できる状況になったらまたオーロラに会いに来ようと思う。


 僕はオーロラとの別れを惜しみながら、ハヤトとサヤカが待つ森へと向かった。



第四章 完

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