第60話 パーティーへのお誘い

「さて、気合い入れて行きますか!」


 昨日はオーロラは帝都の人の多さと若干目立ってしまったことで落ち着かない一日を過ごすことになったが、一晩ゆっくり休むことで少し心に平穏が戻ったようだ。早起きして身だしなみを整え、寮に備え付けの食堂で朝食をとった後、両手で頬を叩いて気合いを入れて教室へと向かった。


 制服については寮の部屋のクローゼットにすでに用意されていた。最初にこっちによって着替えてから学園に行けばよかったと少々後悔しつつも、今日からは目立たなくて済むということで今は納得しているようだ。


 寮から校舎までは当たり前だが目と鼻の先にある。入り口で守衛のおじさんに会釈をし中へと入っていく。昨日は校舎を案内してもらってはいたが、大分上の空だったようだ。時折迷う素振りを見せていたので、僕がさりげなく先導し教室へと案内してあげた。


 ガラガラ


 教室の入り口の前で深呼吸をしたオーロラは勢いよくドアを開ける。


「おぉ! ようやく来たなオーロラ! 待っていたぞ!」


 ドアを開けて顔を出すなりテオドールがまるで演劇のような大げさな身振りでオーロラを出迎えてくれた。その後ろには合同演習で見知った顔が並んでいる。テオドールの護衛のナタリー。なぜか召喚獣を一体隠している怪しいサミュエル。小さな身体に大きな召喚獣を従えるノートル。本人も召喚獣も食いしん坊のオルゴン。うん、今何か口に入れたね。そして、赤毛で元気いっぱいのアンジェラ。

 たった10日間とはいえ、最後には命がけでドラゴンと戦った仲だ。まあ、実際戦ったのは僕だけど。とにかくあの10日間でそれなりに親しくなった6人の顔を見て、ようやくホッとしたような顔を見せるオーロラ。早速用意された席に着くとお互いの近況を報告し合っていた。


 ほどなくして現れたここ帝都魔法学園の召喚士クラスの教師は、あの合同演習に来ていたゴードン・スチュワートだった。相変わらず灰色の口ひげが特徴的なダンディなおじさんなのだが、そんなダンディなおじさんがオーロラの顔を見て一瞬怯えた表情を見せたのは気のせいだろう。




 さて、この日からオーロラの帝都魔法学園での生活が始まったわけだが、なるほど流石に軍事国家と言われるだけはある。その授業内容は驚くほど戦闘に関してが多い。それも対人間を想定した戦い方についてだ。


 レインボウにある魔法学園でも戦闘に関する内容はあったが、あくまでも対魔物中心だった。それこそ、色々な魔物の特徴や弱点を学び、自分と召喚獣との相性を考え、どうすれば有利に戦えるのかを学んだ。


 しかしここでは、一対一、一対多数、果ては多数対多数といった、まるで戦争を想定しているかのような戦い方について学び、考えることが多い。いや、実際、戦争を想定しているのだろう。他ジョブとの連携や召喚隊の役割、様々な戦術についてなど学ぶことはたくさんある。


 考え方や行動が単純な魔物と違って、人間相手だとより臨機応変な対応が必要となるのだろう。もちろん高度な知能を持った魔物も存在するが、そんな魔物とは滅多に遭遇しないらしいからね。


 兎にも角にも、授業の質も量もレインボウの魔法学園とは雲泥の差だ。オーロラも授業についていこうと必死に頑張っている。だけど、僕はオーロラにはこんな知識を使う日なんて来なければいいと思っている。戦争によって得られるものなんて何もないからね。失うものはたくさんあるのに……


 とは言え、この世界じゃそうも言ってられないのだろうけど。


 オーロラの召喚獣であるスノウは、元々の戦闘力が高い上に戦闘に有利な炎魔法と応用が利く風魔法を使えるので、戦い方の幅が広い。おまけに空を飛べるという何にも代えがたいアドバンテージがあるので、軍としては是が否にでも手に入れたい逸材だろう。だが軍にその存在を知られる前に、テオドール皇子に気に入られたことで、そうそう軍の関係者も手を出せないはずだ。


 オーロラはここで実践的な演習も含め、たくさんのことを学びながらスノウとともに成長していった。



種族 人間

名前 オーロラ

ランク  C

レベル 36

体力   146/146

魔力     180/180

攻撃力    108

防御力    111

魔法攻撃力 145

魔法防御力 181

敏捷     76


スキル

召喚魔法 Lv15

棒術Lv7

聖魔法Lv5


(称号)

(ミストの加護)



種族名 スペリオルグリフォン

名前 スノウ

ランク A-

レベル  66 

体力    355/355

魔力    376/376

攻撃力   369

防御力   267

魔法攻撃力 391

魔法防御力 402

敏捷    274


スキル

咆哮 Lv13

飛翔 Lv14

麻痺の魔眼 Lv12

敵意察知 Lv14

風魔法 Lv16

炎魔法 Lv14

風耐性 Lv16

炎耐性 Lv14

土耐性 Lv13

毒耐性 Lv11

混乱耐性 Lv11

麻痺耐性 Lv12


(称号)

(ミストの加護)

 

 オーロラが帝都に来てから1ヶ月ほどが経ったある日のこと……


「なあ、オーロラ。2週間後の水の日にパーティーを開くのだがちょっと来てみないか?」


 朝、オーロラが教室に入ると不意にテオドールがそんな言葉を投げかけてきた。


「えぇ!? アタイ達だって誘われてないのに!? 何でオーロラだけ?」


 オーロラが反応する前にアンジェラが驚いたように大声を上げた。その声につられ他のメンバーもわらわらと集まってくる。


「も、もしかして、そのパーティーとはテオドール殿下の生誕祭のことですか!? そんな限られた人間しか参加できないパーティーにオーロラを?」


 アンジェラに続き、普段冷静なサミュエルまでも感情を露わにテオドールに詰め寄る。サミュエルのこんな姿は珍しい。よっぽど誘われなかったことがお気に召さなかったのだろうか。


「いやー、余としてもここにいるみんなは誘いたかったのだが、なかなか父上が許してくれなくてね。で、オーロラはその父上直々のご指名なのさ。おそらく、軍の召喚部隊の部隊長辺りの進言だと思うのだがな」


 テオドールの説明を聞いて、納得したように頷くオーロラ以外の面々。なるほど、いくらテオドールのお気に入りとは言え、スペリオルグリフォンを従える人物がどのような人間なのかを実際に見ておきたいといったところか。


「あっ、えっ、その……」


 ひとり会話から取り残されたオーロラがどう返事をしてよいのかわからずおろおろしている。


「う、うらやましいんだな~。オラも参加したかった…」


「オルゴンはパーティーで出される料理を食べたいだけだろう!」


 食いしん坊のオルゴンとちびっ子のノートルの掛け合いのおかげで、場の雰囲気が少し柔らかくなった。無意識だろうけど、なかなかいい仕事をしている2人だ。


「ふん! おおかた貴族のパーティーなどには参加したことがないでしょうから、私が色々教えて差し上げますわ」


「あ、ありがとうございます……」


 なぜか若干お怒り気味のナタリーの言葉に反射的に答えてしまうオーロラ。しかし、その返答は……


「おお! 来てくれるか! てっきり断られると思ったんだがな! 貴族のパーティーなんて面倒くさいだろうし。わっはっはっはっは!」


「あっ、あの、その……」


 結局、オーロラがもじもじしている間にあれよあれよと参加することに決まってしまった。それどころか、ナタリーに今後2週間の予定まで組まれてしまい、パーティーで着るドレスを買ったり、マナーや立ち振る舞い方を教えてもらったりと、レベル上げ以上に大変な日々を過ごすことになってしまった。


 おかげで横で見ていた僕も、貴族のマナーに詳しくなったよ。


 そして2週間後を迎える――――

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