第59話 帝都ミシティア魔法学園

 合同演習が終わってから5日後、オーロラ達は特に何事もなくレインボウへと帰ってきた。街に戻ってきてすぐは、ドラゴンの素材の換金やら何やらで忙しかったが、その分しっかりお金になったのでドルイド達もウハウハだったようだ。オーロラはあまりの大金に少々困惑していたようだが。


 オーロラはアストラル大平原を出発する直前に、帝都ミシティア魔法学園の召喚魔法科の教授であるゴードン・スチュワートから、帝都の魔法学園に来ないかとお誘いを受けていた。もちろんテオドールが裏から手を回したのは明らかだが……。彼らは帝都に着いたらすぐに紹介状を送ると言っていので、早ければ1週間後には届くだろう。

 当初、オーロラはこの誘いに難色を示していたが、エリザベート教授の強い薦めとドルイド達の熱い応援に説得され、転学を決めた。僕もその方がいいと思っていたのでオーロラの決断にほっとしている。


 それからは正式な紹介状が届くまで、お世話になった人達へのお礼参りや、少しでも向こうの高いレベルについていけるようにランク上げなどを頑張っていた。仲良くなったギルドの受付嬢であるキティさんや、クエストでお世話になったポーション屋の女将マーサさんなどは残念がってはいたが、レインボウの街から帝都の魔法学園に入れる人など滅多にいないと喜んでくれてもいる。何でも50年ぶりの快挙だとか何とか。

 僕もオーロラが眠った後、夜な夜な街を歩き回り、孤児院や病院などにドラゴンの肉をはじめ果物や食べられそうな魔物の素材を置いてきた。そう言えば、こっちに来てからしばらく経つけど王都のみんなは元気かな? オッチョさんとか孤児院のみんなとか元気にしているだろうか。

 そしてここの孤児院にもなぜか猫の銅像が飾られるようになった。はて、誰かに見られちゃったのかな?


 ちなみにオーロラのステータスだが、合同演習でレベルが3つほど上がっており、その後もお礼参りと合わせてクエストも頑張ってこなしていたので、スノウの戦闘能力と相まってランクが1つ上がりCランクとなっている。


種族 人族

名前 オーロラ

ランク  C

レベル 32

体力   130/130

魔力     160/160

攻撃力    96

防御力     99

魔法攻撃力 129

魔法防御力 161

敏捷     68


スキル

召喚魔法 Lv14

棒術Lv5

聖魔法Lv3


(称号)

(ミストの加護)


 ふむふむ、召喚魔法のスキルが1つ、棒術と聖魔法のスキルが2つずつ上がっているな。召喚魔法のスキルがあとひとつ上がれば"奪取"を覚える。これを覚えたら実質、僕の体力と魔力を使えるようになるのだから、人間としては有り得ないほどの魔法を使うことができるようになるだろう。あんまりたくさん使われると、僕の本当のステータスがバレてしまいそうでおっかないんだけど、まあ、オーロラの性格上ほとんど使わないだろうけど。ましてや未だに僕のことを猫だと思っているからなおさらに。



 そして、アストラル大平原から帰ってきて丁度一週間後、帝都ミシティア魔法学園から、いやテオドールからの紹介状がオーロラ宛に届いた。というかそのあの皇子様もう学園を通すことなく、直接紹介状を送りつけてきました。

面倒くさくなったなイケメン皇子め。


 次の日オーロラはたくさんの人達に見送れらながらレインボウの街を出発するのだった。




 レインボウを出発して馬車に揺られること一週間……ということはなく、スノウの背中に乗ってひとっ飛びすれば2日で到着してしまうこのでたらめさ。ちなみに、僕が全力で走れば1日かからずに到着する自信がある。


 途中、馬車を襲っていた魔物を追い越し様に魔法で倒したりと中々に楽しい空の旅であった。





 そして、僕らは今帝都の正門前に並んでいる。


「すごい行列だねー」


 オーロラが言うように、帝都正門前には長い行列が出来ていた。僕一人ならさっさと忍び込んじゃうんだけど、さすがにオーロラが一緒だとそうはいかない。スノウは少々目立ちすぎるので王都西にある森に隠れてもらっている。ギルドで見せる必要があれば召喚すればいいからね。


 僕とオーロラは行列の最後尾についた。正門の衛兵達の頑張りのおかげか、前に進むのも速いが僕らの後ろにもどんどん人が並んでいき、行列の長さはいつまで経っても短くなる気配がない。さすがは帝都。まあ、その分出て行く人も多いんだけどね。


 2時間ほど待つことでようやく僕達の番が来た。たくさんの衛兵さんがせわしなく動き、入国希望者の持ち物を改めている。さぞかし厳しく点検されるのかと思いきや、オーロラがテオドールからもらった紹介状を見せると、担当した衛兵さんが慌てて中へと引っ込み、何やら偉そうな人を連れて出てきた。

 その偉そうな人が突然敬礼して頭を下げるもんだから、その場にいたみんなが何事かと注目しちゃって大変でした。


 オーロラも恥ずかしそうにうつむきながら、持ち物を見せることもなく偉い人に連れられて門をくぐり抜けるのであった。





「すごい……人も建物もいっぱい……」


 レインボウも小さな街ではなかったが、帝都に比べたら月とすっぽん、いや、都会と田舎くらいの違いがある。その街の大きさにオーロラは少々怖じ気ついてしまったようだ。ここは僕が安心させてあげなければ。


「にゃ~」


 僕はオーロラを見上げて頼もしい声を出した。


「ふふ、心配してくれたのね。ありがとう!」


 オーロラが天使のような笑顔を浮かべながら僕を抱き上げる。久しぶりの抱っこに危なく鼻血がでるところだった。


「まずは魔術学園にあいさつにいかないとね」


 オーロラは僕を抱いたまま、そう呟いて歩き出す。途中、道を尋ねながら帝都ミシティア魔法学園を目指した。





「ほぇ~、随分大きな建物だね」


 オーロラが胸に抱く僕に語りかけてきたように、帝都ミシティア魔法学園はレインボウ魔法学園の軽く見積もっても数倍の規模の建物だった。当然通う生徒もそれだけ多いのだろう。今もたくさんの生徒が正門から出入りしている。

 その生徒達の制服は何種類かに分かれているようだ。おそらく学年によって色が分けられているのだろう。確かテオドールの話だと今年は1年生が青、2年生が黄色、3年生が赤を基調とした制服になっているらしい。学科の違いは胸に輝くバッジだそうで、この学園には『属性魔法科』、『治癒魔法科』、『補助魔法科』、『召喚魔法科』の4種類の科があるようだ。


 オーロラはまず正門横にある守衛室へと向かった。オーロラはレインボウ魔法学園の制服を着てきたため、すれ違う生徒が物珍しそうに視線を向けてくる。その視線から逃れようと俯きながら歩くオーロラの足は自然と小走りになっていった。


 オーロラが守衛室に着いてホッとしたのも束の間、ここでもテオドールの紹介状が素晴らしい効力を発揮し、守衛さんがえらい緊張した様子で学園長室まで案内してくれたもんだから、余計に目立ってオーロラの顔は真っ赤になっていた。それはそれで可愛くはあるのだが……あのイケメン皇子め、こうなるのをわかっててやったな。


「ふむ。おぬしがテオドール殿下の推薦を受けて転学してきたオーロラじゃな。そう緊張せんでもええ、わしの名はエルダン・アルグオーラ。気軽にエルたんとでも呼ぶがよい」


 白髪に長いあごひげ、鋭い目つき。いかにも魔法使い風の老人から発せられているとは思えない、まさかのエルたん発言。何だこのおじいさんは? オーロラを困らせるのが目的か!?


「いや、あの、それは……」


 当然のごとく言葉に詰まったオーロラを見て、豪快に笑い声を上げるエルたん。こうなったら僕は意地でもエルたんって呼んでやる。


 学園長に挨拶した後は、別の教師に連れられて学園の中を案内してもらった。ここでも可憐な容姿のオーロラは物珍しそうな視線にさらされ、終始うつむき加減で案内されていた。その分、僕がしっかりと校舎の造りを把握しておいてあげた。こう見えて方向感覚はばっちりだからね。


 この日はこれにて終わりとなったので、宿舎へと案内してもらいようやく一息つくことができた。オーロラは慣れない視線にさらされて緊張しっぱなしだったようで、部屋に入った途端にベットにもたれかかってしまった。

 特に何かを言えるわけではないが、その隣にそっと座る黒猫の僕。オーロラはそんな僕の背中をしばらくの間撫でてくれた。自慢じゃないが、Aランクを越える実力を持つ僕の毛並みはそんじょそこらの猫とは違う。サラサラにしてツヤツヤな上にフワフワという完璧なさわり心地を持つ僕の毛並みに、オーロラも次第に落ち着きを取り戻しているようだった。僕の毛並みを満喫し終えたオーロラは、いつも通りの明るく元気な女の子へと復活していた。


 夕食もしっかりと食べ、明日への準備を終えたオーロラがベッドに入って寝入った後、僕は帝都の街へと繰り出すのであった。

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