第58話 合同演習の終わり ○

〈スノウ、ヴォーラの攻撃に合わせて後ろのブルードラゴンを殺る。上手く合わせて〉


〈わかりましたわ〉


 過激派リーダーのガークとヴォーラが何やら会話をしている間、後ろのイスラとミスラは完全に油断しているようだった。テオドール達召喚士軍団は、戦闘態勢こそ崩していないものの、さすがに先制攻撃をしかける勇気はないようだ。


 ヴォーラとガーグの会話は念話だったので、辺りを静寂が包み込む。その静寂を打ち破ったのは、ガーグの雄叫びだった。


「ゴァァァァァ!」


 ガーグの頭上に直径5mはありそうな火の玉が浮かび上がる。


「グゥォォォォォ!」


 その火の玉に呼応するかのように、ヴォーラの頭上にも似たような火の玉が現れた。


(よし、今だ!)


 僕はその瞬間に行動を開始した。


 幻惑のスキルを使い、自分の姿をそこに映し出しつつ自分の姿を周囲と同化させ、気配遮断、魔力遮断をフル活用しブルードラゴンの背後へと回り込む。よしよし、スノウ以外は気がついていないようだ。


 一瞬でブルードラゴンの背後に回り込んだ僕は間髪入れずに雷魔法第2階位"インドラジャジメント"を放った。


 バシュ!


 ブルードラゴンのイスラいやミスラの方か? とにかくどちらかが頭上から突如襲ってきた極大の稲妻によって消し飛んだ。


「「「!?」」」


 その場にいた全員が先ほどまでブルードラゴンがいたであろう空間に目をやったその隙に、今度は雷纏を纏い、一足飛びでもう一体のブルードラゴンの元へ飛び、その太い首を前足の爪で切断した。


 ボトリと落ちたブルードラゴンの首。誰もが頭を失ったブルードラゴンを前に呆けている。ヴォーラとガーグの頭上にあった火球もいつの間にか消えていた。


 みんなが言葉を失っている間に僕は元いた場所へと戻り、幻惑を解除する。


〈さすがでございますわ、ミスト様〉


〈まあ、油断してくれていたみたいだし、首はドラゴンの弱点でもあるからね。雷纏を纏えば僕の攻撃力でも一撃で落とせると思ったよ〉


 みんなの動きが止まっているので、その間にスノウとの会話を楽しむ余裕すらある。


 さて、あとはリーダーのガークだけだが、こちらはヴォーラとスノウに頑張ってもらうとしよう。幸い、オーロラがガーグが来たのと同時にヴォーラにヒールをかけまくっているから、徐々に怪我が回復しつつある。

 参戦ついでに、ヴォーラとの戦闘になったら重力魔法第4階位"ヘヴィ"と時空魔法第4階位"スロウ"をガーグにかけておくか。


〈イ、イスラとミスラが!? な、なにが起こったのだ?〉


 突然の出来事にフリーズしていたガーグが再起動したかと思うと、器用に念話で叫び声を上げた。と言うか、念話って無意識だと周辺にいる全員に聞こえるんだね。

 

〈グワッハッハッハ! 何が起こったかは我もわからんが、どうやらこれは貴様を倒すチャンスのようだな!〉


 こちらも再起動したヴォーラが、折れた角はそのままだし、鱗も所々剥げたままだが、明らかに先ほどよりも傷が塞がっている巨体を持ち上げた。それを見たガーグはスノウの方を忌々しげに睨みつけた後、ヴォーラと向かい合う。その様子から、どうやらブルードラゴン2体を倒したのはスノウしかいないと思っているようだ。


 ヴォーラとガーグは念話で二言三言話したかと思うと、唐突に戦闘を開始した。それに合わせて僕は、ガーグにヘヴィとスロウをお見舞いする。


〈ぬぉ!? 何だこれは!?〉


 飛び立とうとしたガーグが重力魔法により地面へと縛り付けられる。さらに、スロウの効果でガーグの詠唱が遅くなり、そのおかげでヴォーラの火球の方が先に完成したようだ。


「どうした? 遅い、遅いぞぉぉぉ!」


 最早、念話でもなくなったヴォーラの叫び声を聞きつつ、オーロラ達にはドラゴンの咆哮に聞こえるんだよなーなどという思考にふける。


 その間に、ヴォーラの放った特大の火球が未だ地面に貼り付けになっているガーグへとぶつかり、大爆発を起こした。ガーグは火耐性を持っているので火球自体のダメージはそれほど大きくないのかもしれないが、爆発によって吹き飛ばされ、大きな岩を破壊しながら転がって行くのは決して小さなダメージではないだろう。もちろん、火球が着弾した瞬間にヘヴィは解いている。


 さらにここぞとばかりにヴォーラが火魔法第4階位"ファイアーバレット"を連続で撃ち出した。


 ファイアーバレットはファイアーボールに比べ威力は弱めだが、連射が可能なので全弾命中すればファイアーボールの数倍のダメージが期待できる。


 ヴォーラの炎の弾丸が連続してガーグに着弾し、辺り一面が土埃にまみれているその隙に、僕もウォーターエッジを放った。鋭い水の刃がガーグの巨体を易々と傷つけていく。


「ウゴァァァァ!」


 土埃が晴れたそこには、全身傷だらけになり叫び声を上げるガーグがいた。


 そして、その頭上にはいつの間にか飛び立ち、ガーグへと急襲するヴォーラの姿があった。


〈終わりだ、ガーグ〉


 そう小さく呟いたヴォーラは、ガーグの首へと牙を食い込ませそのまま咬みちぎる。首から上がなくなった傷だらけの赤い巨体が、力を失い地響きを立てながら崩れ落ちた。






〈まさか、貴殿のような小さきものがあれほどの強さを秘めているとは……世の中は広いものだ〉


 ヴォーラとガーグの戦いが終わった後、ヴォーラが僕に念話を送ってきた。さすがにちょっと動きすぎたせいで、ヴォーラには僕がイスラとミスラと倒しガーグを倒す手助けをしたのがバレてしまった。ガーグにはバレていないようだったのに、ヴォーラに気づかれるとは……


 僕はヴォーラとの出会いについては語らず、スノウとの交渉の結果を聞いたから手助けすることに決めたと伝えた。昔はミアズマでしたと言っても信じてもらえそうになかったからね。


 ヴォーラは僕達にお礼を言った後、静かに飛び去っていった。自分の住処には戻らず、穏健派が集まる拠点に戻るそうだ。


 テオドール達はドラゴン同士の戦いについていけず、ただ彼らの戦いの余波から自分達を守るので精一杯だったようだ。しかし、3体のドラゴンが死に1体が飛び去った今、彼らの目の前にあるのは決して簡単には手に入れることができないドラゴンの素材お宝だ。とは言え1体は消し飛んでしまったが……


 その場に残った全員がお互いの顔を見合った後、テオドールの動き出しに合わせてドラゴンの解体を始めた。うん、10日間で本当にぴったり息が合うようになったもんだ。


 僕以外の9体の召喚獣が警戒する中、黙々と剥ぎ取りが進んで行く。僕は少々暇になったので、ステータスを確認することにした。先ほど高レベルのブルードラゴンを2体も倒したからレベルが上がっているのではないかと思ったわけだ。その予想に間違いはなく……


種族 ミラージュキャット(変異種)

名前 ミスト

ランク A

レベル  77 

体力    908/908

魔力    532/1085

攻撃力   758

防御力   738

魔法攻撃力 1192

魔法防御力 1182

敏捷    1035


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

暗視

念話

アイテムボックス Lv27

鑑定 Lv27

ステータス隠蔽 Lv22

思考加速 Lv28

生命探知 Lv28

魔力探知 Lv28

敵意察知 Lv26

危機察知 Lv26

気配遮断 Lv22

魔力遮断 Lv22

体力自動回復 Lv24

魔力自動回復 Lv28

幻惑 Lv24

魔眼(麻痺) Lv20

光魔法 Lv26

水魔法 Lv30

風魔法 Lv22

土魔法 Lv22

雷魔法 Lv24

時空魔法 Lv15

重力魔法 Lv15

猛毒生成 Lv25

麻痺毒生成 Lv20

睡眠毒生成 Lv20

混乱毒生成 Lv20

痛覚耐性 Lv21

猛毒耐性 Lv25

麻痺耐性 Lv20

睡眠耐性 Lv20

混乱耐性 Lv20

幻惑耐性 Lv20

水耐性 Lv21

風耐性 Lv21

土耐性 Lv21

雷耐性 Lv21

瘴気 Lv20

硬化 Lv18

雷纏 Lv23


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング

暗殺者

同族殺し

加護主


 おお! やっぱりレベルが大幅に上がっている。最後に確認したのがいつか忘れたけど、確か10を少し過ぎたくらいだったような気が……


 それにしてもついにステータスの一部が4桁に突入したぞ。ズメイには未だ及ばないが、Aランクのドラゴン辺りなら何十体来ようと返り討ちにできそうだ。


 それに魔法関係も順調に育っているな。光魔法が第1階位の"フラッシュノヴァ"を使えるようになった。これは任意の一点から殺傷能力を持つレーザービームを全方位にまき散らす凶悪な魔法だ。さながら新しい星が誕生したように見えるからこの名前がつけられたらしい。


 それに重力魔法と時空魔法の第3階位が使えるようにもなった。重力魔法の方が"ライトウェイト"、時空魔法の方が"クイック"だ。ちまちま使っていたかいがあった。ライトウェイトはその名の通り重力の影響を緩和し、物体を軽くする魔法だ。ヘヴィの逆バージョンだね。これを上手く使えば、ひょっとしたら空を飛べるようになるかもしれない。後日、要検証だね。

 時空魔法のクイックはスロウとは反対に一定範囲の時間の流れを速くする魔法だ。自分にかければ範囲外の時間の流れが遅くなるわけだから、実質敏捷が上がるのと同じ効果を得られるだろう。しかも、このクイックとスロウは別の目的でも使えそうだな。主に栽培や料理の関係で……いずれ人の身体を手に入れたら試してみようと思う。


 さて、色々と確認をしている内に剥ぎ取りも終わったようだ。さすがにドラゴン2体分の素材は量が多すぎて、テオドールの魔法の袋マジックバッグを持ってしても全ては持って帰ることができなのだろう。牙や鱗、魔石といった高価な部分だけみんなで持って、肉や骨は置いていくしかないようだ。

 僕はみんながしばらく歩いたところでこっそり戻り、残った全てをアイテムボックスへと詰め込んだ。ドラゴンの肉はおいしいって聞いていたからね。


 それから来た時と同じ時間をかけてアストラル大平原の西へと戻り、エリザベート先生やゴウケンさんと合流した。先生方は僕達を追いかけている途中、運悪くオーガの集団に遭遇し戦闘になったそうだ。ギリギリ倒し終えた後にはもう僕達の姿はなく見失ってしまっていたようだ。

 テオドールがドラゴンと遭遇した話をしたら、先生方みんなが青い顔をして驚いていた。中でも総責任者のゴードンは真っ青な顔でブルブルと震えていた。そりゃそうだよね。演習中に皇子様に何かあったら彼の首が物理的に飛ぶのだろうから。

 テオドールが笑顔で肩を叩いているけど、元に戻るにはしばらくかかりそうだ。


 こうして、僕達の合同演習は終わりを迎えるのであった。

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