第56話 岩場の陰にいたもの

 合同演習を始めてから5日目、オーロラ達は目的のひとつであるブルーオーガをついに発見した。この時のブルーオーガ捜索組は、オーロラとドルイド、それにノートルとアンジェラの4人だった。


「ボクのダディが壁役になる。その間にみんなで攻撃して」


 ノートルのタフネスドッグがオーガの攻撃を引き受けている間に、ドルイドのファングウルフとアンジェラのバトルモンキーがヒット&アウェイを繰り返す。素早さで劣るブルーオーガは、ファングウルフとバトルモンキーの動きを捉えきれず、結果、タフネスドッグを攻撃するしかない。

 途中、ブルーオーガのでたらめな攻撃がファングウルフに掠り、ファングウルフが傷を負ったものの、それ以外は危なげなく討伐することができた。もっとも、格上であるブルーオーガの攻撃を一手に引き受けたタフネスドッグのダディはボロボロだったが、オーロラの回復魔法ですでに回復済みである。


 無事にブルーオーガの討伐を終えた4人は、すぐに拠点へと戻り報告した。10日間という期限に対して、半分の日数でブルーオーガを討伐できたことにみんな喜んでいた。後は適当に周囲の魔物を狩りつつ、残りの5日間を過ごせばこの合同演習も終わりだ。


 その5日間でオーロラも野営の仕方を覚えたし、薬草や食料となる植物、それに危険な毒草についてもしっかり学ぶことができた。サミュエルから毒草について教えてもらっているときなんかは、元毒草の僕としては微妙な気持ちになったりしたけどね。


 そして5日後……





「もうすぐ合同演習も終わりだし、せっかくだからもう少しアストラル大平原の中心部に近づいてみないか?」


 今日が最終日となった朝、テオドールがみんなにそんな提案をし始めた。


「そうだね。この辺りの地形も魔物もだいたい把握したから、安全マージンを確保しつつ少し奥まで行ってみるのもいいかもしれませんね」


 テオドールの提案にサミュエルが同意する。


「じゃあ、東の丘を越えたところに向かうのかな?」


 アンジェラの言う通り、アストラル大平原の中心部はここから東の方角にある。今までの探索で東には丘があり、その先には岩場があることがわかっていた。今回の目標はその岩場になりそうだ。


「その通り。もうこの拠点は使わないから、撤収した後みんなであの丘の向こうに見えた岩場まで行ってみよう!」


 この演習で初めての全員での冒険。最終日と言うこともあり、否が応でもみんなの気持ちが高ぶっている。先頭を行くのは、みんなと行動を合わせるためにスパークには乗らず歩いているテオドールだ。そのスパークには上空から辺りを警戒してもらっている。代わりにテオドールの横を歩くのは彼のもう1匹の召喚獣、シルバータイガーのカイオンだ。Cランクのシルバータイガーは、この中ではスノウとスパークにつぐ強さを誇る。


 そのテオドールのすぐ後ろを歩くのが、護衛のナタリーだ。こちらもテオドールに合わせてか、バトルホースのダンドーには乗らず歩いている。その後からはごちゃっと固まって行動しているが、最後尾はなぜかサミュエルが務めていた。シャドウマンティスを出していない以上、E+ランクのポイズンスパイダーだけでは殿は危険だと思うのだが。


 オーロラもそれに気づいていたのか、スノウに最後尾につくようにお願いしていた。僕としてもサミュエルは要警戒人物なので、その意見に賛成だ。


 さすがにこの規模の集団となると、平原外側の弱い魔物達は寄ってこないようだ。時折、好戦的なプレーリーウルフが草陰から襲いかかってくるが、みんなの召喚獣達にあっと言う間に蹴散らされていた。


 そんな調子で3時間ほど歩いたところで、岩場の手前にある丘までたどり着いた。


「いったん休憩にしよう」


 朝早くから出発したので、お昼ご飯にはちょっと早いが、いい感じに疲労もたまってきてるようだし、何よりここから先は未探索の場所になるので、このタイミングで休憩を入れるのはいい判断だと思う。さすが経験豊富な皇子様だ。


 みんな思い思いのところに腰をかけ、水分を補給する。もちろん、召喚獣達に飲ませるのも忘れない。しかし、テオドールは魔法の袋マジックバッグがあるからいいとして、他の人達は荷物が重そうで大変だな。


 ある程度休息できたところで、テオドールの『さてと』という言葉に合わせてみんなが示し合わせたように移動の準備を始める。何だかんだ言って10日間も一緒に行動していると、自然に息が合うようになっていくものなんだね。特に誰かが号令をかけるわけでもなく、テオドールが先頭に立って岩場へと向かった。





 その岩場は大平原の中にある割には一つ一つの岩が大きく、面積も広範囲に渡っていた。身の丈の数倍もある岩がゴロゴロ転がっているため、自然とみんなの緊張が高まっていく。岩陰から突如魔物達が襲ってくるかもしれないからね。その時、上空を旋回していたスパークが警戒するような甲高い鳴き声を上げた。上空から何かを見つけたようだ。それを聞いたテオドールはハンドサインで止まれの指示を出す。


 僕は念のために生命探知と魔力探知を同時に展開する。すると前方200m程先の一際大きい岩の陰にドラゴンが隠れているのを発見した。しかし、このドラゴンどうやら怪我を負っているようだ。生命反応が小さく、岩陰に隠れるようにして身を潜めていることから、間違いないだろう。


〈スノウ、前方200mの岩陰にドラゴンが身を潜めている。怪我をしているようだけど、警戒しておいてくれ〉


〈ドラゴンですか? このようなところになぜ?〉


〈さあ? それはわからないが、今のスノウなら十分に対処可能だと思う。万が一の時には僕も動くけど、できるならそれは避けたいかな〉


〈わかりました。話が通じる方のドラゴンならいいのですが、そうでない場合はワタクシが対処いたしますね〉


 僕は念話でスノウだけに状況を伝え、警戒するように促す。その間にテオドールはドレイクが見つめているところを割り出し、全体へと指示を伝えて終えたところだった。


 テオドールを先頭に大岩を包囲するようにじりじりと前進していく。ただし、ドレイクの様子からかなりの危険性を感じていたテオドールの指示により、距離を置いて遠巻きに包囲するように動いている。召喚士と召喚獣の包囲網が完成したとき、テオドールの横にスパークが舞い降りた。その動きを察知してか、大岩と大岩の間から体長10mはあろうかという赤い鱗のドラゴンが姿を現した。


「っ!? レッドドラゴン!? なぜこんなところにドラゴンが!?」


 テオドールが叫ぶと同時に、その場にいる全員が戦闘態勢をとる。ドラゴンと言えば最低でもAランクという、魔物の中でも最強の種族。そんなドラゴンが突然目の前に現れたのだ。例え角が片方折れ、鱗が剥げ、身体の至る所から血を流していたとしていても、召喚獣達が本能的に怯えてしまっても仕方のないことだろう。もちろん、スノウは別だが。


(それにしてもこのドラゴン、どこかで見たことがあるような?)


 何だかこのドラゴンに既視感を覚えた僕は、すぐに鑑定で確かめた。


種族 レッドドラゴン

名前 ヴォーラ

ランク A

レベル 84 

体力   108/524

魔力   27/341

攻撃力 428

防御力 408

魔法攻撃力 311

魔法防御力 299

敏捷    398


スキル

念話

飛翔 Lv18

咆哮 Lv15

ブレス(炎)Lv13

炎魔法 Lv13

炎耐性 Lv13

猛毒耐性 Lv10

麻痺耐性 Lv10

睡眠耐性 Lv10

混乱耐性 Lv10


(あー!? このドラゴンは!?)


 鑑定に表示された名前を見て、僕はミアズマだった時のことを思い出していた。

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