第55話 合同演習
「テオドール様、今後あのようなことはしないと約束して下さい!」
拠点へと戻った2人を待ち受けていたのは、複数のテントと夜ご飯と怒りに震えるナタリーだった。
「あー、いや、すまない。今後はないと約束しよう」
ナタリーの剣幕に頭をかきながら、弱々しい声で謝るテオドール。これだけ見たら、とてもじゃないが皇子様には見えないな。
「ないとは思いますが、万が一、オーロラさんが刺客でしたらテオドール様の命は危なかったかもしれないのですよ!」
「いや、それはない。なぜなら余の命を狙うのであれば、スノウを召喚した時になせばよかったのだ。あの場にいた全ての者が束になってかかっても、スノウは止められないからな」
テオドールの謝罪を受けてもな収まらなかったナタリーだが、その次のテオドールの言葉に口をつぐんでしまう。事実、スノウであればそれが可能であるとわかってしまったからだ。それにしても、こんなに可憐で天然なオーロラを万が一とは言え、刺客扱いするとは。オーロラが気にしていないようだから僕も黙っているけど、失礼にも程がある。
「それで、スノウの実力はどうだったんだい? 実際に見たんだろう?」
若干雰囲気が悪くなりかけたところで、サミュエルが話題を変えるようにテオドールへと問いかけた。
「ああ、想像以上だったぞ。何せレッドオーガを無傷で一撃だからな」
テオドールの返答に一同騒然となる。ただ、問いかけたサミュエルだけは一瞬苦々しい顔をしたように見えたのだが。
その後は、食事をとりながらお互いのグループの情報交換を行い、明日の役割分担を行った。これがただブルーオーガを狩るだけならば、今日と同じようにテオドールとオーロラだけで探しに行けばよいのだろうが、あくまでこれは演習なのだ。オーロラだって野営の仕方を覚えなければならないし、他のみんなだって狩の仕方を覚えなければならない。したがって、3つの役割をローテーションで行うのが正解なのだ。
ただし、万が一のことを考えて、テオドールのスパークかオーロラのスノウはブルーオーガ狩りのグループにいた方がいいという話に落ち着き、2人は交互に狩りのグループに入ることになった。ちなみに明日はテオドールが入るので、オーロラは拠点で留守番と食事の準備となる。
役割分担が終わると、就寝のために男女に分かれてテントへと移動した。オーロラは同じ学園のイザベラとカレンと一緒のテントだ。僕も当然のようにそのテントに連れて行かれたのだが、無防備に着替え始めた3人の隙を突いて外へと逃げ出した。僕にはあまりに強すぎる刺激だったから。
たっぷり散歩を楽しんだ後、テントに戻ると3人は毛布くるまりながら、誰が1番カッコイイかという話で盛り上がっていた。やはり1番人気はテオドールのようだ。イケメンで王子様なのに偉ぶっていない。どんだけ優良物件なんだよ。オーロラに関しては、好意的ではあるものの、それは友人としてのようで一安心。
そうこうしているうちに、疲れて3人とも寝てしまったので、僕も周囲を警戒しつつ休むことにした。
翌朝、D+ランクの召喚獣を持つノートルと我らがリーダーのドルイド、それに万が一に備えテオドール、今度こそは離れないと約束したナタリーの4人でブルーオーガの捜索に向かった。D+ランクの召喚獣が3体いれば、ブルーオーガを討伐できるという計算なのだろう。それからカルスト、イザベラ、カレンのレインボウ組と食いしん坊のオルゴンは食料の調達に、オーロラはサミュエルとアンジェラと一緒に拠点を守りつつ食事の準備を担当することになった。
「それじゃあ、まずは拠点を拡張しようか」
他のメンバーが出発したところでサミュエルが提案する。サミュエルとアンジェラは昨日も拠点組だったので、今日やるべき事をある程度まとめてくれていたようだ。
昨日の1日である程度整備されているとはいえ、テントの周囲はまだ膝丈以上の草が生い茂っている。魔物の来襲に備えて、少しでも視界を確保しておかなければ危険だということだろう。
早速、3人で周囲の草刈りを始める。サミュエルは自身の召喚獣であるポイズンスパイダーを周囲の警戒に当たらせている。と言うか、シャドウマンティスを出せば楽に草刈りできそうなもんだけど。なぜこれほどまでに隠そうとするのだろうか。一方、アンジェラのスリープシープは草を食べながら拠点の拡張に貢献し、バトルモンキーも器用に鎌を使いながら草を刈っている。
オーロラは小型のナイフしか持ち合わせていなかったようで、草刈りは遅々として進んでいないが、それを補ってあまりある活躍を見せているのがスノウだ。風魔法第3階位"エアリアルブレード"で広範囲の草を根こそぎ刈っている。
「何だろう。すごいけど何か違う気がする……」
それを見たアンジェラが何か呟いているが、そんなことはお構いなしに魔力が続く限り草を刈り続けるスノウ。あっと言う間にテントを中心に半径500mを刈り尽くしてしまった。これだけ見通しがよくなれば、魔物の接近にもすぐに気がつけるだろう。
それから次は水と火の確保だ。水に関しては近くの川から汲んでくるようだ。それを沸騰させ、飲み水や料理に使うらしい。ぶっちゃけ僕が水魔法で出せば楽なんだけど、それをやっちゃうとスノウ以上に目立ってしまう。仕方がないから、みんなが水を運ぶのを応援することにしよう。
とは言え、サミュエルがテオドールから空間拡張が付与された
そうこうしているうちに、お昼の時間になったので今度は料理の準備を始める。大きめの鍋に先ほど汲んできた水を入れ、スノウが炎魔法で沸騰させた。
本来は枯れ草や木の枝を使うのだろうが、スノウがいればそんな必要もない。炎魔法や水魔法が使える魔道士がいれば同じことできるのだろうけど、普通はこんなことに魔力は使わないらしい。魔力が多いスノウはともかく、人間はそれほど魔力が多くならないらしいので、なるべく魔力は節約するのが普通なのだとか。
こういった野営では、いつ魔物が襲ってくるかわからないので、いざという時に魔力切れでしたでは命に関わるからというのが理由らしい。確かに、言われてみれば最もだと思うんだけど……
「でも魔力って結構すぐに回復しませんか?」
サミュエルの説明にオーロラが疑問の声を上げる。
「そうだね。確かに魔力ポーションがあればすぐに回復するけど、あれはあれで中々高価だからね。後は、寝れば回復するから寝る直前に水を出して溜めておく魔道士はいるかもしれないね。ただ、その直後に襲われたら目も当てられないから、自分ならやりませんけどね」
サミュエルの答えに小首をかしげるオーロラ。ああ、オーロラちゃんそれ以上は……
「そうではなく、魔法を使わなければ時間である程度回復しませんか?」
うっ、言ってしまった。それは僕の加護のおかげであって、普通はそうではないのだよ。
「そうだね。確かに起きていても時間で魔力は回復するけど、多少の個人差はあるとして1回復するのにだいたい3分くらいかかるからね。魔力消費が一番少ない第5階位の魔法を使うにも、0からだと15分はかかってしまうよ」
そう、それが普通らしいのだが……
「えっ? そうなのですか? 私も最初はそうだったのですが、ミストを召喚した後くらいから1回復するのに1分くらいしかかからなくなったので、レベルが上がったらみんなそうなるのかと思ってたのですが……」
「「えっ!?」」
オーロラの告白にサミュエルとアンジェラの声がハモる。
その後、主にサミュエルにステータスについて根掘り葉掘り聞かれたオーロラだったが、結局、隠蔽されている僕の加護についてはバレることがなく、原因不明という話に落ち着いた。というか落ち着かざるを得なかったというか……
若干微妙な雰囲気が残る中、食料調達組が戻って来た。上手いことオークの集団に遭遇し、3体倒してきたようだ。その他にも、食べられる野草やキノコなんかを取ってきてくれたので、街で買っておいた調味料を加え豪快に鍋料理にするみたい。
辺りにいい匂いが漂ってきた時に、ブルーオーガ捜索組も戻って来た。こちらはブルーオーガは見つけることができなかったが、同じC+ランクのイビルベアーの討伐に成功していた。
テオドールのスパークは戦闘に参加しなかったらしく、D+ランクの魔物3体での討伐となったようだ。3対1とはいえ相手は格上、こちらもかなりの傷を負ったらしく回復ポーションでは治りきっていなかった。
そこでオーロラがヒールを使い召喚獣達の傷を癒やしていく。その様子にテオドール以外が驚いていた。やっぱり、召喚士が他の魔法を覚えるのは珍しいみたいだね。
急遽イビルベアの肉が追加された鍋料理をみんなでおいしく頂いた後は、再び自分達の役割を果たすために行動を開始した。オーロラ達は使った分の水を調達しに川まで行き、ついでに晩ご飯用の川魚を捕まえようと提案する。ここではサミュエルのポイズンスパイダーの糸を釣り糸代わりに使い、みんなで魚釣りにチャレンジした。エサはその辺で捕まえた昆虫だ。
そんな簡単に釣れるのかと心配したが、僕の心配を余所に3人はどんどん魚を釣り上げホクホク顔で拠点へと帰って行った。
結局午後もブルーオーガは見つからず、夜ご飯を食べながら1日の情報交換を行った。ちなみにオーロラ達が作った夜ご飯は、スノウが熱した石の上で焼いた魚と肉だ。石を熱する度に炎魔法を使うスノウの魔力をみんなが心配していたが、オーロラがちょくちょく魔力譲渡を使っていたので問題なし。そこでオーロラの魔力回復速度が異常だという話になり、テオドールがますますオーロラに興味を持つことになった。
その後、似たような日々が2日ほど続き、アストラル大平原に着いてから4日目にしてようやくブルーオーガを発見したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます