第54話 スノウとスパークの実力
「ふむ、さすがだな! 余のスパークについてこれるとは!」
護衛を置いて突然飛び立ったテオドールを追いかけて、オーロラと一緒にスノウに乗っている僕の耳にそんな独り言が聞こえてきた。スノウが風魔法を使って風よけを作ってくれているとは言え、テオドールとはそれなりの距離があるからオーロラには聞こえていないだろうけど。
テオドールの召喚獣であるドレイクは名前をスパークと言うらしい。ドラゴンやワイバーン、ドレイクと言った竜種は飛行速度が速い。逆にオーロラが乗るグリフォンは飛行速度は落ちるが、小回りがきく。とは言え、高い能力を持つスノウであればドレイクの速度に追いつくのも容易なわけで、テオドールの後ろにピッタリついていってる状況だ。
護衛であるはずのナタリーを一瞬で置き去りにしたテオドールは、十数分飛行した後、突然高度を下げ始めた。彼が向かう先には、一体の大型の魔物が数体の小型の魔物を蹴散らしている姿が見える。
大型の魔物は随分と大きな人型の魔物で、手には棍棒のようなものを持っている。鑑定してみるとレッドオーガと表示された。今回の目的のひとつであるブルーオーガと並ぶ、オーガ族の上位種だ。C+ランクの魔物で、魔法は使えないようだが炎属性らしく炎耐性を持っているな。
そのレッドオーガに襲われているのはプレーンウルフだ。森に住むフォレストウルフの平原版といったところか。残念ながらレッドオーガの棍棒に1匹、また1匹と叩き潰されている。
テオドールがレッドオーガの前に着陸したのは、丁度レッドオーガが最後のプレーンウルフを倒したときだった。
「よし、オーロラよ。余にスペリオルグリフォンの力を見せてくれ!」
やっぱりテオドールの目的はスノウの実力を確かめることだったか。この辺りの魔物なら、お互いに強力な召喚獣がいるのだから、手分けして探した方が効率がいい。それをあえてついて来いなんて言うのは、明らかにスノウが戦っている姿を見たいからだと思ったよ。
でも、これはこれで都合がいい。ここはテオドールに気に入られるためにも、スノウに本気を出してもらおうか。
〈スノウ、今回は遠慮しなくていいから、あの皇子様を驚かせてやってくれ〉
〈えぇ!? いいのですか? 目立つのは避けたいと言っておりましたのに〉
〈いや、今回は皇子様に実力を示すのが目的だからね。どのみち、スノウにはこれからどんどん活躍してもらう予定だから〉
〈そうでしたか。ではワタクシの実力を見せつけてあげるとしましょう〉
どうやらスノウは納得してくれたようだ。もともとスノウは姿形もステータスも隠蔽していないから、見る人が見れば実力はわかっちゃうからね。
「スノウお願い!」
オーロラの呼びかけに一歩前に出て答えるスノウ。テオドールがその様子に目を輝かせている。
「クルルゥゥゥ!」
スノウが高い鳴き声を上げると同時に、複数のエアカッターが展開される。そしてその十数本のエアカッターが、レッドオーガに襲いかかった。
「ゴォアァァァァ!」
スノウの風魔法のレベルは17。魔法攻撃力は300を越えている。例え第5階位の魔法であっても、格下のレッドオーガであれば、当たり所によっては致命傷になるだろう。
レッドオーガはそのエアカッターから、丸太のように太い腕を顔の前でクロスさせ顔面を守り、身体を小さくすることで被弾する面積を減らしている。さすがにC+ランクともなると知能もそこそこ高いようだ。
しかし、いくら被弾面積が少なくなろうとステータスの差は正直だ。スノウが放ったエアカッターはレッドオーガの腕をズタズタに引き裂き、腹や足にも複数の傷を残した。
「ゴォォォ!」
遠距離での攻防は不利と悟ったのか、血を流しながらも猛ダッシュでスノウへ向かってくるレッドオーガ。地響きを立てながら迫り来る赤い鬼を、スノウは全く動じることなく待ち受ける。
「オ、オゴォ!?」
スノウの目の前まで来たレッドオーガは、右手に持っていた棍棒を振り上げたままその動きを止めた。後ろからは見えないが、スノウは麻痺の魔眼を使ったようだ。
スノウは動きが止まったレッドオーガの頭を前足の一振りで吹き飛ばす。頭を失ったレッドオーガは、力なく地面へと倒れ伏した。
「こ、これほどとは……」
C+ランクのレッドオーガを圧倒したスノウの姿を見て、テオドールが唸る。テオドールの召喚獣であるスパークでも、レッドオーガは退治できるだろう。だが、ドレイクはどちらかというと物理攻撃に長けている。スノウのように物理も魔法も得意な魔物は珍しい。それこそスノウの宿敵であるドラゴンなら別だが。
テオドールはスパークがスノウに敵わないことを理解したが故の呟きのようだ。それでも危機感より好奇心が勝っているのか、その顔は段々と笑顔になっていく。
「オーロラ、すごいぞ! あのレッドオーガを無傷で一方的に倒すとは。しかも、最後のレッドオーガの動きを止めたのは一体何だ? アレはスキルか何かなのか?」
オーロラの手をとり興奮気味にまくし立てるテオドール。その手を放せ、オーロラも困っているじゃないか!
「えっと、あの、何でしょうかね? 戦い方はスノウに任せていますので……」
オーロラの告白にテオドールは驚きの表情を見せる。そりゃそうだろう、自分の召喚獣のスキルを把握していない者なんて、数いる召喚士の中でもオーロラくらいなものだ。本人が気にしていないのもあるし、何よりオーロラは僕らを対等に扱ってくれているからね。家族や友達、仲間のスキルをこっそり覗かないのと同じなのだよ。
「へー、そんな考えの召喚士には初めて会ったよ。うん、でもいいんじゃないかな! 実際、スノウは自分で考えて行動できるみたいだし」
ほほう、今の言葉を聞くに意外とテオドールは柔軟な考えの持ち主のようだ。しかし、スノウのおかげでテオドールはすっかりオーロラのことを気に入ったようだ。作戦通りとは言え、ああもぐいぐいオーロラに迫っているのを見ると、若干腹が立ってくるなぁ。
っと、そんなことを考えている間に今度はテオドールが自慢のドレイクの実力を見せてくれるようだ。
「さて、今度は余のスパークの実力を見せるとしよう。都合よくC+ランクの魔物が見つかるとよいのだが」
そう言いながらテオドールはスパークの背に乗る。それを見てオーロラもスノウの背にまたがった。
再び空の旅を楽しむこと数十分、ようやくテオドールは丁度よい魔物を発見したようだ。
遠目からでもわかる巨大な身体。顎にはこれまた巨大な牙が生えている猪の化け物。
種族 イビルボア
名前 なし
ランク C+
レベル 44
体力 266/266
魔力 99/99
攻撃力 222
防御力 202
魔法攻撃力 99
魔法防御力 111
敏捷 122
スキル
咆哮 Lv9
硬化 Lv8
狂乱 Lv7
闇耐性 Lv8
イビルボアから少々離れたところへ降り立つテオドール。相手はC+ランクと格下ながら、物理特化のイビルボア。肉弾戦ならドレイクといい勝負ができるはず。そういった意味でも、慎重に降りるところを考えているテオドールは、やはり戦闘経験が豊富なのだろう。
イビルボアの風下に降り立ったことで、あの巨大な猪はまだこちらには気がついていないようだ。
それにしても本当に大きい。全長4mはあるスパークよりもさらに一回り大きい。スキル欄に見える"狂乱"は、防御力を下げる代わりに攻撃力を上げるスキルだ。狂乱状態のイビルボアの一撃を受ければ、ドレイクとてただでは済むまい。
それにしても、空から炎のブレスで攻撃すれば時間はかかるがもっと安全に倒せるだろうに。あえて地上での勝負に挑むのは、先ほどのスノウの戦闘を見てプライドが許さないからと言ったところか。
草陰に身を潜めながら、じりじりとイビルボアに近づいていくスパークが、残り30mほどに迫ったところでテオドールの指示が飛ぶ。その指示を受けたスパークが炎の塊をイビルボアに向けて吐き出した。
「ドォォォォン!」
炎の塊が当たる直前に気がついたイビルボアが、巨体に似合わぬ俊敏さでその場を飛び退いた。しかし、直撃は避けたものの、その熱気と爆風で多少のダメージを受けたイビルボアは怒り狂った目でドレイクを睨みつけている。
「ブオォォォォ!」
猛り狂った叫び声を上げ、ドレイクへと突進していくイビルボア。たった一撃受けただけで、すでに狂乱のスキルを発動しているようだ。どんだけ沸点が低いんだこの猪は。
30mはあった間合いが一気に詰められる。
思ったよりも速度があったイビルボアの突進に、スパークは飛び立つのが遅れ、後ろ足がイビルボアの巨大な牙に引っかかってしまった。
「ブシュ!」
イビルボアの牙によって切り裂かれた後ろ足から血が流れ出る。幸いにも致命傷には至っていないようだが、戦闘が長引けば不利になりそうなくらいには血が流れ出ている。
足を切られながらも辛うじて空中へと躱す事に成功したスパークは、ようやく突進から止まることができたイビルボアへと向かって、低空飛行で突っ込んで行く。あくまで安全圏からの攻撃では倒さないつもりのようだ。
ようやく足を止め、振り向いたイビルボアの目の前にスパークの前足が振り下ろされる。振り向きざまで反応が遅れた上に、狂乱の効果で下がった防御力のおかげでイビルボアの顔の左半分を大きく抉ることに成功した。
さらに怯んだイビルボアに至近距離からのブレスをお見舞いする。今度はイビルボアの土手っ腹に炎の塊が直撃した。魔法防御力がそれほど高くないイビルボアは、ブレスの直撃を受けその場に倒れる。辛うじて生きてはいるが、もやは虫の息だ。
スパークは怪我した足を引きずりながら近づき、喉元に噛みついてトドメを刺した。
「スパーク、よくやった!」
イビルボアを倒したスパークにテオドールが駆け寄る。労を労うように首筋をなでた後、腰から下げていた袋からポーションを取り出した。怪我をしたスパークに飲ませるためだろう。しかし、それを見たオーロラが慌ててポーションを飲ませるのを止め、スパークに向けヒールを唱えた。
「なっ!? オーロラは聖魔法を使えるのか!?」
「あ、はい。この子達が怪我をしたときにすぐ治せるように、頑張って覚えました!」
「いや、スキルや魔法は頑張ったからといって覚えられるものではないはずだが・・・」
何やらテオドールがぶつぶつ言っているようだが、僕達のために覚えてくれた魔法を他の召喚獣に使われると、何て言うかこう・・・ちょっと悔しい。これが嫉妬というものだろうか。
オーロラのヒールのおかげで、ドレイクの傷が塞がったところで、テオドールとオーロラはイビルボアの解体を始めた。それから、30分ほどで解体を終えた2人は拠点へと戻るために飛び立つのであった。
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