第52話 アストラル大平原へ

 ドルイドがシザーズアントの巣を壊滅させてきたと報告したとき、受付のお姉さんが大きな声を出してしまったためギルドが一時騒然となってしまった。

 シザーズアント自体はEランクだが、その数が150体ともなればDランクのパーティーでも遅れをとってしまうかもしれない数だ。さらに巣には必ずと言っていいほどシザーズアントクイーンがいるので、それらを同時に倒すとなると最早Cランク以上のパーティーが受ける依頼となるだろう。

 それを召喚獣がいたとは言え、Eランクの学生5人パーティーが成し遂げたのだから、騒ぎになるのも当然であった。


 中には信じようとしない冒険者もいたようだが、5人がそれぞれ30個ずつ袋に入れていた魔石とシザーズアントクイーンの顎や爪、外骨格を出したところ今度は周囲が静まりかえってしまった。

 レインボウの街はそれほど大きな街ではない。ここで活動している冒険者はほとんどがEランクとDランクだ。Cランクの冒険者は数えるほどしかいない。学生がそんなトップクラスの冒険者に並ぶ偉業を達成してきたことにみな言葉を失っているようだった。


 そんな中でも査定業務は淡々と進んで行く。まずはクエスト達成の報酬がシザーズアント1体につき銀貨5枚で僕らが倒したのは150体。銀貨で言えば750枚、大銀貨なら75枚分だ。5人で分けても一人あたり大銀貨15枚の計算となる。さらにシザーズアントクイーンの討伐報酬が金貨1枚。これを大銀貨10枚にしてもらって一人大銀貨2枚受け取ることができた。これで一人当たりの報酬は大銀貨17枚。日本円にすればおよそ17万円だ。


 さらにシザーズアントクイーンの素材が金貨5枚で買い取ってもらえた。クイーンの外骨格は軽くて丈夫なので防具としての人気が高い。爪や顎も加工して武器の素材となるそうだ。一人一枚の金貨を受け取るときにみんなの顔といったら……


 そして最後にシザーズアント150体分の素材については、予想通りギルドの職員がFランク冒険者を集めて取りに行ってくれるそうだ。手間賃やアルバイト代を差し引いてもそれなりの金額になるようだ。報酬については、これからギルドの職員が冒険者を連れて確認に行くそうなので、明日まとめて受け取ることにした。





 結局、次の日学園帰りにみんなでギルドを訪れたところ、素材の買い取り代金は金貨15枚、一人当たり金貨3枚となった。結果的には1日の稼ぎとして一人金貨4枚と大銀貨7枚、日本円にしておよそ47万円の稼ぎとなったわけだ。

 オーロラはそのうちの金貨3枚を親元へ送ってもらうように、受付のキティさんに頼んでいる。半分以上仕送りするなんて、なんて親孝行なんだ。


 召喚クラス全員で受けた初クエストの上、想像以上の稼ぎになったので、カルストの提案で5人はお祝いパーティーをすることになった。もちろんオーロラも参加するようだ。これを機会に、クラスメイトとももっと仲良くなってくれるなら僕も大賛成だ。

 それからオーロラは合同演習に必要そうな物を買い、寮で汚れを落とし着替えた後みんなと合流して、夜遅くまで食事を楽しんでいた。


 どこか疎外感を感じていたオーロラも、この一件からみんなとの仲を深めることができたようでよかった。その分目立ってしまったスノウには、改めてお礼を言っておかないといけないと思いながら、幸せそうなオーロラの様子を見て僕も満足するのだった。




▽▽▽




 Eランクのクエストを受けた数日後、いよいよ合同演習が始まる日となった。この数日は演習のための準備と、オーロラのレベル上げを中心に行なってきた。その結果がこれだ。


種族 人間

名前 オーロラ

ランク  D

レベル 29

体力   118/118

魔力     145/145

攻撃力    87

防御力     90

魔法攻撃力 117

魔法防御力 146

敏捷     62


スキル

召喚魔法 Lv13

棒術Lv3

聖魔法Lv1 New!


(称号)

(ミストの加護)


 オーロラのレベルは、シザーズアントの大群を倒したときに24まで上がっていて、ここ数日のレベル上げでそれからさらに5つ上がっている。

 さらにレベル上げついでに討伐依頼もこなしていたので、昨日ランクがDランクに上がったところだ。他の4人はまだEランクなので、先を越されたと悔しがっていた。何せ、スノウがいればソロでBランクの魔物を平気で狩れてしまうから、必然的にレベルもランクの上がりも速くなるのだ。


 それから、嬉しいことに聖魔法のスキルが発生した。これはシザーズアントとの戦いの時のカレンの魔法を見て、自分も僕やスノウが怪我をしたときに治したいと強く思って、カレンに教えてもらい練習した成果だ。ただ、教えたカレンですらこんなに早くスキルが発生したことに驚いていた。これは絶対『加護』のおかげだろうけど。


 さて、オーロラの現状確認はこれくらいにするとして、エリザベート先生の説明もしっかり聞かなくては。


「さて、今日からいよいよ帝都ミシティア魔法学園の召喚クラスのみなさんとの合同演習が始まります。まずはこの演習の目的ですが……」


 エリザベート先生の話によると、これからエリザベート先生と学園が雇った冒険者と一緒にアストラル大平原に移動するらしい。馬車で5日ほどかかる予定なので、その間に野営の仕方や魔物との戦い方をレクチャーしてくれるそうだ。


 そんな説明が終わった後、5人はエリザベート先生について行き学園前に用意されている馬車へと向かう。そこでは今回雇われた冒険者が待っているということで、みんな少々緊張気味だ。


 正面玄関を出て馬車へと向かうと、そこにはライオンのたてがみのような髪型をしたマッチョなおじさんが待っていた。おや、あれは確か……


「よう、今回お前達の面倒を見ることになったゴウケンだ。オレ様の指導は厳しいからな、ちゃんとついて来るんだぞ」


 そう自己紹介した男は、オーロラが冒険者登録試験を受けたときの試験官であるゴウケンだった。


「ゴウケンさんお久しぶりです! 学園が雇った冒険者ってゴウケンさんだったんですね! よろしくお願いします!」


 オーロラの眩しい笑顔にゴウケンは、照れ笑いを浮かべている。そんなゴウケンをなぜか尊敬の眼差しで見ているドルイド達。ああ、そうか。ゴウケンはこれでもCランクの冒険者だった。ここレインボウではトップクラスの冒険者が目の前にいれば、学生であれば憧れるのが当然か。ましてやゴウケンは召喚士だし。憧れの先輩を目にした学生達ってわけか。


 ただ、エリザベート先生だけは苦々しい顔でゴウケンを見つめている。セリフを当てるなら『何であいつなの?』といったところか?


 そんな学生達の視線を知ってか知らずか、ゴウケンはみんなに馬車に乗るように促すと自らは御者席へと移動した。どうやら道中の御者はゴウケンがやってくれるようだ。僕が馬車に乗り込むときに、ゴウケンの視線を感じたが、まああの時の完璧な演技がバレていることはないだろう。


 5人が馬車に乗り込むと、最後に相変わらず険しい顔をしたエリザベート先生が馬車に乗り、いざ出発となった。ここから20日間ほどの演習がスタートするのだった。





▽▽▽





「いやー、初めて見させて貰ったがやっぱ半端ないな。さすがのオレ様でもぶるっちまったぜ!」


 出発した日の夜、ホーンラビットの燻製とその辺の森でとったキノコと野菜のスープを食べながら、ゴウケンが昼間の出来事を思い出して感想を漏らしていた。


 今日の昼過ぎ、街道を馬車で移動していた僕達に偶然現れたキラーホーネットの群れが襲いかかって来たのだ。

 キラーホーネット自体はEランクの魔物なので、このメンバーならどうということはなかったのだが、みんなが自分の召喚獣を召喚したので、オーロラもつられてスノウを召喚してしまったのだ。それだけでキラーホーネットは一目散に逃げ出し、突然現れたスペリオルグリフォンにゴウケンも腰を抜かしそうになってしまったというわけだ。


 その後は正気に戻ったゴウケンがスノウをおっかなびっくり触ったり、ゴウケンが召喚したダークウルフのブラックが、スノウににらまれてお腹を見せてゴウケンにガッカリされたりと、楽しい時間を過ごした。それから、みんなせっかく相棒達を召喚したからといって全員で移動していたら、向かいから来た商隊に魔物に襲われていると勘違いされたのも、今となってはいい思い出だ。


 しかし、野営も訓練の内とは言え食事が貧相なのはいただけない。ゴウケン曰く、スープがあるだけマシらしいが育ち盛り(?)の僕にとってはこれだけじゃ足りないから、アイテムボックスに入れておいた焼いた肉やら果物やらをこっそり食べてしまった。もちろん、風魔法を駆使して匂いがみんなのところにいかないようにしながらね。




 こんな感じの旅を続けながら、特に大きな問題もなく5日後には目的地のアストラル大平原へと到着した。

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