第47話 オーロラ2体目の召喚獣を召喚する
オーロラがEランクに昇格した次の日、今日もまた忙しい1日になりそうだ。なぜなら、昨日確認した結果、オーロラの召喚魔法のスキルレベルが10に到達していたから。
種族 人族
名前 オーロラ
ランク E
レベル 14
体力 58/58
魔力 70/70
攻撃力 42
防御力 45
魔法攻撃力 57
魔法防御力 71
敏捷 32
スキル
召喚魔法 Lv10
棒術 Lv1 New!
(称号)
(ミストの加護)
オーロラは召喚魔法スキルレベルが10に上がったことに加え、新しく棒術のスキルが発生していたことにも驚いていた。こんな簡単にスキルが発生することは滅多にないらしく、これで自分も戦闘に加われると鼻息を荒くして僕に語ってくれた。
寮で朝食を食べ、軽い足取りで学園へと向かうオーロラ。頭の中はすでに次に召喚できる魔物が何かでいっぱいのようだ。
教室に入るとドルイド達4人組はすでに来ており、どうやらオーロラの登校を今か今かと待ち受けていたようだった。
「おっ! 来たなオーロラ! それで、Eランクの昇格試験はどうだった? 難しかっただろう?」
オーロラが教室に入るや否や、そんな質問を投げかけてくるドルイド。他の3人もオーロラの答えに興味津々といった感じだ。
オーロラはあえて声に出さず、右手でVサインを見せた。
「うぉぉ! マジかよ!? 俺たちだって結構苦戦したのに、オーロラはどうやって倒したんだ?」
カルストが言うように、彼らはすでにEランクの冒険者カードを持っている。しかし、それは彼らの召喚獣がみんなEランク以上だからであって、Fランクの動物では無理な話なのだろう。それなのに試験を突破したことに、純粋に驚いているようだ。
「えへへ、召喚獣強化のスキルが調子良かったんだと思う!」
「「「……」」」
にへらと笑いながら答えるオーロラに『そのスキルに調子はないと思う』と4人の心の声が聞こえてくるような気がした。
しかし、オーロラが実際にEランクの冒険者カードを出したことで、とりあえずどうやって倒したのかは置いておいて、みんな祝福してくれた。
『これで一緒にレベル上げに行けるね!』と言うカレンの言葉に、恥ずかしそうに頷いたオーロラはめっちゃ可愛かった。
さらに話題は、オーロラの召喚魔法のスキルがレベル10に達したことに変わり、みんなで大いに盛り上がるのだった。
「はいはい、何を盛り上がっているのかわかりませんが、みなさん席についてください」
教室で5人が盛り上がっているところへ、エリザベート先生がやってきた。先生はオーロラの召喚魔法スキルが10になったのを知ると、予定していた授業の前に新しい魔物の召喚を許可してくれた。
エリザベート先生を含めた6人が、オーロラの次の召喚獣を予想しながら楽しそうに訓練場へと向かっていく。
訓練場につくと、エリザベート先生が手慣れた様子で魔法陣を用意してくれた。その中央で立ち膝になり、一つ深呼吸をしてからオーロラは詠唱を開始する。
(なるほど。僕の時もこんな感じだったのか)
オーロラの詠唱が始まると、魔法陣が光り始める。っと、その時、オーロラに召喚されたときのように目の前にウィンドウが現れた。
【あなたの召喚主が召喚魔法を唱えました。この召喚魔法に干渉しますか? はい・いいえ】
なになに? オーロラの召喚魔法に干渉しますかだって? どういうことだ?
鑑定で調べてみるとわかったのだが、どうやら僕がオーロラの召喚魔法に干渉すると、今、オーロラの呼びかけが届いている魔物達に、僕の姿も映し出されるようだ。つまり召喚に応じるかどうかに僕も影響を与えることができるのだろう。
(よし! ここは戦闘を任せることができる高ランクの魔物を召喚してほしいから、ちょっと干渉させてもらおうか)
僕は目の前のウィンドウの『はい』の部分を意識し、他のみなさんにバレないようにそっと隠蔽を解いた。
オーロラの詠唱が続き、魔法陣の光がどんどん増していく。そしてついに……
「なっ!? グ、グリフォン!?」
「違う!? ただのグリフォンじゃない! B+ランクのスペリオルグリフォンよ! みんな逃げてぇぇ!!」
かろうじて声を出せたドルイドの言葉を訂正し、エリザベート先生が悲鳴に近い声で絶叫した。
オーロラの目の前に現れたのは、鷲の上半身と、ライオンの下半身を持ったB+ランクの魔物であるグリフォンの上位種、スペリオルグリフォンだったのだ。
~side スペリオルグリフォン~
ワタクシは人里離れた山奥に住むスペリオルグリフォン。種族的なランクで言うとB+ランクになるわね。まあ、レベルなんてものもあるから、ランクが強さの全てではないのですけどね。強さを測る基準としては便利だから使わせてもらってるわ。
そんなワタクシの元に召喚の要請が届きましたの。何か前にも似たようなものが届いていた気もしますが、あの時見えたのはとっても弱そうな人間の女の子でしたから、ご遠慮させてもらいました。人間達も魔物のランクを元に、自分達をランク付けしているようだけど、あの子ならFかいいとこEランクといったところでしょう。
今回もどうやら同じ女の子のようですわね。レベルは少々上がっているみたいですが、まだまだワタクシとは釣り合いが取れませんわよ。そう思って今回もご遠慮させてもらおうとしたのですが……次の瞬間、とんでもないものが現れましたの。
(黒猫? いえ、違いますね。姿形は黒猫に見えますが……中身はバケモノだわ……)
ワタクシが見たのは、相変わらず弱そうな女の子の横に、ちょこんと座る黒猫に見える何かでしたわ。その黒猫に似た何かは、とんでもないプレッシャーを放っていて、見てるだけで震えが止まりませんでしたの。人間が決めたランクで言えば、軽くAランクを超えていることでしょう。あんな化けもんに狙われてしまったら、ワタクシでさえ一撃でやられかねません。
けどお待ちになって。ワタクシが今召喚に応じたら、あのお方とお仲間になれるのではないでしょうか? 最近、ワタクシが住むこの山も、随分物騒になってきたと思っていたところでしたの。隣の山に住む荒くれ者のドラゴンたちが来る前に、召喚に応じてさっさと逃げてしまうのもありですね。
よし、そうと決まりましたら『はい』を選択しましょう。頼みますよ。ワタクシより強いヤツは応じないでくださいね。
そして、カウントダウンの数字が0になったとき、ワタクシは光に吸い込まれるように転移することができました。
~~~~~~
さて、どんな魔物が召喚されるのかと楽しみしていたら、思いの外、格好いいのが現れた。鷲の上半身にライオンの下半身。前の世界では絵本でしか見たことがなかったが、所謂グリフォンというヤツだろう。何かエリザベート先生もそれっぽい名前を叫んでたし。ただ、色合いが僕の記憶とは少々異なっていた。嘴と翼が真っ黒で、その他が銀色に輝いている。うん、普通に格好いい。
そんなグリフォンは、召喚されてすぐに僕の方をじっと見つめている。オーロラは予想外の大物の出現に固まってしまっているし、エリザベート先生は他の生徒を避難させたかと思うと、自分の召喚獣であるブラッドベアーを呼び出し、なぜかグリフォンに対して戦闘態勢をとっていた。
だが、当のグリフォンはそんなことはお構いなしに、ただひたすら僕のことを見ている。おそらく僕が召喚魔法に干渉したことが原因だろう。何か僕に伝えたいのかもしれない。僕はとりあえずこいつを鑑定してみることにした。
種族名 スペリオルグリフォン
名前 なし
ランク B+
レベル 60
体力 295/295
魔力 310/310
攻撃力 321
防御力 243
魔法攻撃力 325
魔法防御力 336
敏捷 238
スキル
咆哮 Lv12
飛翔 Lv13
敵意察知 Lv13
風魔法 Lv15
炎魔法 Lv12
風耐性 Lv15
炎耐性 Lv12
土耐性 Lv12
毒耐性 Lv10
混乱耐性 Lv10
麻痺耐性 Lv10
ほほう。ステータス的にも中々強いじゃないか。これならレベル上げの時に、僕の代わりに戦闘を任せることができそうだ。しかし、やはりというか念話のスキルは持っていなかったか。ただ、何か話したそうにしているみたいだから、こっちから話しかけてみようか。こいつと話をしてもオーロラにはバレないと思うし。
やばい、地味にこちらからの念話は初めてだから緊張してきた。
〈あー、もしもし聞こえますか?〉
〈ああ、やはり貴方様は念話持ちでしたのね! ワタクシより遙かに格上なので絶対お持ちだと思っておりました!〉
おおっと、ズメイと会って以来の念話だね。相変わらず、頭の中に直接声が響いてくるようだ。と言うか、このしゃべり方から察するにこいつは雌なのか?
〈確かに僕は念話持ちだけど、それほど格上というわけでは……〉
〈何を仰いますか。先ほどそこの小娘が召喚魔法を唱えているときにお姿を拝見させて貰いました。その時から震えが止まりませんのよ。こんなこと初めてですわ〉
やはり僕が召喚魔法に干渉したことで、先ほどの隠蔽を解いた姿が見えたようだ。しかし、オーロラに敬意を払わないのはいただけない。そこはしっかりとしつけておかないとね。
〈君が僕のことをどう思おうと勝手だけど、僕の召喚主を小娘呼ばわりするのは感心しないな〉
〈はっ!? 申し訳ありません。以後気をつけますので、どうか命だけは……〉
いや、そんなことで殺さないし! 僕を何だと思ってるんだ!
〈わかってくれれば問題ない。僕達の主人の名前はオーロラだ。まずは彼女に忠誠を誓ってほしい〉
スペリオルグリフォンは僕の言う通りに、オーロラの元に歩み寄り頭を下げた。そこでようやくオーロラはフリーズが解除されたが、まだ怖いのかおっかなびっくり手を差し出し頭をなで始めた。
よし、予想以上にいい魔物が仲間になってくれた。これで大抵の戦闘は任せることができるから、僕は目立たずのんびりとオーロラとの生活を満喫できそうだ。
オーロラになでられるスペリオルグリフォンを見ながら、僕はホッと一息つくのであった。
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