第45話 Eランク昇格試験
「へー、昨日初めて討伐クエストに行ったんだ」
初の討伐クエストを終えた次の日の教室、オーロラはカレンにせがまれて昨日の話をしていた。
「おお、グリーンワームの討伐か! 俺らも最初の頃のレベル上げではお世話になったよな!」
オーロラとカレンの会話にドルイドも混ざってくる。ドルイド達はこの学園に入学したときから一緒にレベル上げしているらしく、4人ともレベル12だそうだ。召喚魔法のレベルも全員12で召喚獣を2体持っている。ちなみに召喚魔法レベルが10に達すると、召喚獣を2体持つことが出来るようになり、Lv20で3体目を召喚することができる。
「最初は大変だったよな! イザベラが2体のグリーンワームに囲まれたときなんか、本気で泣いてたし!」
「ちょっと、泣いてなんかいないから! 嘘言わないでよ!」
カルストの暴露話に、イザベラが顔を真っ赤にして怒っている。イザベラって、最初はお高くとまった嫌な感じの人かと思ってたけど、実際付き合ってみるときつい言葉とは裏腹に、オーロラのことを気にしてくれているみたいだし、案外いい人みたいだった。
それはドルイドやカルストも同じで、オーロラが僕を召喚したときは笑っていたけど、それ以外では彼女をバカにしたり蔑んだりした様子は見られなかった。
それにしても、みんなグリーンワーム先生にお世話になっているんだな。これはもう、先生ではなく大先生とお呼びした方がいいかもしれない。
「それで、オーロラはどうやってグリーンワームを倒したんだい?」
カルストがムキになって否定するイザベラを軽くあしらいながら、何気なく聞いた一言が物議を醸す。
「えっと、ボーゲンさんのお店で買った殺虫剤をシュッとかけたらコロッと倒れてくれました!」
「「「「…………えっ?」」」」
オーロラの答えに4人の声がハモった。
「殺虫剤……は魔物には効かないよね?」
イザベラが他のメンバーに確認する。無言で頷く残りの3人。それはそうなるよね。あくまで殺虫剤は害虫駆除のもの。虫には効くが、虫型の魔物には効かない。しかし、オーロラは自信満々で倒したと言い切っている。あまりのオーロラの笑顔に、4人は苦笑いを浮かべるしかないようだ。
「そうだ。オーロラ、今日の午後、みんなでレベル上げに行くんだけど一緒に行かない?」
かわいい物好きのカレンが話題を変えるようにレベル上げに誘ってきた。他の3人も特に何も言わないって事は、了承済みなのだろう。やっぱりこの4人は根はいい人達みたいだ。
「うーん、誘ってくれるのは嬉しいけど……まだみんなの足を引っ張っちゃうから……それに今日は一人でEランク昇格試験を受けに行くんだ」
彼らのレベルは12。一方オーロラは8。僕がいれば何の問題もないが、僕は実力を隠しているからオーロラが断るのは妥当だろう。だけど、彼らが反応したのはそこではなかったようだ。
「えっ!? Eランクの昇格試験? それってソロでEランクの魔物を倒す試験だよな? 俺達がこの間、受けたヤツじゃないのか? 大丈夫なのか?」
おっと、冒険者のランクについてはよくわかっていなかったけど、レベルが12でD+の召喚獣がいるドルイドでもまだEランクになったばかりなのか。討伐以外のクエストをたくさんこなしていたとはいえ、グリーンワームをソロで10匹とは少々やり過ぎたということなのか?
「あれ? そうなの? 殺虫剤を買い足しておいたから大丈夫だと思ってたんだけど……」
またしても殺虫剤頼みのオーロラに、ドン引きの4人組。殺虫剤に頼り切るのはよくないとアドバイスはくれたものの、エリザベート先生が来たことで会話は終了し、それ以上突っ込まれることなく授業へと入っていった。
▽▽▽
「それじゃあ、気をつけてくださいね。危険を感じたら逃げるのも冒険者の務めですからね」
なじみの受付嬢キティさんに見送られ、Eランクの昇格試験へと向かったオーロラ。今回、彼女は南の森にいるシザーズアントに狙いをつけたようだ。
シザーズアントはEランクに設定されているが、群れることで力を発揮する特徴があるので、単独では他のEランクの魔物に及ばない。そこで、単独で行動するはぐれのシザーアントを狙う作戦を立てたのだ。
南門から街を出て、ものの数十分も歩けば目的地の三色の森へとたどり着く。この森の名前の由来は、森の中に色の違う池が3つあることからきているらしい。それぞれ赤の池、青の池、緑の池と呼ばれていて、どの池にも主と呼ばれるような魔物が住んでいるとかいないとか。今回はその三色の森の浅いところで、はぐれのシザーズアントを狙うというわけだ。
門番の衛兵さんに挨拶をして意気揚々と森へと向かう美少女召喚士。僕はその右隣を歩いている。自分で言うのも何だけど、端から見れば結構絵になる二人じゃないかな。これが街中なら声をかけられること間違いなしだ。
門を出てから20分ほどで街道を外れ、そこからは時折、生命探知を使いながら魔物の位置を確認している。何せオーロラはレベル8の新米冒険者だから、どこからどうみても弱そうに見える。僕も隠蔽に加え、気配遮断と魔力遮断を使っているから、ほとんど存在感がないに等しい。
従って、何もしないでいるとその辺にいる弱っちい魔物ですら、オーロラを見つけると襲いかかってくるのだ。
だから僕は生命探知を使い、魔物の位置を把握しながらさりげなくオーロラを安全なルートに誘導し、どうしても避けきれない場合は、一瞬だけ気配遮断を切り、威圧することで魔物を追い払っている。威圧するとき、必要以上に魔物も動物も逃げてしまうから、使いたくはないんだけどね。
さっきも急に鳥たちが何十羽と一斉に飛び立ったもんだから、オーロラも何事かと驚いていた。その時は、鳥たちの近くに魔物が出たのかなと思ってくれていたみたいだったから良かったけど、何度も続くと僕が怪しまれてしまいそうだ。
それでも、僕達は街を出てから40分ほどで三色の森へと到着した。
「さーて、ここからは慎重に行かないと。ミスト、私から離れないでね」
オーロラは昨日の報酬の一部を使って、杖を新調していた。Dランクの魔物アサルトツリーの幹から削り出した素材から作られたそれは、僅かながら使用者の最大魔力を増加させ、下手な金属より堅いので棍としての役割を果たすことも出来る。
左手には杖を右手には殺虫剤を持って、腰くらいまである草をかき分けながら歩いて行く。僕に至っては完全に草むらに隠れてしまっているが。まあ、各種探知を使っているから問題ないんだけど。
しかし、ガサゴソと音を立てながら歩くオーロラは、魔物達の格好の獲物と化してしまっている。
ジャッ! ッという音とともにオーロラに飛びかかってきたのは野生の狼っぽい動物だ。元の世界なら狼に襲われたら大変だが、この世界の人達は違う。例えか弱そうに見えるオーロラであっても、レベルが上がれば野生の動物など相手にもならない。
「やあ!」
可愛らしい声を上げながら、左手に持った杖で飛びかかる狼の顔面を打ちつける。いくらレベルが低いオーロラでも動物に後れを取ることはない。
カウンターで顔面を強かに叩かれた狼は、もんどり打って倒れた。魔物であればトドメを刺して魔石を頂くところだが、動物相手にそこまですることはない。額から血を流した狼はすごすごと森の中へと戻っていった。
っとその時、僕の探知にFランクの魔物、アタックホッパーがかかった。アタックホッパーはバッタ型の魔物だ。バッタと言っても体長は2mほどあり、外殻は鉄のように堅い。強靱な後ろ足から繰り出される体当たりは、かなりの破壊力を秘めている。がしかし、得意の体当たりの前にはわかりやすい溜め動作があり、駆け出しの冒険者ならいざ知らず、少しの経験がある者であれば避けるのは難しくない。
ただしそれは相手の姿が見えているときに限る。今回のように草むらで姿が隠れているときには、そのため動作が見えないので要注意だ。
僕はオーロラの前に飛び出し、彼女の足を止めた後、アタックホッパーがいる辺りを見つめる。そんな僕の様子にオーロラもアタックホッパーの存在に気がついたようだ。殺虫剤を片手に、そーっとアタックホッパーに近づいてく。その姿を見た僕もこっそりウォーターバレットを用意する。もちろん、猛毒入りだ。
ブシュー!
オーロラは草をかき分け、殺虫剤だけにゅっと突き出しアタックホッパーに吹きかけた。
「ギュッ!」
顔に殺虫剤を吹きかけられたアタックホッパーは、甲高い鳴き声を上げて草むらを飛び出す。その行動を予想していたオーロラは、すでに横に回り込んでいるので体当たりを喰らうことはない。そして、空中に飛び出したアタックホッパーは僕のウォーターバレットの格好の標的となる。
「ギッ!」
僕が放った極小の水球は、アタックホッパーのお腹に小さな穴を空けた。ドンと音を立てて地面に激突するアタックホッパー。横向きに倒れ、ぴくぴくと痙攣している。
「ほぉら、やっぱりこの殺虫剤はちゃんと効くじゃない!」
そんなアタックホッパーの姿を見てひとり呟くオーロラ。僕はまた彼女にまた間違った知識を植えつけてしまったのかもしれない。
オーロラは十数秒もがいて息絶えたアタックホッパーから魔石を取り出し、強靱な足の一部を切り取ってリュックに入れていく。
さて、オーロラがアタックホッパーを解体している間に、また別の魔物が近づいてきたようだ。
(これはEランクのグレートマンティスだな)
解体の時に出たアタックホッパーの体液の匂いに釣られてきたのであろう、かなり好戦的なカマキリ型の魔物だ。目的のシザーズアントとは違うが、これも立派なEランクの魔物である。こいつを倒してEランクへ昇格するのでもいいかもしれないね。
僕はまだ解体に夢中になっているオーロラを背に、近づいてくるグレートマンティスを迎え撃つべく作戦を練るのであった。
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