第31話 お礼の裏側

~side オッチョ~


 今日はとっても不思議なことが起こったんだなぁ~。


 ちかごろは、オークの肉が足りなぐなっているんだべ。なんでも、高ランクの冒険者だちが高難度のクエストに出て行ってて、オークを狩ることができる冒険者だちがいないみたいなんだなぁ~。そのせいで、オークにさらわれた人までいたみたいだべ。


 さすがのここまできたらオークを放っておぐわげにもいかないから、騎士団がオークを狩るために派遣されるっで聞いて、ちーっとはましになるかと思って期待してたんだども、なんだかオークの集落はみづがったけどオークどごろかネズミ一匹いなかったそうなんだなぁ~。


 んだもんだから、オラの勤めるオーク亭もちょーっぴりピンチなんだわな。


 店の在庫の肉も昨日で使い切ってしまったしぃ、親方……じゃながった、師匠も今日は店を閉めるしがないってイライラしてたんだなぁ~。


 んで、オラがゴミを捨てようと裏庭に出たときだったんよ、裏庭に丸々と太ったオークが落ちてたんだなぁ~。見た感じ、すぐに死んでるってわかっただども、オラはびっくりしてすぐに親方……師匠を呼んださぁ~。


 はじめは師匠も信じてくれながったよ。そりゃそうだわさ、こんな狭いところにだーれにも気づかれることなぐ、こーんなに大きなオークさ運んでこれるなんて、誰が信じるべぇ?


 んだども、実際にオークが落ちてるのは事実だから師匠も信じるしかなかったんだろなぁ。


 そこからの師匠は格好良かったべ。落ちてるオークを迷わず料理に使うっていったんだなぁ~。何て勇気があるんだべか。


 おかげで今日一日なんとかお店を開けることができたわさ。何よりよがったのは、あのねこちゃんにオークの肉を分けてあげれたことだべ。


 結局、誰があのオークを置いでいってくれたのがわからんけども、オラは頭が悪いから考えるのはやめたんだな。





~side 果物屋のおばちゃん~


 あれは今日の朝、いつものように露店を出してから少し経った時のことだったわ。朝一番のお客達を捌き終えたら、背後からかわいい鳴き声が聞こえたの。振り返ってみたら、以前リーンゴの実を分けてあげた猫ちゃんがテーブルの上にちょこんと座っていたのよ。


 目の前にはきれいなリーンゴの実が一つ置いてあったわ。傷一つないきれいな実だったから、この子がどうやって持ってきたのかちょっと不思議に思ったけど、前足でつんつんとリーンゴの実をつっつく猫ちゃんを見て私はピンときたわ。


 この子はリーンゴの皮を剥いてほしいんだなって。


 私はすぐにテーブルの下から包丁を取り出して、リーンゴの皮を剥いてあげたわ。剥き終わった後はもちろん食べやすいようにカットしてあげるのも忘れないわよ。


 かわいい猫ちゃんはおいしそうにリーンゴの実を食べてくれたわ。その間、私は頭をなでさせてもらったの。すっごく毛並みがよくて肌触りも最高だったわ。


 でもね、ちょっと私が目を離した隙にまたいなくなっちゃったの。残念。でも、不思議なことにまた一つリーンゴの実がテーブルに置いてあったわ。たぶん、あの猫ちゃんが置いていってくれたものだろうから……以前リーンゴの実を食べさせたあげたお礼だったのかな? それにしても、いったいどこに隠していたのかしら? 今思えば、とっても不思議な出来事だったわね。





~side 孤児院のシスター~


 私の名前はマリア。王都に建てられた孤児院に勤めるシスターの一人。この孤児院の歴史は古く、200年前から存在しているそうです。さすがに建物は建て替えられているみたいですが、それでも建てられてから100年ほどは経過しているみたいです。

 代々勤めてきたシスター達がこの建物を大切に扱ってきたおかげか、古いけれども清潔に保たれていて、まだまだ十分人が住んでいけると思われます。


 中央の建物には礼拝堂や食堂、子ども達が遊べる広場などがありかなりの大きさです。その両隣には男子寮と女子寮がありたくさんの子ども達と数人のシスターが生活しています。


 孤児院といえば貧しいイメージがありますが、ここ王都の孤児院もその例に漏れずなかなか厳しい生活を送っています。もちろん国から多少の補助はありますが、子ども達の数を考えると全然足りていません。ここ王都は人口も多く、それに比例するように孤児の数も多いのです。さらには近隣の村から、王都に出稼ぎに……というか村での口減らしのために上京してくる子どもが後を絶ちません。


 でもその中で本当にまともな仕事にありつける数などたかがしれています。大抵は働き口がなく、スラム街の空き家に身を潜めるか、ここ孤児院に拾われるかなのです。


 かく言う私もこの孤児院出身で、5歳から15歳までの10年間をこの孤児院で生活し、一度、教会が運営する学校に3年間通わせて貰い、そこで資格を取ってからこの孤児院に18歳の時に戻って来ました。それから5年間この孤児院でシスターを勤めさせていただいております。


 何だかんだで18年ほどこの孤児院で生活している私ですが、今日その18年の中でも1番といってもいいくらい嬉しい、それでいてちょっと不思議な出来事がありました。


 それはお昼過ぎのことでした。私よりも若いひとりのシスターが、昼食の片付けをしている私の元へ興奮気味に現れました。


「マリアさんちょっと来て下さい!」


 あまりの剣幕に、一瞬子ども達によくないことが起こったのではないかと心配になったのですが、若いシスターの嬉しそうな顔を見て、よくないことではなさそうだとホッとしたのを覚えています。


 半ば引きずられるように若いシスターに連れられて向かったのは、礼拝堂でした。彼女は私を礼拝堂の祭壇の前へと連れて行くと、部屋の隅の方を指差し『見て下さい!』と大きな声を出しました。


 何事かと思い、彼女が指差した方を見ると彼女が興奮している理由がわかりました。


 そこには10羽ほどのホーンラビットと、色とりどりの果物が山のように積んであったのです。昼食前にはなかったものですから、私達の食事中にどなたかが置いていってくれたのでしょう。それにしても、これだけの量の寄付を一度に頂いたのは、私が孤児だった頃から含めても記憶にありません。普段からクールビューティーを装っている私ですら、『わぁ!』っと大きな声をだしてしまったくらいです。


 私をこの場に連れてきたシスターにお願いして、急いで他のシスターを呼んできてもらいました。


 すぐにやって来たシスター達と一緒に、この食材の山を確認しました。ホーンラビットが10羽。リーンゴやミッカン、ブードウといった果物は毎日みんなで食べたとしても1週間は保つでしょう。騒ぎを聞きつけてきた子ども達も、この宝の山を見て大興奮です。


「今日の晩ご飯はホーンラビットのお肉ですよ」


 集まってきた子ども達に私がそう告げると、子ども達の興奮は最高潮に達してしまいました。それもそのはず、まともなお肉料理を食べるのなんていついらいでしょう。ましてや、動物の肉より遙かにおいしい魔物の肉なんてここ数年食べた記憶がありません。子ども達が興奮するのも無理がないでしょう。かく言う私も少し興奮してしまいましたし。


 それから私は興奮する子ども達に言いました。


「みなさん、こんなにいっぱい食べ物をくれた人に感謝の祈りを捧げましょう」


 子ども達は元気よく返事をして、私と一緒に祭壇の前へと向かったのですが、そこで4歳になったばかりのエイミーという女の子が不思議なことを言ったのです。


「ひとじゃないよ、ねこちゃんだよ!」


 一瞬何を言っているのかわかりませんでした。周りにいる子ども達もポカンとしています。


「エイミーみたんだもん! ねこちゃんがそこの前にちょこんって座ったら、くだものがいーっぱいでてきたんだもん!」


 呆然とする私達にエイミーちゃんが説明を続けます。もちろんそんな話は信じられるわけはないのですが、エイミーちゃんは嘘を言うような子でもないし、他に見ていた子がいるわけでもありません。子どもの言うことを頭から否定したってよくないのはわかっているので、私はあえてエイミーちゃんの言ったことに乗ることにしました。


「みんな、猫の神様が食べ物を分けてくれたのかもしれないね。みんなで猫神様に感謝の祈りを捧げましょう」


 私の言葉に小さな子ども達が目をキラキラさせながら元気よく返事をします。エイミーちゃんもまるで自分が果物を持ってきたかのように、どんなもんだいという顔をしています。


 私は子ども達の笑顔を見るのが大好きです。この孤児院にこれほどの食料と子ども達の笑顔を届けてくれた人に、いえ本当に猫なのかもしれませんが、心の底から感謝の祈りをささげました。

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