第26話 vs ファントムタイガー ○

 ここは地下迷宮ダンジョン天国への扉ヘブンズドアー』の30階層。僕の目の前にはA+ランクのファントムタイガー。事前の情報では32階層まではAランクまでの魔物しかでないはずなんだけど……


 よくよく考えたら、30階層を突破したのは1パーティーのみ。そのパーティーもたった一度しか到達していないのだから、そもそもの情報量が足りないのは当たり前か。もっと慎重に行動すればよかったとは思うが、今更か。


 僕は覚悟を決めて、ファントムタイガーへと向き合う。っとその時、ファントムタイガーの姿が急に薄れていった。


(透明化か!? させない!)


 こんな強敵に透明になられたら勝ち目なんてなくなってしまう。それこそ一方的にたこ殴りだ。


(サンダーランス!)


 僕はすぐさま雷魔法第4階位"サンダーランス"を放った。雷の矢が、音速を遥かに超えるスピードでファントムタイガーへと襲いかかる。


 サンダーランスがファントムタイガーの眉間を捉えたと思ったが、身体が一瞬ブレたかと思うと、すでにそこにはファントムタイガーの姿はなかった。


(くそ! 透明化は阻止できたけど、そもそもの動きが速すぎて反応が追いつかない!)


 ファントムタイガーはサンダーランスを避けるために右に跳んだだけなのだが、僕の敏捷では目で追うのがやっとだ。嫌な予感を覚えた僕はすかさず硬化を使う。


 ギィィィン!


 硬化が発動した直後にファントムタイガーの爪が僕の背中を穿った。一瞬でも遅れれば、ダメージは免れなかっただろう。よくやった僕!


 すかさず僕は雷纏を使い、身体に雷を纏う。それを嫌がったファントムタイガーはバックステップでいったん距離をとった。


(よし、今度はこっちの番だ! シャイニングレイン!)


 光魔法第3階位"シャイニングレイン"だ。数十本の光の矢が天井から降り注ぐ。唯一耐性を持っていない光魔法だけにダメージも期待できる。


 ガァァァァァァァァ!


 しかし、その期待も早々に裏切られた。ファントムタイガーが一声吠えると、ファントムタイガーの身体を守るように真っ黒の闇が覆い被さる。闇魔法第4階位"ダークウォールだ。光の矢は全て闇の壁に吸収されてしまった。


(ならば! シャイニングアロー!)


 ファントムタイガーがシャイニングレインの対応に追われている隙に、光魔法第4階位"シャイニングアロー"を連続で放つ。しかも、ただ放つだけではなく、軌道を操作して四方八方から襲いかかるように仕向けた。


 グルゥゥゥ!


 迫り来る光の矢に、今度は魔法を使わずに避けることを選択したファントムタイガー。いや、避けることを選択したんじゃなくて、避けることしかできなかったはずだ。なぜならアイツは詠唱破棄を持ってないからね。


 先ほどのダークウォールは見事だったが、あれはある程度予想していたのだろう。一声で発動したのは素晴らしいが、随分長く吠えていた。おそらく、あれがヤツの詠唱なのだろう。であれば、詠唱破棄を持っている僕が、魔法を連発したらおそらくアイツは避けるしかなくなると思ったのだが、どうやら予想が当たったようだ。


 アグァァァァァァァァ!


 そして、いくらヤツが素早くても逃げ場がないほど連続して魔法を放てばいつかは当たる。現に26本目のシャイニングアローがヤツの右後ろ足を捉えた。痛みの咆哮が少なくないダメージを予想させる。


(よし! 足に当たったのはラッキーだ! これでヤツの動きが遅くなる! って、あれ?)


 心の中でガッツポーズをしたのも束の間、なぜか僕の視界がまっ暗に染まっていく。


(しまった!? あれは痛みの咆哮じゃなくて詠唱だったのか!)


 気がついた時には、僕の周り一面が闇に覆われていた。


(これは闇魔法第3階位"ダークミスト"か!?)


 闇魔法第3階位"ダークミスト"。様々な状態異常を与える闇魔法。僕は慌てて闇から逃れるべく飛翔したのだが……


(クソ! 上手く飛べない。何かしらの状態異常を貰ってしまったか!)


 ステータスを確認すると、麻痺を貰ってしまったようだ。耐性があったため、辛うじて動けてはいるがファントムタイガー相手にこれはまずい。


 ふらふら飛びながら何とか後方へと脱出した僕だったが、闇から抜けた瞬間、目の前には迫り来るファントムタイガーの爪があった。


 バキィィン!


 硬化が間に合わず、壁へと叩きつけられた僕。左の羽には大きな爪痕が残り、壁に衝突した右側の真ん中の脚はあらぬ方向へと折れ曲がっている。


 しかし、ファントムタイガーも僕の雷纏の影響で身体が痺れているようだ。こちらのダメージも大きいが、僕は痛覚耐性を持っているので痛みで動けなくなることはない。


 身体は傷だらけだが、意識はしっかりしている。


(水魔法第2階位"メイルシュトローム"!)


 僕が心の中で魔法を唱えた瞬間、ファントムタイガーの足下に大きな水の渦が発生した。身の危険を察知したファントムタイガーが逃げだそうとするが、雷纏の効果で麻痺しているせいか思うように動けず、大渦に飲み込まれていく。


(水魔法に耐性があろうが、窒息させてしまえば問題ない!)


 さすがに第2階位の魔法だけあって魔力がガンガンと削られていくが、ここは出し惜しみをしている場面ではない。ファントムタイガーを完全に飲み込んだ後も、魔力がなくなる限界まで大渦を維持していた。


(そろそろ限界か……)


 魔力が残り一桁になったところで、大渦を解除する。するとあれほどあった大量の水が消え失せ、残ったのは床に横たわるファントムタイガーのみとなった。


(この傷と魔力量はちょっとまずいかな)


 耐性があるおかげか麻痺はほとんど治ったし、魔力自動回復と体力自動回復のおかげで魔力も回復してるし、傷も徐々に治り始めている。聖魔法を持っていない僕にとっては、ありがたいスキルだ。とは言え、完全に回復するにはもう少し時間がかかるだろう。


(ここはいったん引くべきかな)


 30階層からA+ランクの魔物が出るとわかった以上、これ以上進むのは得策ではない。むしろ、この怪我なら戻るのだって危ないかもしれない。そんなことを考えながら、体力がどのくらい残っているのか確認するためにステータスを開いて初めて気がついた。


種族 サンダービートル(変異種)

名前 なし

ランク C

レベル 60 進化可 

体力    105/318

魔力    12/477

攻撃力   308

防御力   368

魔法攻撃力 527

魔法防御力 527

敏捷    298


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv19

鑑定 Lv19

思考加速 Lv20

生命探知 Lv20

魔力探知 Lv20

敵意察知 Lv19

危機察知 Lv16

体力自動回復 Lv17

魔力自動回復 Lv20

光魔法 Lv18

水魔法 Lv22

風魔法 Lv11

土魔法 Lv11

雷魔法 Lv14

時空魔法 Lv9

重力魔法 Lv9

猛毒生成 Lv17

麻痺毒生成 Lv13

睡眠毒生成 Lv13

混乱毒生成 Lv13

痛覚耐性 Lv14

猛毒耐性 Lv17

麻痺耐性 Lv13

睡眠耐性 Lv13

混乱耐性 Lv13

幻惑耐性 Lv9

水耐性 Lv12

雷耐性 Lv12

瘴気 Lv13

飛翔 Lv12

硬化 Lv12

雷纏 Lv15


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング

暗殺者

同族殺し

 

(進化できるじゃん!)


 さすがにA+ランクの魔物の経験値は半端なかった。そして、予想外に60がサンダービートルのレベルの上限だったようだ。マジックビートルも60だったから、てっきりもっと上かと思ってたんだけどね。ある意味助かったとも言える。進化すれば体力も魔力も回復するから。


 かといって、こんな危険なところで進化するわけにはいかない。外に出ないまでも、もう少し上の階層で安全な場所を探さなくては。


 僕は30階層へと降りてきた階段へと戻ると、少しの間体力と魔力の回復に努め、小1時間ほどで半分ほど回復したので、上の階層目指して移動を開始した。

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