第24話 『天国への扉』 ○

(これが王都か……)


 ウェーベルから休まず2日かけて王都へとやって来た。王都はこの世界でも1,2を争う大きな街だ。おそらく冒険者の数も1,2を争うだろう。つまり、思いも寄らない強者がいるかもしれない。よって、"探知"を持つ者がいてもいいように、僕は遙か上空から王都の町並みを見つめているというわけだ。


(とは言っても、今は王都には用はないんだよね。いずれはあそこで生活してみたいとは思うけど、今はレベルを上げて進化するのが優先だ)


 僕は王都に名残惜しさを感じながらも、地下迷宮ダンジョンがあるという西へと向かうのであった。






 王都から2日ほど飛び続けた僕の目の前に今、始まりの迷宮の入り口と似たような光景が広がっている。どこにあっても地下迷宮ダンジョンは人を引きつけるようで、入り口周辺にはたくさんのお店が建ち並んでいた。

 地下迷宮ダンジョンの入り口を見るに、始まりの迷宮とはちょっと雰囲気が違うように見える。あそこは天然の洞窟のようだったが、こちらは大理石のようなもので作られた人工的な入り口のようだ。

 四角い建物の中に、下へと降りる階段が見える。何とかこの地下迷宮ダンジョンに入るために、しばらく監視を続けることにした。


 その結果わかったことは、この入り口は常時、4人以上の衛兵が守っており、冒険者もひっきりなしに出たり入ったりしているもんだから、全然入り込む隙がないということだ。特に明るい内は無理だと思ったので、昼間は近くの森で狩りをしながら、夜に地下迷宮ダンジョンの入り口を見張る日々を1週間ほど続けた。監視中は情報収集も怠らなかったけど、マジ暇でした。


 そして監視を始めてから1週間目、ついにその時がやってきました。交代のためにやって来た衛兵が差し入れにとお酒を持ってきたのだ。もちろん、普段ならこんなところで飲んだりしないのだろうが、今日は少々肌寒い夜だったので、内緒で一杯だけ飲もうという流れになったのだ。深夜だったので近くに冒険者達がいなかったのもそうさせた理由の一つかもしれない。


 どちらにせよこんなチャンスは滅多にやってこない。全員が乾杯のためにグラスに視線を集中させたその一瞬の隙を突いて、僕は天国への扉ヘブンズドアーへの侵入を果たしたのだ。


 さすがに深夜ということで、入ってすぐの浅い階層には人の姿はなかった。そりゃそうだよね。近くに出口があるなら、こんなところで一晩過ごすより外にある宿に泊まった方がいいに決まっている。よって、浅い階ではそれほど気を遣うことなく先へと進んで行く。もちろん、生命探知と魔力探知で周囲の状況を探るのは忘れないけれどね。


 ここ天国への扉ヘブンズドアーは不思議な素材で造られた床や壁に囲まれており、無機質な迷路といった感じがする。飛んでいる僕にはあまり関係はないが、始まりの迷宮のような洞窟型の地下迷宮ダンジョンよりよっぽど歩きやすそうだ。だがその分、身を隠すところが少ないので、できるだけ冒険者に鉢合わせないようにしなければならない。


 地下5階層までは運良く冒険者と出会うことはなかった。しかし、そこから探知に冒険者の姿がかかり始める。

 ただ、僕にとって幸運だったのは、6階層から通路の幅が広くなったことと、時折、大広間のような空間が現れ始めたことだ。通路が広くなったのに伴い天井も高くなったので、探知持ちでもない限り、天井に張り付いていれば見つからないように思える。

 それに大広間はさらに天井が高く、隅っこにいればまず気づかれることはなさそうだ。この地下迷宮ダンジョンの壁の色が黄土色というのも僕が見つかりづらくなっているのに一役買ってくれている。普通なら目立つ金色が、この壁の色で逆に見つけづらくなっているのだ。


 この天国への扉ヘブンズドアーは始まりの迷宮より広いのと、迷路のように入り組んでいるせいで、1階層降りるのにえらい時間がかかる。似たような景色が続いているのも、余計に時間がかかる原因となっているようだ。

 5階層には何とか1日で到達できたが、それ以降はさらに時間がかかっている。それでも脳内マッピングをしながら、少しずつ下の階層へと進んで行く。思考加速のレベルが上がったお陰か、記憶力がアップしているのがありがたい。


 6階層から10階層までたどり着くのに2日。15階層まではさらに2日かかった。ここまではゴブリンやオーク、オーガといった人型の魔物が多かったが、17階層でついにBランクのゴーレムに遭遇した。


種族 ゴーレム

名前 なし

ランク B

レベル 50 

体力   300/300

魔力   100/100

攻撃力 220

防御力 250

魔法攻撃力 100

魔法防御力 250

敏捷    150


スキル

硬化 Lv10

土耐性 Lv10

雷耐性 Lv10


 レンガのような身体を持つ魔法生物。魔法による攻撃はなさそうだが、物理的な攻撃力や防御力は侮れない。硬化を使われたら、僕の攻撃力でも傷をつけるのが難しいかもしれないな。ちなみに今の僕のステータスはというと……


種族 サンダービートル(変異種)

名前 なし

ランク C

レベル 47 

体力    292/292

魔力    438/438

攻撃力   282

防御力   342

魔法攻撃力 488

魔法防御力 488

敏捷    272


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv18

鑑定 Lv17

思考加速 Lv18

生命探知 Lv18

魔力探知 Lv18

敵意察知 Lv17

危機察知 Lv12

体力自動回復 Lv15

魔力自動回復 Lv18

光魔法 Lv17

水魔法 Lv20

風魔法 Lv11

土魔法 Lv11

雷魔法 Lv11

時空魔法 Lv9

重力魔法 Lv9

猛毒生成 Lv17

麻痺毒生成 Lv13

睡眠毒生成 Lv13

混乱毒生成 Lv13

痛覚耐性 Lv13

猛毒耐性 Lv17

麻痺耐性 Lv13

睡眠耐性 Lv13

混乱耐性 Lv13

幻惑耐性 Lv8

水耐性 Lv11

雷耐性 Lv11

瘴気 Lv13

飛翔 Lv11

硬化 Lv11

雷纏 Lv12


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング

暗殺者

同族殺し

 

 さて、物理系のステータスはともかく、魔法系のステータスとスキルの数を見れば負けることはないとは思うけど、実際戦ってみたらどうなるか楽しみだ。


 ゴーレムは魔法生物だけあって、恐怖心などないのだろう。僕に向かって迷い無く真っ直ぐに向かってくる。


 そんなゴーレムに向けて、僕はまず水魔法第3階位"ウォーターアロー"を放ってみた。


 ズゴォォォン!


 大きな音とともに水の矢がゴーレムの胸を貫いた。


(うそだろ!?)


 その一撃でゴーレムは両膝をつき、その身体はボロボロと崩れ去る。


(まさかBランクの魔物を一撃とは思わなかった。魔法から試したのは失敗だったか……)


 Bランクのゴーレムを一撃で倒した僕は、勢いに乗って先へと進む。次に姿を現したのは鶏の身体に蛇の尾をはやしたB⁺ランクのコカトリスだった。


種族 コカトリス

名前 なし

ランク B⁺

レベル 53 

体力   285/285

魔力   306/306

攻撃力 333

防御力 264

魔法攻撃力 301

魔法防御力 276

敏捷    225


スキル

飛翔 Lv8

魔眼(石化) Lv12

猛毒生成 Lv12

石化耐性 Lv12

猛毒耐性 Lv12


(むむむ。魔眼なんてスキルがあるのか。しかも石化とは……。僕は耐性を持っていないぞ。猛毒の方は大丈夫そうだから、石化に気をつけて戦わなくては)


 まず僕は石化対策として水魔法を使って、自分の前に大きめのウォーターバレットをひとつ浮かべた。魔眼というくらいだから、直接の視界を遮れば防げると考えたのだ。

 コカトリスの眼が黄色に怪しく光り出したが、予想通り僕への影響はないようだ。その状態を保ったまま、僕は風魔法第5階位"エアカッター"を複数展開する。コカトリスの周囲360度を見えない風の刃が覆い尽くし、僕の心の中の掛け声とともに一斉にコカトリスへと襲いかかった。


 コカトリスは奇妙な叫び声を上げて飛び立とうとするが、それより速く風の刃が全身を切り刻む。飛翔レベルがもっと高ければ、逃げ出せたのかもしれないね。


 全身傷だらけになったコカトリスだったが、まだ辛うじて息があるようだ。一撃で倒すにはもう少し威力の高い魔法を使うべきだったか。それでも瀕死のコカトリスにこの状態から負けるはずもない。


 僕は目の前に展開しているウォーターバレットを、コカトリスの顔目掛けて飛ばす。危険を感じたのかすぐに逃げようとしたが、全身傷だらけなのでそれほど速くは動けない。僕は簡単にコカトリスの顔を水の塊で覆うことに成功した。これで、アイツの目を直接見ないで済むとうわけだ。


 僕は顔を覆っている水を剥がそうともがいているコカトリスに近寄って、悠々と自慢の角で心臓を突き刺した。


 心臓を貫かれたコカトリスがドサッと倒れる。


 その身体をアイテムボックスに収納すると同時に、またすぐに違う魔物が現れた。どうやら僕達が戦っている音を聞きつけ近寄ってきたようだ。


 えーと、あれは確か……


種族 ドレイク

名前 なし

ランク B

レベル 48 

体力   234/234

魔力   198/198

攻撃力 263

防御力 221

魔法攻撃力 189

魔法防御力 207

敏捷    189


スキル

飛翔 Lv7

咆哮 Lv8

ブレス(炎) Lv6


 そうそう、ドレイクだ。始まりの迷宮でも見かけたがこっちの方がレベルが高いようだ。さっきのコカトリスよりランクもステータスも低いが、ブレスだけは注意しておこう。それなりの広さがあるとはいえ、壁に囲まれているからね。追い詰められてからの広範囲の炎のブレスはちょっとやばそうだし。


 となれば、先制攻撃あるのみ。


 僕は水魔法第4階位"ウォーターバレット"を複数放って、その後を追いかける。こっちは探知でドレイクの居場所は手に取るようにわかるが、向こうはそうではないようだ。

 先行するウォーターバレットを曲がり角で直角に曲げたところで、こちらに気づいたドレイクだったが、突如現れた弾丸のように飛んでくる複数の水の塊を全て避けられるわけもなく、顔、胴体、翼、右足と連続で直撃した。

 さらにウォーターバレットはドレイクの身体を貫通し、後ろの地下迷宮ダンジョンの壁に衝突し飛散した。


 ウォーターバレットを追いかけてトドメを刺そうと思っていたけど……うん、意味がなかった。


 よくよく考えたら、先ほど一撃で倒したゴーレムよりも魔法防御力は低かったから、こうなるのは当然だね。誰も見てなくてよかった……


 といった感じで、目の前に現れる魔物を倒しつつ、僕はさらに下の階層を目指して飛び回った。目標はドラゴンと同じAランクの魔物だ。Aランクの魔物相手に僕がどこまでやれるのかを試して見ようと思う。もちろん、死なないように撤退も視野に入れてだけどね。


 ここでAランクの魔物を倒せたら、一度故郷に戻ってあのレッドドラゴンと再戦してみるのも面白いかもしれない。そんなことを考えながら、僕は下へと降りる階段を探すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る