第13話 同族対決 ○
巨大な木にとまる2匹のカブトムシ。上にいるのが銀色の僕、下でのうのうと蜜を吸っているのが茶色のカブトムシだ。
ヤツは僕がすぐ上にとまったというのに、チラッとこちらを見ただけで蜜を吸い続けている。僕の食事場を奪っておいて、何で太々しい態度なんだ。
(すぐにその場所を譲ればよかったのに、もう謝っても許さないぞ!)
僕は角を下げて茶色のヤツとの距離を縮めていった。まずはお互いの角がぶつかる。『ゴッ』という鈍い金属音がして、一瞬僕の歩みが止まる。たが僕はそこから強引に前に進み、茶色のヤツを押し出しにかかる。
ヤツは6本の足で必死に耐えようとしているが、僕の方が攻撃力が高い上に上から押しているのだ。重力の手助けもあり、じわじわとヤツを食事場から押し出していく。そして、僕の口が蜜のところに来たところで押すのをやめ、僕は悠々と蜜を吸い始めてやった。
ヤツの目の色がわかりやすく変わった。押し返してくる力が若干強くなったようだが、僕は微動だにしないで蜜を吸い続ける。そのうちにヤツは押すのを諦め、角を僕の下に潜り込ませようと頭を動かしてきた。
(なるほど、そうきたか。こっちの世界でもカブトムシの戦い方は変わらないんだな)
妙なところで感動してしまったが、そのままやられるほど僕はお人好しではない。あ、今は虫だからお虫好しになるのか? ともかく、僕もヤツと同じように角を相手に潜り込ませようと頭を激しく動かした。
時には力尽くで、時にはフェイントを織り交ぜながら、お互いの腹の下を目指してせめぎ合う。僕の角がヤツの腹の下に入ったのと、ヤツの角が僕のお腹の下に入ったのは同時だった。
(フン! ウググググゥ!)
2匹の角がミシミシと音を立ててしなっている。鉤爪がついた6本の足で、弾き飛ばされないように踏ん張っている。今度は重力がヤツの味方をしている。少しでも気を緩めれば、空中へと弾き飛ばされてしまうだろう。見た目ではお互い全く動いているようには見えないが、実際はギリギリの死闘を繰り広げていた。
人間だったら間違いなく顔が赤くなって、血管が浮き出ているはずだ。
そんな力比べがしばらく続いたが、いよいよ決着の時が来たようだ。ヤツが踏ん張っている木の皮が徐々にめくれ上がってきているのだ。
(ウォォォォー!)
と心の中で叫び、一気にヤツの体を持ち上げた。バリバリと剥がれた木の皮と一緒に投げ出される茶色カブトムシ。
(短い間だったけど、いい勝負だったな。あばよ!)
僕は心の中で健闘を称えつつ、無防備に晒されているヤツのお腹に、ウォーターバレットを3発打ち込んだ。
ドン、ドン、ドン
一つ残らず命中した水の弾丸は、ヤツのお腹に3つの穴を開けた。
ギギギィという断末魔を残して動かなくなったカブトムシをアイテムボックスに回収する。そして僕は何事もなかったように、×印から流れ出る木の蜜を舐めるのだった。
(それにしても、勢いで倒しちゃったけど、よくよく考えたらこれって同族殺しだよね。今までの行いを振り返ってみても思うけど、僕ってこんなに好戦的だったかな?)
もしこれが人同士なら僕は人殺しだ。殺した理由も、ただ、レストランでいつも僕が座ってる席に別の人がいたというだけで。
しかし、不思議と後悔や罪悪感は湧いてこない。それは弱肉強食のこの世界がそう思わせるのか、この世界に来て僕の中で何かが変わったのか、理由はよくわからない。たが、これからこの世界で生き抜くには、今の方が都合がいいのは明らかだ。
自分の心の変化に少々戸惑いつつも、この世界で生き抜くためには必要なことと割り切り、このことは深く気にしないようにした。
さて、心の変化についてはこれくらいにするとして、強敵を倒した後はいつものステータスチェックの時間だ。
種族 ビートル(変異種)
名前 なし
ランク E
レベル 40 進化可
体力 167/187
魔力 133/145
攻撃力 219
防御力 215
魔法攻撃力 144
魔法防御力 143
敏捷 215
スキル
特殊進化
言語理解
詠唱破棄
アイテムボックス Lv12
鑑定 Lv11
思考加速 Lv12
生命探知 Lv13
魔力探知 Lv13
敵意察知 Lv11
危機察知 Lv5
体力自動回復 Lv10
魔力自動回復 Lv11
光魔法 Lv12
水魔法 Lv14
時空魔法 Lv5
重力魔法 Lv5
猛毒生成 Lv12
麻痺毒生成 Lv8
睡眠毒生成 Lv8
混乱毒生成 Lv8
痛覚耐性 Lv8
猛毒耐性 Lv12
麻痺耐性 Lv8
睡眠耐性 Lv8
混乱耐性 Lv8
瘴気 Lv8
飛翔 Lv5
硬化 Lv6
称号
転生者
スキルコレクター
進化者
暗殺者
同族殺し New!
おっと! 今回の上限は40だったか! 進化が可能になっている。うっ、それに称号に不穏なものが増えているぞ。見たくはないけど、確認しなくては……
同族殺し……同族を殺したことがある。同族を相手にするとき、ステータスに上昇補正。
あんまり活用する場面がこないといいんだけど……
さて、気を取り直して次は進化先を見てみるか。
□進化先を選んでください
・ソルジャービートル
・アーマービートル
・マジックビートル
ふむふむ、今回の選択肢は3つか。しかも、名前を見ただけで大体の方向性がわかるな。それぞれの説明を確認してみると思った通り、ソルジャービートルは攻撃力と敏捷、アーマービートルは体力と防御力、マジックビートルは魔力と魔法攻撃力が上がりやすいようだ。
(ビートルになって物理攻撃力の方が高くなったけど、やっぱり僕は魔法を使うのが好きだな)
そんな理由で次はマジックビートルにすることにした。
今回はしっかりと巣に戻り、周囲の安全を確認した後に進化を開始した。
種族 マジックビートル(変異種)
名前 なし
ランク D
レベル 1
体力 100/100
魔力 158/158
攻撃力 88
防御力 87
魔法攻撃力 164
魔法防御力 136
敏捷 124
スキル
特殊進化
言語理解
詠唱破棄
アイテムボックス Lv13
鑑定 Lv12
思考加速 Lv13
生命探知 Lv14
魔力探知 Lv14
敵意察知 Lv12
危機察知 Lv6
体力自動回復 Lv11
魔力自動回復 Lv12
光魔法 Lv14
水魔法 Lv16
風魔法 Lv5 New!
土魔法 Lv5 New!
時空魔法 Lv7
重力魔法 Lv7
猛毒生成 Lv13
麻痺毒生成 Lv9
睡眠毒生成 Lv9
混乱毒生成 Lv9
痛覚耐性 Lv9
猛毒耐性 Lv13
麻痺耐性 Lv9
睡眠耐性 Lv9
混乱耐性 Lv9
瘴気 Lv9
飛翔 Lv6
硬化 Lv7
称号
転生者
スキルコレクター
進化者
暗殺者
同族殺し
僕はステータスを見て心の中でニヤリと笑う。体力や攻撃力、防御力は極端に下がってしまったが、初めての魔法特化型に嬉しくて笑いが止まらない。ついでに進化の特典であるスキルレベルが必ず1上がるというのも地味にありがたい。しかも、今回は魔法特化型だからだろうか魔法のレベルが2つずつ上がっている。
さらに風魔法と土魔法まで覚えたようだ。これまた嬉しい誤算である。
食事は十分だし、まだお昼を回ったばかりだから、僕はまたグリーンワーム先生の元へと飛び立つのだった。
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