第6話 初めての魔物 ○

 イグアーナを討伐してから2週間が過ぎた。


 前回は1週間で2つ上がったレベルが、今回は2週間で1つしか上がらなかった。段々とスキルもレベルも上がりづらくなっていくのがつらい。この2週間、レベル上げできそうな生き物が来る気配すらない。いったいここはどれだけの秘境なのだろうか。それとも、何か生き物が近くに来れない理由でもあるのだろうか。


 しかし、この場から離れることが出来ない僕には確認しようがない。このままレベルが上がらなくなったら、いったい僕はどうなってしまうのだろうか。毒草の寿命がどのくらいかわからないが、木に成長する様子ものないので、それほど長くはないのではなかろうか。早く進化しないと、寿命で死んじゃいそうだ。


 そんな不安に駆られながらスキル上げをしていたら、今までとは違う気配の生き物を探知した。


種族 アシッドワーム

名前 なし

ランク E

レベル 23 

体力    56/56

魔力   25/28

攻撃力   43

防御力   41

魔法攻撃力 25

魔法防御力 22

敏捷    38


スキル

強酸 Lv8

粘糸 Lv8


(こいつは今までの動物とは全然違う。ステータスもそうだけど、気配がまるで違う。これが魔物と呼ばれるものか)


 名前にはワームとついているが、とてもじゃないが地球のミミズとは似ても似つかない姿形をしている。まずはその身体の大きさ。体長は1mほどで太さも直径30cmはありそうだ。探知なので細かなところはわからないが、身体の先端には大きな口がついているようだ。ギザギザしたシルエットからも、肉食で間違いないだろう。ステータスもラビートやイグアーナより遥かに高く、彼らを捕食していそうな気がする。


 さらに気をつけなければならないのは、こいつが持つスキルだろう。"強酸"なんてものをぶっかけられたら、動けない僕はあっという間に溶かされてしまうはずだ。


 本来ならば黙ってやり過ごすのが得策だろう。


 しかしだ。こちらもいつ寿命が尽きるかわからない身だ。光合成ではレベルが上がらなくなってきた今、これはレベル上げの絶好のチャンスでもある。幸い、魔力はほぼ満タン状態なのだ。上手く立ち回って倒すことができれば、一気に進化まで持っていけるかもしれない。


 アシッドワームが地面から這い出ている間に、僕はこの初めて見る魔物をなんとか倒すことができないか考え始めた。


(よし、この作戦でいってみるか)


 作戦といっても難しいことはない。何せ攻撃手段は"ポイズンエッジ"しかないのだから、『如何に自分の居場所を悟らせないように攻撃するか』しか考えることはない。今回は"ライト"を上手く使って、相手の攻撃を誘導してみようと思う。


 まずは獲物を探しているアシッドワームの背後から、"ポイズンエッジ"を叩き込んだ。アシッドワームの背中に浅くない傷がつく。ただ、残念ながら毒状態にはならなかったようだ。今まで全て一撃で毒状態になっていたのだが、そこはさすがは魔物といったところだろうか。


 突然の背後からの攻撃に、アシッドワームが勢いよく振り向く。


「キィェェェ!」


 アシッドワームはこちらの身体が震えるくらいの叫び声を上げながら、口元から何かを吐き出した。おそらくあれはスキルの"強酸"だろう。アシッドワームの口から吐き出された酸の塊は、あらかじめ僕が作り出しておいた小さな光の玉目掛けて飛んでいった。それは実態のない光の玉をすり抜け、背後にあった雑草にかかる。


 その途端、シュウシュウと音を立てて溶け出す雑草達。これがスキル"強酸"の効果なのだろう。なかなかに凶悪なスキルだ。ダミーの光の玉を仕掛けておいてよかったと、ホッと胸を撫でおろす。もちろん胸などないから気分的な問題だが。


 さらに僕は2つの"ポイズンエッジ"を作り出し、辺りを警戒しているアシッドワームに撃ち込んだ。そのうち1つは首元に当たったが、もう1つは先ほどつけた背中の傷をさらに深く抉るように当たってくれた。


「ギャィィィィ!」


 明らかに苦しそうにのたうち回るアシッドワーム。どうやら傷口に当たった方が、クリティカルヒットになったようだ。一撃で体力の半分近く持っていった。なるほど。ステータスの防御力も一律というわけではないということか。弱点も有れば硬いところもある。今回の背中の傷はもろに弱点になっていたということか。


 さらにこの攻撃でアシッドワームが毒状態になってくれたようだ。後は黙って見ているだけでも倒せるだろが、魔力にまだ余裕があることだし、もう1発お見舞いしてやろうか。


 ザシュ!


 僕が最後に放った"ポイズンエッジ"は、狙い澄ましたように背中の傷口に到達し、アシッドワームは真っ二つにちぎれ飛んでいった。


(よし! 魔物相手に生き残ることができたぞ!)


 僕は毒草ながら、魔物相手に勝利を収めることができた。ここが植物の群生地だったのも勝因のひとつだろう。魔法を使えば、僕の存在に気付かれることなく一方的に攻撃することができるからだ。慎重に立ち回れば、魔物相手でも何とかなることが証明された。


 僕は勝利の余韻に浸りつつ、期待を込めてステータスを開くとレベルが20に上がり横に『進化可』という文字が見えた。よしよし、これでまた進化が出来るぞ! 周囲の安全を確認し、早速進化先を表示させると……


□進化先を選んでください

・睡眠草

・麻痺草

・混乱草

・猛毒草


 何だか名前を見るだけで能力がわかるが一応鑑定で調べておこう。


睡眠草……割と珍しい草。睡眠効果のある成分を含んでいる。

麻痺草……割と珍しい草。麻痺効果のある成分を含んでいる。

混乱草……割と珍しい草。混乱効果のある成分を含んでいる。

猛毒草……割と珍しい草。猛毒効果のある成分を含んでいる。


 うん、何となくそんな気がしていたよ。


 さてと。今回は4つの進化先から選べるようだ。どれも有用な効果に思えるが、やっぱり草が生き残るためには毒がとても役に立つことを身をもって知ることができた。


(このまま毒使いの道を極めてやるぜ!)


ということで、麻痺も捨てがたいがここは猛毒草を選ぶことにした。


(猛毒草でお願いします!)


 僕が頭の中で念じると、すぐに身体が光に包まれた……気がした。


 そして光が収まったところでステータスを確認する。


種族 猛毒草

名前 なし

ランク G

レベル 1 

体力    20/20

魔力   46/46

攻撃力   14

防御力   22

魔法攻撃力 48

魔法防御力 48

敏捷    0


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv7

鑑定 Lv6

思考加速 Lv6

生命探知 Lv7

魔力探知 Lv6

敵意察知 Lv6

体力自動回復 Lv3

魔力自動回復 Lv6

光魔法 Lv7

水魔法 Lv8

時空魔法 Lv3

重力魔法 Lv3

光合成 Lv7

猛毒生成 Lv5 New!


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング


(よし、無事に進化できたみたいだ!)


 前回と同じように進化によって全てのスキルが1ずつ上がっている。未だに使えないスキルも上がるだけに、地味に嬉しい効果だ。


 それから"毒生成"が"猛毒生成"に変わっていた。今までよりも強力な毒が作れるようになったようだ。これで生き残る確率がまた上がったはずだ。


 そして、進化したことでレベル1に戻った僕は、また飽きもせず光合成でレベル上げを行うのであった。

 

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