第4話 初めての進化 ○

(ふう、今日も一日無事に生き残ることができたな)


 僕が宿敵エービを倒してからさらに1週間ほどが経った。あれ以来、光合成ではなかなかレベルが上がらなくなっていたが、幸い宿敵エービはあの一匹だけではなくたくさん生息していたようで、水面近くに来たエービを倒すことで経験値を稼ぐことができた。やはり僕の予想通り、魔法に関しては何もないところで練習するよりも、敵を倒したり実践で使った方が伸びがよいことがわかった。


 そして、今日5匹のエービを倒した僕のレベルは10と表示されている。


(おや、何か項目が増えてるな)


種族 苔

名前 なし

ランク G

レベル 10 進化可

体力    14/14

魔力     4/14

攻撃力   0

防御力   10

魔法攻撃力 14

魔法防御力 14

敏捷    0


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv3

鑑定 Lv3

思考加速 Lv3

生命探知 Lv4

魔力探知 Lv3

敵意察知 Lv4

体力自動回復 Lv1

魔力自動回復 Lv3

光魔法 Lv3

水魔法 Lv4

時空魔法 Lv1

重力魔法 Lv1

光合成 Lv4


称号

転生者

スキルコレクター


 僕はステータスウィンドウのレベルの横に『進化可』という項目があるのを発見した。今までこんな項目がなかったから、レベルが10になったことで現れたのだろう。


(こ、こ、これはもしかして!?)


 おそらく、苔の最大レベルが10だったのだ。レベルが最大になったことで、僕のスキルの一つである"特殊進化"の効果が発揮されたのだろう。


 はやる気持ちを抑えて2~3回深呼吸した後、"進化可"を意識する。


□進化先を選んでください

・雑草

・薬草

・毒草


 おお! 予想通り進化できるようになったようだ! 何々、選べる進化先は3つか。雑草に薬草に毒草か……進化しても草なのか……


 確かに苔からの進化だからそんなには期待してなかったけどね……


 草を食べる動物はたくさんいる。下手したら強い魔物だって食べるかもしれない。これは外敵が少ない池の苔より生き残るのが難しそうだ。かといって進化しないというのも有り得ない。ここで進化しなかったら一生苔のままだ。それだと目標を達成できない。となると、どれを選べばいいのか慎重に考えなくては……


 まずは一つずつ"鑑定"していくとするか。最初は雑草だな。


雑草……どこにでも生えている草。特別な能力は無いが生命力が強く枯れづらい。


 ふむふむ。戦うという意味ではあまり期待できないかもしれないが、生き残るという目的だとそう悪くないかもしれないな。

 草食動物だって雑草よりはもっと美味しい草や何らかの効果がある草を優先して食べるだろうし、人間だってわざわざ雑草を取りに来ることはないだろう。それに、生命力が強くて枯れづらいのも生き残るための条件としては悪くない。というか、この世界は雑草が種族になるんだな。


 それはさておき、次は薬草か。


薬草……回復効果がある成分を含んでいる草。回復薬の原料となる。


 なるほど、予想通りの効果だな。自分が手に入れるとしたら雑草よりも回復草を狙うだろう。そして、それはそのまま薬草が生き残る確率が低い理由となりそうだ。ひょっとしたら回復系のスキルを何か覚えるかもしれないが、それにしてもリスクが大きすぎる。進化先としてはこれはなしかな。


 最後は毒草だ。


毒草……毒の成分を含んでいる草。毒薬の原料となる。


 こちらも想像していたまんまの効果だな。だがしかし、薬草よりは遙かに生き残る確率が高そうだ。なにせ、毒成分が含まれる草をわざわざ食べる動物はいないだろう。ひょっとしたら中には物好きな魔物なんかがいるかもしれないが、それにしたってそれほど多くはないだろう。

 人間に採取される可能性としては雑草よりは高そうだが、そもそもここに転生してから2週間ほど経つが、人間はおろか動物すらまだ"生命探知"にかかったことがない。つまり、人間がここに来る可能性は0ではないかもしれないが、限りなく低いのではなかろうか。その間に次の進化まで持って行ければ生き残れそうな気がする。



 ということで、僕は次の進化先を『毒草』にすることに決めた。


(よし! 次の進化は『毒草』でお願いします!)


 僕がそう念じた途端、身体が光りに包まれた。不思議と熱くはないが、身体が細胞単位で変化しているのがわかる。サイズも段々と大きくなっているようだ。


 光が収まったとき、僕は高さ10cmくらいの紫色の斑点がついた双葉へと変化していた。(自分では見えてないけど)ご丁寧に、生えている場所も石の上から池のほとりへと変わっていた。確かに石の上に生えていたら、根が張れずに直ぐに枯れてしまうだろう。これは女神様のおかげだろうか。ありがたい。


 さて、進化も終えたことだし早速ステータスを確認してみよう。


種族 毒草

名前 なし

ランク G

レベル 1 

体力    8/8

魔力   12/12

攻撃力   1

防御力    8

魔法攻撃力 15

魔法防御力 15

敏捷    0


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv4

鑑定 Lv4

思考加速 Lv4

生命探知 Lv5

魔力探知 Lv4

敵意察知 Lv5

体力自動回復 Lv2

魔力自動回復 Lv4

光魔法 Lv4

水魔法 Lv5

時空魔法 Lv2

重力魔法 Lv2

光合成 Lv5

毒生成 Lv1 New!


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者 New!


 ふむ。体力と防御力はレベルが1になったせいで下がってしまったようだが、魔力関係はむしろ上がっている。これは素直に嬉しい。さらに敏捷は相変わらず0だけど、攻撃力が1になっている。頑張れば物理攻撃も可能だということだろうか。どういう攻撃が出来るのか想像できないけど。


 ランクはGのまま変わっていないが、スキルが一つと称号が一つ増えている。早速確認してみると……


毒生成……体内で毒を作り出すことができる。毒の強さはLvによって変化する。

進化者……一度でも進化した者に与えられる称号。進化前の能力を種族固有のものを除き引き継ぐことができる。


 おお! これはどちらも有用な効果だ! 特に"進化者"はありがたい。最初にもらったスキルは進化してもなくならないとは思うけど、後から得たスキルは進化したときになくなってしまうと思っていたからね。それが残るとなるとコレクターである僕にとってはとっても嬉しい効果だ。


 毒生成も生き残る手段に加え、敵を倒す武器になる可能性を秘めている。現状、攻撃手段が魔法しかないから、魔法が効かない相手がいたら苦しいと思っていたけど、毒があるなら何とかなるかもしれない。食べられる以外に毒を相手に送り込む手段を早急に考えねば。


 さらに進化したことで、スキルレベルが軒並み一つずつ上がっている。今まで使えなくて上げられなかったスキルまで上がっているのはありがたい! これで重力魔法や空間魔法を使える可能性が見えてきた。よかった。僕の選択は間違っていなかったようだ。




 さて、ステータスの確認はこれくらいにして、次は新しくゲットしたスキルの確認だ。僕は頭の中で"毒生成"と念じる。すると葉の部分からじわっと毒が分泌されているのがわかった。


(毒を作ることはできたけど、これじゃ相手に毒を送り込むには食べられるしかないな。それじゃあ、相手を毒状態にしたとしてもこちらも死んでしまうから意味が無い。何とか、食べられずに相手に毒を送り込む手段を考えなくては……)


 初めは何とか毒を飛ばすことが出来ないかと考えたが、どうやらそれは無理そうだった。なかなかいいアイディアが浮かばなかった僕だったが、考えながら魔法の練習をしているときにいい方法を思いついてしまった。

 それは、"ウォーターエッジ"の中に毒を生成するという方法だ。これならば自在に飛ばすことが出来る上、"ウォーターエッジ"でつけた傷から毒を送り込むことができる。まさに一石二鳥の作戦だ。名付けて"ポイズンエッジ"作戦だ!


 この方法を思いついた僕は、早速、練習を開始した。ただ、この練習は難しく最初は上手くいかなかったが、3日ほどかけて何とかものにすることができた。

 光合成のおかげでレベルが1つ上がってはいたが、その間に動物も魔物も現れなかったのは運がよかったとしかいいようがない。

 しかし、元人間の僕は現金なもので一度魔法が完成してしまうと、今度はその魔法を早く試したくて仕方がないと思うようになってしまった。。僕はさらにレベル上げ&スキル上げをしながら獲物が来るのを待ち続けた。





 そしてついに特訓の成果を試す時が来た。


 森の奥からひょっこり顔を出したのは、体長20cmほどのウサギだった。いや、これは騙されてはいけない。僕はエービの時に学習したのだ。ヤツはウサギではなく、ウサーギに違いない!


種族 ラビート

名前 なし

ランク F

レベル 12 

体力    25/25

魔力   3/3

攻撃力   16

防御力   12

魔法攻撃力 3

魔法防御力 3

敏捷    31


スキル

跳躍 Lv3


 クソ! そっちだったか……


 名前に関してはちょっと納得いかないが、さすがは動物というべきか毒草である僕より、レベルもランクもステータスも数段上だ。特に敏捷が31もある。僕が敵だとバレたらあっと言う間に蹴散らされてしまうだろう。しっかりと死角から攻撃して躱されないようにしないといけないな。


 ラビートは僕から数m離れたところで普通に雑草を食べている。よかった。雑草にしなくて本当によかった。時折頭を上げて警戒している様子から、このラビートを捕食するような動物や魔物もいると推察される。


(早くレベルを上げて進化しないと危険かもしれない)


 肉食動物が僕を食べるかどうかは別だが、毒を持っているとはいえ僕は所詮は草だから踏んづけられたら終わりなのだ。何とか自力で動けるようになるまで厳しい戦いが続きそうだ。


 僕が隙を窺っていると、ラビートが何かを見つけたように急に一点をめがけて走り出した。どうやら好物の草を見つけたらしく、夢中になってその草を食べ始めた。


(あれは薬草か。まさかラビートの好物だったとは。よかった。薬草にしなくて本当によかった)


 僕は進化先を毒草に選んだ自分を褒めつつ、夢中になって薬草を食べているラビートの後方にポイズンエッジを2つ浮かべた。


(いけ!)


 毒を含んだ2つの水の刃が狙い通りに、ラビートの背中と後ろ足に傷をつける。さすがに切断とまではいかなかったが、決して浅くない傷をつけることができた。


 突然の攻撃にラビートは驚いて逃げようとしたようだが、後ろ足の傷が深くて思うように動けない。


種族 ラビート 毒

名前 なし

ランク F

レベル 12 

体力    5/25

魔力   3/3

攻撃力   16

防御力   12

魔法攻撃力 3

魔法防御力 3

敏捷    31


スキル

跳躍 Lv3


 ラビートを再度鑑定してみると、体力が5に減っていて、種族名の横に"毒"と出ていた。やはり、傷口から毒を送り込む作戦が功を奏したようだ。


 ラビートはその後も必死に逃げようとしていたが、毒の影響か徐々に動きが鈍くなり、ついには事切れて全く動かなくなった。


(よかった。ウォーターエッジだけなら逃げられていたかもしれない。やっぱりこの毒はかなり使えるな)


 生き残るという意味でも進化するという意味でも毒草を選んだのは間違いじゃなかったようだと、改めて自分の選択を褒めてみる。


 その後、僕はラビートをアイテムボックスにしまえないか試したところ、問題なく収納することができた。少し距離があったからダメ元で試したんだけど、上手いこといって良かった。

 ラビートの素材については今は使う機会がないけど、進化後に何かの役に立つかもしれないから取っておくのだ。


 おっと、それより格上を倒したことでかなりレベルが上がっているはずだ。今のうちに確認しておこう。


種族 毒草

名前 なし

ランク G

レベル 12 

体力    18/18

魔力   16/34

攻撃力   12

防御力   19

魔法攻撃力 37

魔法防御力 37

敏捷    0


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

アイテムボックス Lv5

鑑定 Lv4

思考加速 Lv4

生命探知 Lv5

魔力探知 Lv4

敵意察知 Lv5

体力自動回復 Lv2

魔力自動回復 Lv4

光魔法 Lv4

水魔法 Lv6

時空魔法 Lv2

重力魔法 Lv2

光合成 Lv5

毒生成 Lv3


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング New!


 おお! ステータスが大幅に上がっている上に称号が一つ増えている!


大物食いジャイアントキリング……ランクが上でレベル差が10以上の相手を倒す。格上と戦うときにステータス上昇。


 これもなかなか有用な効果だな。進化後のレベルが低い時でも生き残る確率が上がりそうだ。

 それにしても、レベル差10以上の相手か。よくよく考えたら、ちょっと軽率だったかもしれない。毒が上手く効いたからよかったが、もし毒が効かなかったら逆にやられていたかもしれない。

 そう考えると、攻撃するのはもっと慎重にした方がよさそうだ。新しい攻撃方法を発見して、少々浮かれすぎていたようだ。せっかく鑑定を持っているのだから、これからはもっと慎重に行動しようと心に決めた。


 勝って兜の緒を締めたところで、僕はまたいつものスキル上げに戻るのだった。

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