第5話 失敗は成功のお母さんだったんだ
「――これは怪我の功名、と言っていいのだろうか」
配信しているつもりでベラベラ喋っていた痴態が見事に録画された動画。
超高性能の名に恥じず、お手軽に編集を終えてサイトにそれをアップロードした。
・馬鹿過ぎるｗｗｗｗｗ
・これは演技で出来るリアクションじゃない
・途中まで俺も配信のアーカイブかと思ったわ
・セリアちゃん可愛い
・なんなんこれ、おもろ
・完璧なオチ
見ての通り、投稿した動画はどうやら馬鹿動画としてそこそこの伸びを見せていた。
出来れば俺の滑稽さではなく内容に注目してほしいのだが、今はこれでもいい。
「じ、自分が喋ってるとこ見るの、結構恥ずかしい……ね」
「本当にな。何が悲しくて自分の絶叫を見返さなきゃいかんのだ」
「でも、ユウキは喋るのとっても上手だと思う、な」
「良い子過ぎる……」
どうしてこんな良い子がこんなダンジョンの奥に囚われてたんだって話。
俺みたいなカスなら理由は分からんでもないが、これもまた大きな謎の一つ。
「とはいえスタートダッシュは成功だな。チャンネル登録もどんどん増えてるし」
「早く、誰か助けに来てくれるといいね」
「なー。外出れたらお前の記憶も戻るかもしれないし」
「わ、私のことよりユウキがしたいことしてほしい……」
ダンジョンの最奥ながら非常にほのぼのと。一人ではないのはやはり心強かった。
動画の伸び方も考慮して、次の配信は明日に行おうと今はフロアの一角で作戦会議中。
「まずは絶望的な事実から整理しよう。恐らくだが、今まで入り口から入ってきた奴は誰一人この最奥まで辿り着けてない。俺達みたいなイレギュラーを除いてな」
「それは、どうして？」
セリアのいいところは疑問を常に口に出してくれるところ。本当に喋りやすい。
「ここにあるお宝が今のところ全くの手付かずだからだな。俺が手に入れたチート能力が手に入る魔導書なんかも、俺が能力を得たらその場から消えちゃったし」
「ん……。皆がダンジョンに入る目的は、そのお宝だからってこと？」
「理解が早い。それを加味した上で、このダンジョンに対する仮説が幾つか思いつく」
ダンジョンに入って、そのままお宝を無視して出て行くような馬鹿はいない。
故にここまで辿り着いた奴がいない。アホでも考え付くシンプルなロジックだ。
「おっ、セリアも思いついてそうだな、じゃあ一つずつ言ってこうか」
俺の言葉にセリアは自信満々に頷く。二人で共有するにはこれが一番いい。
「このダンジョンは、とってもとっても深くて長い？」
「或いは道中にアホほど強いバケモンがいる」
「ん、と……このダンジョン自体がすごく遠いとこにある？」
「もしくは現在未発見のダンジョンである」
次を捻りだそうとセリアは首を傾げるが、すぐには出てこずに俺に目配せを。
「んー、引き分けだな。俺の足りない頭じゃこれ以上思いつかん」
「なら、一緒だね……えへへ」
「記憶無いのにようやったよお前は」
とはいえ俺も外の世界の情報はほとんど持っていないに等しいので条件は同じ。
考え得るのはこれぐらい。まぁ、結局のところ絶望しかないんですけども。
「それを踏まえて俺達は、これから配信をしながらこのダンジョンを逆走していく。そうして自力での脱出を試みつつ、ダンジョンの存在を明るみにして救助が来るように祈るんだ」
「ん……頑張る」
「あぁ。最奥に辿り着くのが難しくても逆はそうだとも限らないし、な」
ということでふわっとしてた方針が定まった。ここから俺達の脱出劇が始まる。
「そんじゃ、景気付けにあれやっとくか。意味無いけど」
「う、うん……」
そうして俺とセリアは同時に大きく息を吸い込み、ダンジョンに声を響かせた。
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」
「だ、誰かー……助けてくださーい……？」
なんとも凄まじい温度差。セリアは俺の目的を手伝ってくれてるだけだからな。
誰も到達してないダンジョンの最奥。奇跡的に誰か助けに来てくれたりしませんか？
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