第4話 ほな、初配信でもしますかねと

セリアが囚われていたフロアを無事に抜け、長い長い通路を歩いているそんな最中。


「いいか、セリア。配信をする上で最も気を付けないといけないことは分かるか?」

「ん……全然分かんない……」


 少し考えこむ様子を見せたセリアだったが、すぐに白旗を上げる。

 よくよく考えなくても記憶が無い奴にする質問じゃなかったわ。


「よし、じゃあ教えてやろう。リアルタイムで俺達の会話が発信される訳だから、発言の訂正が出来ないんだ。だから知られたくないことは言わないようにする、これが大事だな」

「例えば……?」

「え、そうだな。個人情報とかはなるべく伏せた方がいいかもしれん」


 それは例えば住所とか電話番号とか。本名なども避けた方がいい場合がある。

 身バレや凸を防ぐといった意味があるのだが、俺は重要なことを忘れていた。


「でも私、名前以外何も分からない……」

「うん、そうだったわ!! というか、俺も知られて困る個人情報何もない!!」


 むしろ俺達の場合積極的に伝えるべきだった。至急、ここの住所を誰か教えてくれ。

 どちらかと言えば持っている情報は全て開示するぐらいの勢いでいいかもしれない。


「とにかく配信が始まったら、笑顔を忘れないようにな」

「笑顔……。こう?」

「うん、可愛いぞ。最高だ」

「そ、そう……?」


 困ったな、これでは俺よりもセリアにファンがついてしまう。惨敗の未来が見えた。

 まぁ、セリアに関しては自然体で喋ってもらうのが一番だろう。


「基本的には俺主導で進めるから、セリアはいつも通り喋ってくれると助かる」

「う、うん……頑張る」


 いつも通りとか抜かしたが、俺達は出会ってまだ数時間。

 だけどこんなダンジョンに二人きり。協力し合わない手などないのだ。

 そうして、長い長い通路を歩いた先にまた違うフロアの入り口が見えたところで。


「んじゃ、配信開始!! 奇跡的にバズることを祈るばかり」


 配信タイトルは『誰か助けてください』というシンプルなもので攻める。

 敢えてタイトルで詳細は言わない。意外とこういうタイトルは目を引くからな。


「――こんダンジョン!! 気付いたらダンジョンの最奥にいた系配信者のユウキです」

「あれ、『ヘルプミー』は……?」

「ダサいからやめた……」


 のっけから裏の話をするんじゃないよ、セリア。前途多難だよこれは。


「ほら、セリアも挨拶して」

「こ、こんダンジョン……? ダンジョンの最奥に囚われてた、らしい? セリアです」

「そんな二人でこのダンジョンからの脱出を目指すチャンネルです、どうぞよろしく」


 うん、意味不明だ。皆も初配信はちゃんと準備してやらないと黒歴史になるぞ。

 とかなんとか言っても仕方がないので、頑張って続けてみることにしよう。


「今回は初配信ということで、このダンジョンにあるお宝を紹介していきたいと思います」

「お宝……? この先に、お宝があるの……?」

「無かったらそのまま配信終わりにする」

「えぇ……?」


 なんともまぁ行き当たりばったりな配信だ。しかし必要なのはライブ感だ。

 俺は芸人でも何でもない。事前に知っていたらリアクションが出来ない自信がある。


「俺が迷い込み、セリアが囚われていたこのダンジョンの最奥。既に多数のチート能力や魔道具があることを確認しています。ダンジョン好きな貴方なら、もうお分かりですね?」


 そこで少しだけ間を空ける。そうですね、コメントを待つ時間ですね。

 こうやってそれっぽいこと言ってコメントを稼ぐ、どっかのサイトに書いてあった。

 そして配信用アーティファクトを見てみるが、一向にコメントがつく気配が無い。


(……流石にここまで見られないのは寂しくねぇ!? 自信無くすぞ……)


 ミステリーハンターっぽかったのが良くなかったのか。上から目線で行き過ぎたか。

 あんなに盛況な配信サイトで誰にも見られないという事態に恐怖を覚える。


「……ユウキ? 顔色、良くないよ……?」

「気にするな、元来これぐらい土気色なんだ」


 少しばかり元の世界での初配信を思い出してブルーになったが、気持ちを切り替える。

 そうして一旦同接のことは忘れて、結局フロアにあったお宝とかを撮影していった。


「――ってことで今回見つけたのはスキル【完璧な複製】でしたね。俺はいらないので、欲しいと思った方は是非ともついでに俺達を助けに来てください。お願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 遂に締めまで来てしまった。まさかコメントも同接も0とは恐れ入った。

 というか表示すらされてない。仕方が無いのでサクッと配信終了して、次に活かす反省会でもしよう。クソッ、なーにが超高性能配信用アーティファクトだよ――


「――ッあ!? !? いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「????」

「終了、終了!! こんなに恥ずかしいこと、世の中にそうないよ!!」


 まさかの大ポカ。配信始めたてによくあるミスを、初っ端からしでかしてしまった。

 ちゃんと取扱説明書は事前に読み込もう。心からそう思いました。


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