第3話 謎のダンジョン、二人でいても帰れない

「――!!」

「起きたか。おはよう。生きててよかったよ」

「だ、誰……?」


 隠されていた牢獄に囚われていた少女を救い出してからのこと。

 なんか封印されていたみたいだったので、それを解除したらすぐに目を覚ました。


「あー、そういえばそうだった。ついでだし自己紹介の練習も兼ねるか」

「???」


 この世界に来てからずっと一人だったので、名を名乗る機会と言うものが無かった。

 これから配信をするというのなら、やっておいた方がいいだろう。困惑してるけど。


「ヘルプミー!! 気付いたら最難関ダンジョンの最奥にいた系配信者、ユウキです!!」


 だっせぇ!! でも助けてほしいのが一番の目的だからこれでいいんだ、うん。

 そもそもこの世界でヘルプミーって通じるのかな。知らんけど伝わってくれよ。


「!! 私も、一緒……。気付いたら、ここにいた……」

「おっ、そうかそうか。名前は?」


 大方の予想通りだが、彼女もまた知らないうちにこのダンジョンにいたらしい。

 俺とは違って牢獄に囚われていたのが気になるポイントだが、仲間が増えたのは僥倖。


「え、と……」


 少し言い淀みながらこちらをちらちらと見てくる。なんだろう、むず痒いな。

 そうして意を決したのか、多少の赤面を醸し出しながら彼女は続けた。


「へ、へるぷみー……? 記憶、無いけど……名前は分かる系配信者? セリアです……?」

「罪深いことをしてしまった」


 なんてこった、こんなにも恥ずかしそうにやるぐらいダサい自己紹介だったなんて。

 こんなの配信してたら大バッシング待ったなしだった、危ない危ない。


「ん……? 記憶が無いのか? ここに来る前のこととかも全部?」

「分かるの、名前だけ……。他は何も、思い出せない……」

「それはまた難儀な……」


 俺のようにここに来るまでの記憶が欠落しているのではなく、これまでの記憶の全消去。

 セリアと名乗った少女の様子を見る限り、嘘を吐いてるようには見えなかった。


(金髪美少女のエルフ、俺だけだと画面に華が無いから一緒に来てくれると助かるが……)


 これから配信をするにあたって、見栄えが好い相方がいるのは非常に心強いが。

 そもそも厳重に厳重を重ねた先の牢獄に、さらに封印までされていたのを考えると。


「あ、そうだった……。助けてくれて、ありがとう……ユウキ」

「それは別にいいんだけど……何か嫌な予感が――」


 そう零した瞬間に、フロア中に響く音量で警報がけたたましく鳴り始めた。

 警報と同時にフロアの出口の方から、大量の機械生命体のようなものが現れる。


「っだぁー、やっぱそうだよな!? なんか遅いからそういうの無いって期待しちゃったよ!!」


 どうなってんだ、セキュリティは。来るなら封印解いた時に来なさいよって。

 多少お喋り出来る猶予があるのがまた厭らしい。或いは誰も来なさ過ぎて鈍っていたか。


「な、何……!?」

「とにかく俺の傍を離れるなよ、お嬢さん!!」

「う、うん……!!」


 そうして一斉に機械生命体の群れは俺達に襲い掛かってくる。

 まずは俺とセリアの周りをスキル【絶対防護障壁】で覆う。これだけでは無意味だが。


「こんなに沢山……だ、大丈夫なの……!?」


 そんなセリアの不安そうな声を聞きながら、俺は一切不安など持っていなかった。

 半日前の俺では無理だった。だが、舐めるなよ、ここを何処だと思っている。


「うはははははは!! 持て余してたモンをやーっと使う機会が来たぜぇ!!」


 散策の時に手に入れていたスキル【極大爆裂魔法】を容赦無しに撃ち込む。

 まさか「特技は極大爆裂魔法です」ってちゃんと言える日が来るとは思わなかった。


「うわっ……!!」

「うわぁ……威力エグ……。怖くなってきた……」


 丁度奴らの群れの中心に撃ち込んだことでその全てが爆発四散。

 数えるのも億劫な数だったが、煙が晴れる頃には無残な残骸しか見当たらなかった。


「……。ユウキは、何者……なの?」


 驚いた様子でセリアは俺が何者なのかを問う。よくぞ聞いてくれました。

 最難関ダンジョンの最奥で目覚め、沢山のチート能力や道具を手に入れた、そう。


「このクソダンジョンから出られる気がしない要救助者その一だ」

「じゃあ、私は……その二?」

「そういうことになるな!! はははは!! 誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」


 一つの危機を脱したところでダンジョン脱出という最上命題がクリア出来る気がしない。

 二人に増えたところで出られる気がしない。誰か本当に助けに来てくれませんか?


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