どうして魔王城は青あざのような色をしているのですか?

四百四十五郎

どうして魔王城は青あざのような色をしているのですか?

「どうして魔王城は青あざのような色をしているのですか?」


 魔王城の玉座まで一人で攻め込んできた勇者が魔王である私に向かって想定外の質問をしてきた。


 


 私の名は魔王ニゴール。


 今から5年前に色々あって人間から魔王に種族チェンジし、現在は築3年のオーダーメイドな城(通称魔王城)に住んでいる。


 ちなみに今年の目標は人類絶滅だ。


 私の向かい側に立つ少女は勇者スミ。


 めちゃくちゃ強いらしく、『傷つくのは私一人だけでいいんです』とか言いながら単身かつ無傷でここまでやってきたそうだ。


 正直、私はスミに勝てる気がしない。


 戦いが始まったらまばたきひとつする前に首を斬られて死ぬだろう。


 だから、なんとかして雑談に持ち込んでその隙に逃げるつもりだったのだが、勇者がめちゃくちゃくだらない質問をしてくれたおかげでなんとかなりそうだ。


「……知りたいか?その理由」


 私は隙を増やすべく意味深な感じの回答をして時間を稼ぐ


「知りたいです!」


 勇者がキラキラした目で私を見つめてくる。


 なんで彼女は私の家の色にそんなに興味があるんだ。


 確かに、魔王城は全体的に醜い紫色だ。

 

 壁も床も外壁も内壁も青あざみたいな気色悪い色をしている。


 もちろん、そんなヤバいカラーリングになったのは建築ミスなどではなく私の要望を工事担当の魔物が聞き入れたからである。


 そして、この色を指定したのもきちんと理由があるのだが……


「……今のお前には理解できないだろう」


 これはウソでもハッタリでもなく本心からの一言であった。


 勇者はまだ世間をあまり知らない。


 だから、私が魔王城の色を青あざみたいな色にした理由を話しても絶対に理解してくれないであろう。


「じゃあ、将来の私は理解できるんですね!だったら後で理解するためにも今教えてください!」


「ダメだ。今のお前に教えたら笑われる。お前が理由を理解できる年頃になったら教えてやる」


「うう……理由は気になりますけど、このまま魔王さんを放置していたらみんな死んじゃうらしいので殺しますね」


 勇者がそんなことをつぶやいた次の瞬間、私の首は切断されて私は即死してしまった。



 

「勇者スミよ、よくやった!人類を救ったお礼としてでっかい自宅を作ってあげよう!」


 健康が心配になるほど太っている老齢の王様が勇者スミに報酬を与えることを謁見室で宣言した。


 あれから私はわずかな未練のおかげで魂だけは幽霊としてこの世界に残ることができた。

 

 そして、勇者が魔王の城が青あざみたいな色をしている理由を理解できるタイミングを待つため、常に勇者につきまとうことにしたのだ。



 

 勇者が王様から貰ったでっかい自宅は人間がたどり着くのが困難な山奥にあった。


 まるで勇者を人間の世界から隔離するかのように建った自宅はまだ色が塗られておらず、外壁も内壁も床も天井も真っ白だった。


 引っ越した翌日には日用品を持った行商人が自宅近辺に出店を出し、それと同時に自宅を取り囲むとても高い壁の建築も始まった。


 私は心の中でニヤリと笑みを浮かべた。


 もうすぐだ。


 もうすぐ勇者が魔王城が青あざみたいな色をしている理由を理解できるようになる。


 勇者20人分くらいの高さがある自宅周囲の壁が完成した日の夜、勇者はいつもと違って活力を感じない顔でベッドに横たわっていた。


 ついに来た。


 魔王城が青あざみたいな色をしている理由を理解してくれる瞬間が。


 私は魂に残された力を使い、理由を教えるべく勇者にテレパシーで語りかけることにした。




『おめでとう勇者。キミは様々な経験を積んで成長し、ついに魔王城が青あざみたいな色をしている理由を理解できるようになった。』


「その少ししゃがれた声は魔王さん……ついに教えてくれるんですね」


 私のテレパシーを聴いた勇者が余計な一言を添えつつ反応してくれる。


『ああ、教えてあげよう。魔王城が青あざみたいな色をしている理由をな』


 それから、私はほぼ一方的にテレパシーで話し続けた。


『魔王城の色は、世界の色なんだよ』


『私にはな、この世界が青あざみたいな醜くて最悪な世界に見えたんだ』


『そして、私はそんな醜悪な世界から目を背けて人類や社会を賞賛する奴らが許せなかったんだ』


『だから、この世界が醜悪なことを人々に分からせるために魔王になり、醜悪な世界そのものを模した魔王城を自分の象徴として作ったんだ』


『世界はな、でっかい魔王城なんだよ』


 勇者は何も言わずに私の自論を聞いてくれた。


 私は勇者に視線を向け、彼女にこう問いただした。


『キミの目に移る世界はどんな色なんだい?』


 


「澄んだ青空のような色に見えますね」


 人々から疎外された勇者が出した答えは想定外のものであった。


『澄んだ青空って……お前正気か?人間どもはお前を恐れて山奥に隔離しているんだぞ!そんな世界のどこがいいんだ!?』


「違いますよ、魔王さん。みんなは私をゆっくりと休ませたくて山奥に家を建ててくれたんです」


『んなわけあるか!!窓の外を見ろ!!めっちゃ高い壁までつくっているじゃないか!!あの壁はお前を自分たちの社会から排除するために作ったんだぞ!!』


「それも違いますよ。あれは私が急な刺客に命を脅かされないようにってみんなが作ってくれたものなんですよ」


 なんてことだ。

 

 この勇者、楽観的すぎる。


 なんでこんな軟禁に等しい状態でも世界を醜く思えないんだ。


 まるで私がちっぽけで弱っちい存在みたいじゃないか。


 そんなわけあるか。


 世界は青あざみたいに醜いに決まっている。


 あいつは選ばれし勇者なんかじゃない。


 比類なきバカだ。


『お前はこの世で一番のバカだあああああ!!』


 私は思いっきり勇者をののしる。


「そうかもしれませんね。今日だって壁の完成を祝う宴で張り切りすぎて数年ぶりに疲れちゃいましたし」


 その言葉を聞いた瞬間、私は感じた。


 私と勇者の間にある圧倒的な格の差を。


 肉体同士のぶつかり合いでも負け。


 精神同士のぶつかり合いでも負けた。


 私の絶望は瞬く間に魂の力を弱くしてしまった。


 しばらくして、私は成仏してしまった。




*****




 魔王の魂が成仏して数日後、勇者の家にペンキ塗り職人が訪れた。


「そういえば自宅の色塗りがまだでしたね。どんな色に塗りますか」


 職人の質問を聞いた勇者はまばたきする間もなく答える。


「この世界と同じくらい綺麗な青空色でお願いします!」 

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