第2話

   

 駅前を東西に走る道路は、センターラインも引かれているような大通りです。交差点から北へ曲がる道もきちんと舗装されており、センターラインの表示こそないものの、一方通行ではありません。

 ただし、まだまだ住宅地としての開発が遅れている地域のため、道路に面しているのは民家や商店ばかりでなく、雑木林や畑など自然の土地もたくさん。大通りから少し脇道に逸れるだけで、立派な木々に挟まれた林道になるという環境です。

 良子ちゃんの頭に浮かんだショートカットとは、そうした小道の一つでした。まだ低学年の頃、近所を歩いていて「これ、どこへ通じているのかな?」という好奇心から入った道が、東西の大通りと南北に走る道とを繋ぐ近道だったのです。

 アスファルトで舗装された灰色の道ではなく、茶色の土が剥き出しの林道を歩くのは、ハイキングやピクニックへ出かけたような気分。まるで住宅街から突然山奥にワープしたみたいで、あの時は「近所にこんな場所があったなんて!」とワクワクしたものです。


「うん。ここを通れば、少なくとも五分は短縮できる!」

 自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、良子ちゃんは近道へ入って行きました。

 人通りのない小道です。大通りとは異なり、街灯は設置されていません。お父さんやお母さんからは「夜道には充分注意するように」「特に暗いところは危ないから、なるべく明るい道を」と言われていますが、今夜はよく晴れているので、月は明るく星もまたたいています。だから大丈夫のはず。

 良子ちゃんは、そう判断したのです。


 しかしいざ歩き始めると、夜の林道は想像以上に暗くなっていました。左右にそびえ立つ木々の茶色や緑も全て黒々と見えるほど。それらに遮られて、月や星の光は一部しか届かないようです。

 もしもこれが知らない山道ならば、迷ってしまうかもしれません。良子ちゃんは少し怖くなりますが、でも知らない山道どころか、何度も通ったことがある近所の小道。しかも一本道だから、このまま道なりに進めば、きちんと明るい車道に行き当たるのです。

「うん、だから問題ない!」

 自分を勇気づけながら、良子ちゃんは前進を続けます。


 こうして暗い夜に歩くと、改めて「山奥にワープしたみたい」と感じるような寂しい場所でした。左右を見渡せば、まるで熊や狼が出没する山中みたいで、やっぱり何だか怖くなるくらいです。

 だからといって耳を澄ましても、物寂しさは増すばかり。シーンという擬音が聞こえてくるほど静寂で……。

「……えっ?」

 いや、静寂ではありませんでした。

 驚いた良子ちゃんは、思わず叫んで立ち止まってしまいます。

 人がいないはずの夜の林道に、自分以外の足音が聞こえていたのです!

   

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