3 神格喪失

3-1 王女が扉を潜る朝

「では……始めるか」


 リゾートの俺の部屋。目の前には固有ダンジョンの扉が召喚されている。


「うまくいくかは自信がない。……覚悟はいいか、マリーリ」

「はい、エヴァンス様」


 冒険服の王女が頷く。


「覚悟はできております」


 前回は連れて行くことはできなかった。だからダメならダメで安心だ。しかし固有ダンジョンの扉を潜れた場合がむしろ怖い。ちゃんと連れて行けるのか。あるいは姫様だけなにかの条件違反で跳ねられて、どこか次元のはざまで永遠に彷徨う……なんてことだって考えられる。


 なにしろ根拠は、正体不明の「道標」って奴の話だけだからな。


「エヴァンス様を旅にお誘いしたのは、わたくし。あのとき……死んでもいいと願いました」

「死ぬなんて言うな。俺が死なせん」

「そうですよ、姫様。エヴァンスくんは、わたくしや姫様を守ってくれます」


 アンリエッタは、マリーリ王女の手を、しっかり握っている。


「わたくしとエヴァンスくんが、姫様の両手を握っています。決して離しません」

「ありがとう……アンリエッタお姉様」

「よし、行こう。向こうの世界で、ザルバに訊いてみなくては。道標の戯言が真実か」


 王女が本当に死の呪いを受けているなら、近いうちに発動する。その前に、なんとしても「アシュル」とかいう謎野郎を叩き潰さないとならない。「道標」の言葉をザルバが担保するなら、それは真実ってことになる。「道標」野郎の陰謀や誘導ではなく……。


「行きましょう、エヴァンス様」

「ああ」


 手を触れ、扉を開いた。いつもどおり、中は渦巻き模様の謎空間になっている。


「しっかりしがみついてろよ、マリーリ」

「エヴァンス様……」


 腰に手を回し抱き寄せると、王女は抱き着いてきた。王女の体を、アンリエッタも支えている。


「三で踏み込む。いいな……一、二……、三っ」


 王女を抱いたまま扉を潜ると、世界は暗転した。




●今回短くてすみません。その代わり、次話はなるはや公開します

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