2-4 愛の確認。三人と妖精の。

「エヴァンス様。わたくし、もうすっかり準備ができておりますわ。心と……」


 思わせぶりに、マリーリ王女が俺を見上げてきた。王女とアンリエッタは、俺の体をシェアするかのごとく、左右から俺を抱いてくれている。


「いつ結婚するかは、タラニス国王の意向もあるしな」

「あら……」

「まあ……」


 ふたりがくすくす笑うと、デッキチェアが揺れた。


「殿方って、意外に察しが悪いのですね」

「マリーリ様、それはエヴァンスくんだけかもしれませんよ」

「そう言えば父上の前で、エヴァンス様は前代未聞の演説をブチかましたと聞いておりますわ」

「ええ。面白かったですよ。グリフィス学園長にイド様、それにパーシヴァル様も苦笑いするしかないご様子でした」

「見たかったですね、そのときのエヴァンス様の勇姿」

「勇姿は勇姿でも、蛮勇という奴ですね」」

「あーもう、それくらいで勘弁してくれ」


 ふたりの体を、乱暴に抱き寄せた。もうここはごまかすしかない。


「あっ……」

「エ……ヴァンスくん……」


 俺の腕に強く抱かれて、ふたりが甘い吐息を漏らした。姫様の控えめな胸と、アンリエッタの柔らかな胸を、左右に感じる。


「すて……き」

「好き……エヴァンスくん」

「ふたりとも、俺は大好きだ」

「うれしい……」

「……」ちゅっ


 胸にキスしてくれた。


「あーもう。ボクのファッションショー番はっ」


 バスケットからピピンが飛び出した。俺の腹の上に舞い降りる。誰かに見られないよう、ちゃんと掛けた布をまとったまま飛んできたのは偉い。仮に見られたとしても、暖かな海風に布が飛んだとしか見えないだろうし。


「ないがしろにしてたわけじゃないさ。ふたりが終わったところだろ」

「いちゃついてるじゃん」

「別に」

「別に」

「別に」

「三人でボクをからかってえーっ」

「ふふっごめんなさいねピピン」

「ピピンがかわいいからよ」

「ああ。『かわいい』という本来の意味に従うなら、お前が一番だ」

「……へへっ」


 嬉しそうに、布を開いて体を見せてくれたよ。


「どう、ボクの水着」


 ビキニタイプ。女児が遊ぶ人形用なので、きらきらラメの入ったかわいい奴さ。既製品なんでちょっとサイズが合ってない(ピピンの胸は大きいのでキツそう)けど、それは後で姫様が繕うって言ってたしな。


 それにちゃんとピピン人形使って仕立ても頼んである。数日でもっとちゃんとした奴が上がってくる段取りだ。


「ねえねえエヴァンス。嬉しいよね、かわいい娘三人にくっつかれて。ねえねえ」

「ああ嬉しい。俺は世界一の幸せ者だ。たとえ元が……悲惨な孤児だったとしても」

「エヴァンス様……」


 姫様が体を起こした。きれいな髪が、さっと流れる。


「わたくしが忘れさせてあげますわ。エヴァンス様の辛い過去を」

「わたくしも。エヴァンスくんをどんどん幸せにしてあげる」

「エヴァンス様……」

「エヴァンスくん……」


 ふたりが身を屈めてきた。


「んっ……」

「ん……」


 譲り合いながら、交互に俺とキスしてくれる。ふたりの体から、甘い香りが漂い始めた。


「……どうですか」

「エヴァンス……くん」

「ありが……とう……」

「ん……んんっ」

「ん……あっ……」


 吐息が熱い。夢中でキスし合っていると、ピピンが這い上ってきた。


「ボクの番だよ。んーんんっ」


 ふたりの顔を押しのけて、唇を着けてくる。俺はじっとしていた。だってそうだろ。ふたり相手のときのように口を開けたら、ピピンの頭を吸うことになるからな。


 ピピンが充分満足すると、またふたりが唇を求めてきた。はあはあと、次第に息が荒くなってくる。俺に押し付けられている胸の鼓動が速まるのがわかった。


「エヴァンス様……そろそろ……」

「部屋に戻ろうよ」

「お風呂に入って、寝台でまたお昼寝しましょう」

「今日……二度目の……」

「今度は……三人とも裸で……」

「肌を触れ合わせて……」


 顔だけ起こした。


「いいのか」

「ええ……」

「エヴァンスくんが……許してくれるなら」


 もちろんだ。アンリエッタとはそもそもはるかに先まで進んでいる。姫様とはまだだが、とりあえず裸で抱き合うくらいから始めてもいい。初めて、互いの下着すらまとわない姿で。


「よし」


 ふたりの体を、そっと起こさせた。テーブルのタオルで互いに軽く汗を拭う。ピピンの隠れたバスケットを持ち、俺達は歩き始めた。


 リゾートのビーチ側通路に向かい、砂浜を歩く。サンダルを通してさえ、足の裏が砂で焼かれて熱いくらい。南国のビーチリゾートは常夏だ。心地良い潮の香りを、海風が優しく運んでくれる。


 高級リゾートだけに人影はまばら。皆、水平線を見つめてビーチを楽しんでいる。これから三人と妖精を待つ休暇の日々に思いを馳せながら数歩進んだところで、突然足元が崩れた。自然現象ではない。悪魔の口のようにぽっかり砂が割れると、俺達を飲み込んだのだ。


 真っ暗な……奈落の底へと。



●次話、急展開!

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