2-3 ビーチでリラックス
「エヴァンスくん、お腹減った?」
リゾートのプライベートビーチ。デッキチェアの上に、アンリエッタは体を起こした。買い込んだ水着を、さっそく身に着けている。
「いや……。さっきランチにしたしな」
リゾートに着いて部屋でうたた寝をしてから、ビーチ沿いのストリートを散策した。カフェでランチにして、服屋で三人+人形の水着を発注して。ついでにありもんの水着をそれぞれ選んだからさ。だからこうしてさっそくビーチで
「アンリエッタは腹減ったのか」
「ううん、わたくしは……。ただ、エヴァンスくんは男の子だし、もう空いたかなって」
「わたくしもまだ大丈夫ですわ。エヴァンス様」
サイドテーブルに冷えている香茶のグラスを、マリーリ王女は口に運んだ。
「ふう……おいしいお茶」
「王族のお眼鏡に叶うなら、リゾートも大喜びだな」
「あら……」
くすくすと、姫様が笑う。
「わたくしはただの旅娘、マリリンですわよ。エヴァンス」
「そうだったな」
「それよりどう。わたくしや姫様の水着姿」
デッキチェアからぽんと立ち上がると、アンリエッタは姫様に手を差し伸べた。
「どう。……じゃーんっ」
白砂のビーチと藍に抜ける海を背景に、ふたりが水着姿を見せてくれる。
「うむ……」
重々しく頷くと、俺は観察を始めた。
まずはアンリエッタ。アンリエッタが選んだのは、意外にも地味な紺のワンピース。装飾も施されていないから、ストイックな印象だ。なんというか……競技用といった風情。
両サイドに二本の白線が上下に走っている。それが体のラインを強調するから、スタイルのいいのは一目瞭然だ。水着を強く押し上げる胸、それに水着の上からも凹んで見えるおへそ、さらに脚の付け根、水着で隠された盛り上がり――。もう男は全員卒倒という感じ。肌が白いしなあ……アンリエッタ。濃い色の水着が、よく似合ってるわ。
なんでセパレートにしないのか聞いたら、俺以外の男に、肌を見せたくないんだって。でもこれ、隠された部分への想像を誘いまくる水着だから、むしろ注目の的になるだろ。
俺がじっと見つめていると、アンリエッタの肌にさっと赤みが広がった。もじもじ、太腿を擦り合わせるようにイヤイヤしている。
「アンリエッタの水着は、大人かわいい感じだな。なんというか……その……、そのまま添い寝してほしいというか、今すぐ寝台に行きたくなるくらい素敵だ」
「ふふっ……。殿方はこれだから……」
「エヴァンスのエッチ」
ピピンだ。テーブルに置いた編みバスケット、掛けてある布の隙間から顔を出している。誰にも見られないよう、隠れてもらってるわけさ。
「エッチってなんだよ。素直な俺の感想だし」
「オスの欲望丸出しの感想じゃん」
「やかましわ、アホ」
布の上から、デコピンしてやったわ。
「エヴァンス様……。わたくしはどうかしら」
「そうだな姫様……」
後ろ手に組んで、胸を突き出すようにしている。
「いや……かわいいよ」
マジだ。マリーリ王女は、白のセパレート……というか、随分露出の高いビキニだ。なんての、三角形の布をそれぞれ紐で結んだような奴。なかなか過激な水着を選んだんで、それで本当にいいのか確認はしたんだわ。そうしたら、決まりまた決まり、上品にさらに上品に……でガチガチの王宮では絶対許されない、自由な服装に憧れていたんだと。
たしかにこんなに肌出す服、箱入りの王女が許されるわけないもんな。今は「無名旅娘マリリン」だからな。ある意味、最後のチャンスと言ってもいい。まあ気持ちはわかるわ。
それでさ、姫様はまだ十三歳だからな。その歳にしては発達がいいとはいうものの、やはり体のラインとか胸の大きさとかは、アンリエッタにはかなわない。その分、萌えいづる青春の輝きが強い。それに胸の小さな子は、ビキニのが似合うからな。
「姫様は、今でも最高にかわいい。それが、これからどんどんきれいに、大人になっていく。それがよくわかる水着だよ。それに……」
姫様に香茶のグラスを渡してやる。
「ずっと願っていた大冒険だもんな。とにかく今、このビーチを楽しんでくれ。王宮に閉じ込められた十三年間の鬱憤を晴らして」
「エヴァンス……様」
急に潤んだかと思うと、姫様の瞳から涙がひと粒落ちた。
「わたくしのこと……わかっていて下さるのね」
俺のデッキチェアに腰を下ろすと、胸に手を回してくる。
「ああ……エヴァンス様と結婚できて……良かった」
胸に頬を寄せると脚を絡め、俺の体を撫でてくれた。
「素敵な……殿方……。わたくしの……愛する……」
「姫様、もうすっかりエヴァンスくんが気に入られたのですね」
微笑んだアンリエッタが、反対側から俺を抱いてくる。
「正直、もっと時間が掛かると思っておりました」
「アンリエッタお姉様もご存じでしょう。エヴァンス様は、それほど魅力的ということですわ」
「そうですね、姫様」
「ふふっ」
俺の腹の上で、ふたりは手を取り合った。
「エヴァンス様。わたくし、もうすっかり準備ができておりますわ。心と……」
思わせぶりに、マリーリ王女が俺を見上げてきた。
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