1-7 固有ダンジョン同行実験
「試してみるか……」
俺が呟くと、マリーリ王女は頷いた。緊張した顔つきだ。
「ええエヴァンス様。わたくし、覚悟はできております」
「いや別に命がけって話でもないからさ」
言ったものの、不安はある。なにせ古代から何度も実験され、一度だって成功したことのない試しに挑戦するのだ。宿屋の俺部屋を見回すと、アンリエッタも妖精ピピンも、唇を引き締めている。
「まあ……ヤバい結果にはならないと思う。……準備もしたし」
三人+妖精で旅するようになり、途中何度も、俺とアンリエッタはヒエロガモスの地に飛んでは数日過ごした。もちろん聖婚のためだ。
いつも姫様は健気に待っていてくれたが、なんだかかわいそうでさ。もしかしたら同行させられるのでは……と、試すことにしたのだ。
「この部屋は、念のため十日間ほど押さえてある。掃除も不要だから入るなとも。なので俺達が数日消えても、なんの問題もないはずだ」
「そうね、エヴァンスくん。……馬の世話も頼んであるし」
アンリエッタは、俺の手を握ってきた。俺達の目の前には、すでに固有ダンジョンの扉が出現している。あとは潜るだけだ。
「よし行こう。……姫様」
「エヴァンス様」
王女とも手を取り合った。なにか不測の事態が起きたときに備え、妖精ピピンは姫様の胸元に潜り込ませてある。
「やっぱり姫様の胸のが気持ちいいねー。ふかふかでいい匂いがして……。エヴァンスのゴツゴツ胸はもう飽きたよ」
「贅沢抜かすな」
「へへーっ」
「行くぞ、みんな」
扉の向こう、渦巻いている亜空間に、俺達は踏み出した――。……が、弾き飛ばされた。
「ってーっ……」
弾かれた体の前面が、痺れるように痛む。
「どうにも、受け入れてくれませんね」
「古来、あらゆる賢人や錬金術師、大魔道士が試し尽くしたことだものね」
「まあなー」
アンリエッタと俺の固有ダンジョンが繋がっていたのが、史上唯一の例外だろうしな。少なくとも今世界が始まって以降は。前世界では、俺みたいな立場の奴が聖婚相手を連れて行った可能性はあるけどさ。
「わかっていたことですわ。なんの問題もありません」
そうは言ってくれたが、姫様の瞳には落胆の色が浮かんでいた。
「なんか……ごめん。期待させて悪かったな」
かえって辛い思いをさせたようで、心が痛んだ。
「いえ。エヴァンス様はわたくしが寂しいのではと、気遣ってくださったのです。エヴァンス様への愛を感じこそすれ、それ以外の感情などありません」
「いいじゃん姫様」
ピピンが見上げた。
「エヴァンスの馬鹿は、二日戻らない。ちょうどいい機会だからその間にボクが、エヴァンスの体の秘密、ぜーんぶ教えてあげるよ。けけっ」
「はあ? お前、何言ってんだよ」
「たとえばぁ……」
胸から飛び出すとマリーリ王女の肩に立ち、耳に口を寄せた。
「ごにょごにょごにょ」
「まあ!」
王女の頬が、見る見る赤くなった。
「で、では、形が変わって、しかも大きさまで……」
「それでね、こうやってぇ……」
なんやら知らんが、身振り手振りで謎の動作をしている。
「あーもう。なんでもいいけど、そういうのは俺の居ないときにやってくれ」
「ガールズトークね、ふふっ」
アンリエッタは微笑んでいる。アンリエッタは、もう数え切れないくらい俺と関係を持った。俺の仕方なんか、文字通り体で知っているからな。
「仕方ない。プランBだ。俺とアンリエッタは、今回は二日で戻る。向こうでは次世界が芽吹きつつある。次世界をどうすれば育てられるのか、向こうのみんなと調べる必要があるから」
あともちろん聖婚だって粛々と進めないとならないしな。
「戻ってきたら、ここでもう一泊しよう。その間に準備して、翌日は旅立つ。予定通り南西に向かってな」
「姫様、いよいよビーチリゾートですよ」
「そうですわね、アンリエッタお姉様」
マリーリ王女の顔が、ぱあっと明るくなった。アンリエッタ、気が利くな。さすがは俺の連れ合いだ。
「三人でたっぷり遊びましょう。長期滞在して」
「楽しみですわ。……エヴァンス様やアンリエッタお姉様と、まるで……新婚旅行……のような……」
「ちょおっとお!」ぷくーっ
ピピンが頬を膨らませた。
「三人じゃなくて、四人でしょ。ボクだって水着でリゾートしたいし」
「お前は他人からは隠さないとならないだろ」
「なんとかしてよ。エヴァンス、リーダーでしょ」
「わかったわかった。なんか考えておいてやる」
「へへーっ。決まりーっ」
姫様の肩に立ったまま、腰に手を当てて胸を張った。
「なら早く行きなよ。ボク、姫様に教えないとならないし。いろーんなこと」
「お手柔らかに頼むよ」
「大丈夫大丈夫。ねっ姫様」
「ねーっ」
「ねーっ」
良かった。姫様もいつもの調子に戻ったな。これで心置きなく、固有ダンジョンでの作業に入れるわ。
「姫……」
急に愛おしくなって、王女を抱き寄せた。
「あ……んんっ」
唇を塞いでやった。俺の唇で。
「ん……ん……」
俺の体を突っ張っていた手から、力が抜けた。瞳を閉じ、王女は俺のキスを受け入れている。
「エヴァンス……様……」
唇が離れると、俺の耳に口を寄せてきた。吐息が熱い。
「ご帰還を……お待ち申し上げております」
●すみません風邪&ぎっくり腰にて執筆ペース乱れました
徐々に立て直します
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