1-6 三人+妖精の絆
「エヴァンス様……」
俺に抱え上げられた姫様が、首に腕を回してきた。
「すみませんわたくし、また酔ってしまって」
「いいんだよ。俺も悪かった。止めれば良かったのに」
晩飯のとき俺が目を離した隙に、姫様は蜂蜜酒を飲んだようだ。抱いている体は火照っており、首筋に当たる頬も熱い。
最上級の部屋ということもあり、二寝室の続き部屋だ。こっちの部屋には、アンリエッタとマリーリ王女の寝台が並んでいる。
「ほら……」
そっと寝台に横たえた。……だが、王女は俺の首を離さなかった。
「その……エヴァンス様、今晩は添い寝して下さいませ」
「添い寝……」
一瞬、考えた。だが前にも馬車で三人雑魚寝したしな。まあいいか。見ると、アンリエッタも頷いている。
「いいよ。……じゃあ俺、夜着に着替えるから」
「裸でも……構いませんことよ」
潤んだ瞳だ。背伸びすると、アンリエッタが俺の耳元で囁く。
「姫様、部屋の浴場で、わたくしの裸を見たから」
「お前の裸って」
「わたくしの体、今日はエヴァンスくんの愛でいっぱいだもの」
はあ、キスマーク見られたか。首筋だけじゃなく、胸だの腹、それに太腿の内側とかにも付けてある。姫様、自分だけ置いていかれるようで心細いのかもな。それなら俺が寄り添ってあげないと。
なんせ俺、姫様の婚約者だし。いずれマリーリ王女がマリーリ女王となったとき、俺は側で彼女を支えてやらないとならない。裸になるのはまだ早い気はしたが、肌と肌が触れ合うと安心できるしな。
俺は孤児育ちだから、母親の肌の温かさを知らない。だからアンリエッタやリアンたちと抱き合ったまま眠りにつくようになって初めて、肌の触れ合いがあんなに心安らぐものだとわかった。ならそれを、姫様にも感じてほしい。
「じゃあ今日は、みんなで添い寝ごっこだ」
わざと、おどけた調子で言ってみた。姫様に恥をかかせたくなかったから。
「アンリエッタ、姫様に夜着を着させてあげてくれ」
「うん」
姫様とアンリエッタがもぞもぞし始めたので、俺は後ろを向いた。と、目の前の空間に、あぐらを組んだピピンがふわふわ浮いていた。
「ねえねえエヴァンス。ボクも裸で寝ていい。ねえねえ、ボクの裸見たいでしょ。それに姫様の裸も見たいよね、エヴァンス。ねえねえ、アンリエッタの体、いーっぱいマーキングされてたよ。ねえねえ、ボクや姫様にも付けてみたい? ねえねえ」
「この野郎……」
微妙なところにずけずけ踏み込んできやがって……。
「知らん。お前はもう向こうの部屋でひとりで寝ろ」
ピンと体を弾いてやった。
「ひどーいっ。ボクだって可憐な乙女なのに……。もう、勝手に脱ぐから」
ぽいぽいと、妖精服をそこらに放り投げる。いやピピンの裸初めて見たけど、ちっこいだけで普通に美少女なのな。スタイルもいいし。わいのわいのやかましい妖精だけど、そこだけは感心したわ。
「エヴァンスくん、いいわよ」
「おう」
「ふたりの……間に」
「うん」
下着一枚で寝台に滑り込んだ。
「……って」
驚いた。姫様もアンリエッタも俺同様、下着一枚だったからだ。夜着は身にまとっていない。姫様のかわいらしい胸が、丸見えになっていた。
「夜着は」
「体が火照って熱いからって、姫様が」
「いいではないですか、エヴァンス様」
俺の腕を、姫様は腕に抱え込んだ。柔らかな胸が、俺の腕を包む。
「エヴァンス様はいずれ、わたくしの婿となる御方。こうして抱き合うくらい、予行演習のようなものですわ」
どうやら、アンリエッタは姫様の要望に流されたらしい。自分だけ全身キスマークを与えられているから、なんとなく罪悪感があったのだろう。
「いいじゃない、エヴァンスくん。こうなったらもう、三人で仲良く眠りましょう」
「そ、そうだな……」
もうヤケだ。俺はふたりの体を抱き寄せた。ヒエロガモスの地で寝るときと同じさ。別になんてことない。……そう、自分に言い聞かせて。
「三人じゃないよー。四人だよーっ。どぼーんっ」
ピピンが俺と姫様の間に飛び込んだ。小鳥のように。
「へへーっ。姫様、今日はあったかいねー。ボク、幸せ。優しい姫様と、エッチなエヴァンスに挟まれて」
「エッチなってなんだよ」
「えっ、言っていいの」
口に手を当てて、くすくす笑う。
「だってアンリエッタのふとも――」
「あーもういい。わかったから黙って寝ろ」
「ぐえっ」
姫様を強く抱き寄せて、ピピンを挟み地獄にしてやった。ざまみろ。
「エヴァンス様、そんなに強く抱かれると……わたくし……」
「ああ。ごめんごめん」
緩めると、むしろ姫はくっついてきた。
「いいのです。もっとぎゅっとして下さいませ」
俺の胸に、ちゅっと唇を着けてくる。
「わたくしの心が、エヴァンス様から離れられなくなるように。……アンリエッタお姉様のように」
「抱いて差し上げなさい、エヴァンスくん」
「ああ」
アンリエッタに促され、マリーリ王女の体を抱き寄せた。姫様が安心して眠れるよう、背中をゆっくり撫でてやる。
「もちろん、わたくしもよ」
「わかってるよ、アンリエッタ」
アンリエッタと王女は、俺の腹の上で手を繋いだ。挟まれて苦しかったのか、ピピンは俺の胸の上にうつ伏せになっている。
「わたくし……アンリエッタお姉様のように愛してもらえるかしら、エヴァンス様に」
「大丈夫ですよ、姫様。エヴァンスくんは、姫様のことを大事に思っているのです。だから欲望をコントロールしているのですわ」
「欲望を解放してくれてもいいのに……」くすくす
「いずれな」
姫様の頭を撫でてやった。
「今日はもう、ぐっすり寝ろ。寂しい思いをさせて悪かったな、マリーリ」
「エヴァンス様……」
俺の胸に、熱いなにかが落ちた。清らかな涙が。
「お慕い申し上げております」
マリーリ王女は、また胸に唇を着けた。
「わたくしの命を懸けて……」
胸がいっぱいになった。こんなに素敵な女の子ふたりに、俺は心底愛されている。愛のない人生だった孤児がだ。アンリエッタとマリーリ王女を絶対に幸せにすると、心に誓った。
●業務連絡
新作投稿開始しました!
コンテスト参加中なので、とりあえず1話だけでもいいので読んで、フォロー&★みっつ評価よろしくお願いします!
新作では割と難易度高い設定に挑んでるので、途中で心折れないよう、応援よろしくです……。
「二周目の悪役貴族俺、一周目の即死モブ俺を陰から助けながら自分の死亡フラグも折って回る。……ってなんでだよ、悪役の俺に、全ヒロインとのフラグが立ちまくっているんだが」
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