13-5 聖婚の日々
「そろそろ飯にするか」
ソラス先生とグリフォンのイグルーが裸で抱き合っている寝台から、俺は体を起こした。
「そうだな。あたしも腹減ったわ」
バステトが、ぐっと体を伸ばした。
結局、バステトやリアンと関係を持ってから、ソラス先生とイグルーも恋人にした。
続々と集まりつつある「新人さん」に「おとこのこのおべんきょう」をしてもらうために、ソラス先生とは早めに関係しておきたかった。それにイグルーはあの羽毛ビキニを、どうしても俺の手で脱がしてみたかったんだ。
「ふう……」
とりあえず、俺も下着を身に着けた。
どうやら俺は、ヒエロガモスの地からチート級のパワーをもらっているようだ。だからまだまだできるのだが、時間は有限だ。俺の体力よりむしろ時の流れに行為が制限されるってわけだ。
考えたら、聖婚儀式を急いで全員に施す必要もないしな。
聖婚というからには、なにか劇的な効果……というか結果が出るのかと思っていた。だがそれは考え過ぎだったようだ。最初に関係を持ったアンリエッタとかまだすやすや昼寝をしているし、特に変わりがあるようには見えない。
「アンリエッタ、起きろ。晩飯の時間だ」
「う……ん……」
裸の体を起こすと、アンリエッタは抱き着いてきた。
「エヴァンスくん……好き」
「俺もだよ、アンリエッタ」
背伸びするアンリエッタと、キスを交わした。
「ほら、服を着ろ」
「うん。……エヴァンスくんもね」
「そうだな」
儀式を見守っていたみんなも、俺に促されてヒエロガモスの地から地上に戻った。
「みんなで集めような。根菜や果物、木の実なんかを」
「エヴァンスが料理してくれるんでしょ。そのホーチョで。楽しみだよねー」
「エヴァンスが用意してくれる晩餐は、余も大好物だわい」
ハイドラゴンのグウィネスも頷いている。
「じゃあ始めよう」
そうやって晩飯を済ませた。ここ固有ダンジョンでは夜明けと共に行動し、日没と同時に眠りに就く。野外行動が基本だからな。
晩飯を済ませると、「てらごや」脇の温かな泉で風呂にした。ここ、前からあったんだけど、いつの間にか随分広くなっていた。おそらくだがいよいよ聖婚が始まったことで、神々が拡張してくれたんだろう。なんせ人数が今後もどんどん増えるだろうからな。
もちろん、もう俺も裸になって一緒に入る混浴だ。今となっては裸を隠す必要はない。
「エヴァンスくん……」
アンリエッタが俺の腕を胸に抱く。逆側ではリアンとバステトがなにかひそひそ耳打ちをし合っている。くすくす笑いの合間から漏れ聞こえてくる単語から類推するに、俺と恋人となれて幸せだとか、俺と抱き合ったらこうだったとか、なんか初めての体験の感想戦をしているようだ。
立ち上る湯気の向こうに、みんなが遊んでいるのが見える。
――きれいだなあ……みんな。
素直にそう思った。神々もうまいこと人間化したもんだな、モンスターを。
風呂を終えると、もう太陽が遠い西の山辺に掛かりつつある頃。俺達は「てらごや」周辺の寝綿草で三々五々、眠りについた。
俺の寝綿草には、アンリエッタとコマ。バステトはさっき恋人になった折、くんくんもさせてやったからな。コマは今日まだなので、ヒトまたたびとして奉仕してあげたってわけよ。
ああ、不思議なこともあったよ。この世界での俺は、機能が制限されていた。それが解除されたみたい。聖婚自体はヒエロガモスの地で行われる儀式だ。でも別に他の場所で女子と関係を持ってもいいってことだろう。なぜなら俺がすでに資格を満たし、聖婚儀式を始めたからだ。今さら関係を抑制する意味はない。
そんなわけで、ついアンリエッタともう一度愛を確かめ合っちゃったよ。コマも裸になってたから、行為の後はふたりの女の子を抱き寄せて眠りについた。ふたりの体は温かいし柔らかいし、いい匂いがする。しかも俺のことを愛してるとか、繰り返し甘えてキスしてくる。控えめに言って天国だった。
翌日からはまた、聖婚の儀式に励んだ。別にひとりの娘とは一回だけと決まってるわけでもないので、気まぐれで色々な女子と何度も聖婚を繰り返した。やはりアンリエッタとが一番多かったな。なにせアンリエッタは俺のためにマクアート家の未来を捨てたんだし、大事にしてあげないとならないからさ。
そんなわけで連日聖婚の儀式を続けているうちに、あっという間に一か月が過ぎ、俺とアンリエッタは一度現実に戻ることにした。
というのも、タラニス国王と約束していたからだ。マリーリ王女は、俺やアンリエッタとお忍びの旅に出る。王女が長期間王宮を空ける理由づくりと旅行の準備に「ひと月欲しい」と、国王に言われていた。その期限が来たわけよ。
「先生、寂しいわ」
ソラス先生が、大きな胸を俺に押し付けた。
「また……エヴァンスくんに……かわいがってもらいたいもの」
小柄なソラス先生は、精一杯背伸びすると、俺に口づけしてきた。
「先生のこと、忘れちゃ嫌よ」
「大丈夫だよ。俺もアンリエッタも、そう長くなる前にすぐ戻ってくるから」
「あたしは寂しくなんかないぞ」
バステトは後ろを向いている。
「昨日もエヴァンスにしてもらったし。それにくんくんも……」
我慢していたようだが、急に抱き着いてきた。
「あーやっぱり無理。好きだよう……エヴァンス」
「よしよし」
抱いてキスしながら、背中を撫でてやった。
「その……私もお願いします」
サラマンダーのニュートが進み出た。見ると女の子が長い列を作っている。ひとりひとりと時間を取って、俺は別れを惜しんだ。
「……さあ、行こうかアンリエッタ」
「もういいの、エヴァンスくん。もっと時間を取ってもいいのよ。……なんだったら、寝綿草で少し寝ていってもいいし」
「名残り惜しくなるだけさ。王宮に行くのは約束だ。戻ろう」
「そうね……」
手を振るみんなに応えると召喚した扉を潜り、俺とアンリエッタは現実世界に帰った。コーンウォール冒険者学園教員寮の、俺の部屋に。
「……あれ?」
俺の部屋では、旅人姿の女子が待っていた。
「マリーリ王女……」
どうしてここに。王女は王宮で旅立ちの準備をしているはずだ。
俺の頭は混乱した。
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