13 聖婚

13-1 「てらごや」への帰還。そして「おともだち」集合

「はあ……」


 コーンウォール学園教員寮、自分の部屋に戻ると、どっと疲れが出た。


「大丈夫? エヴァンスくん」


 寝台に座り込んだ俺を、アンリエッタが横抱きにしてくれる。


「なんとかな」


 手を回すと、背筋をゆっくり撫でてあげた。


「アンリエッタはどうよ」

「わたくしは平気よ。ガレイ地区からの帰路はゆっくりだったし」

「俺は説明に疲れたよ、イドじいさんとか」


 学園に戻るやいなや、イドじいさんやグリフィス学園長、カイラ先生に、アンリエッタ実家での首尾を説明させられたからな。恥ずかしいんで俺がごまかそうとすると、パーシヴァルが無慈悲に訂正するし。丸裸にされたわ。


「お父様とエヴァンスくんのやり取りを聞いて、イド様、楽しそうだったものね」くすくす

「いやマジよ。俺が苦労した話、楽しみにしてるだろ、あのハゲ」

「そんな口を利いてはいけなわ、エヴァンスくん。イド様には随分助けられたでしょ。何度も何度も」

「わかってる。ただの愚痴だよ」

「機嫌を直して……」


 俺の頭を優しく抱えると、自分の唇へと導く。長い間、ふたりで互いの唇を確かめ合った。


「……ここでお昼寝にする、エヴァンスくん」


 俺の頭を撫でてくれる。


「ふたりで眠りましょうか。……それでもいいわよ」

「……いや」


 少し考えてから答えた。


「向こうに行こう。みんなが待っている」

「そうね。もう半月以上戻ってないものね」


 俺の胸に指を這わせた。


「バステトちゃん、くんくんしたくてイライラしてるわよ、きっと」

「シャツを渡しといたけどな」

「あら、本物とは段違いよ。わたくしだって……、少しエヴァンスくんと離れるだけで寂しいもの。いくら……エヴァンスくんのシャツを持っていても」

「俺の……シャツ」

「ふふ。ひとつだけ、もらってあるの。自分の部屋の寝台に入れて、独り寝のときは、抱いて眠るのよ」

「かわいい泥棒さんだな」

「罪深いわたくしに、罰を与えて……」


 また唇を寄せてきた。


         ●


「あっ!」


「てらごや」の脇に、俺とアンリエッタは転送された瞬間――。バステトが、飛び上がった。机に置いた葉っぱに、木炭でせっせとなにかの絵を描いていたようだ。


「この野郎。やっと戻ってきた」


 いやいや。誰がこの野郎だ。


「ごめんなみんな」


 アンリエッタとふたり、頭を下げた。


「……てか随分『てらごや』、大きくなったな」


 なんというか、机の数が倍くらいに増えている。それに、初めて見る子がたくさんいる。


「エヴァンスくん、お帰り」


 ソラス先生が、微笑んでくれた。


「大きくなってびっくりしたでしょう。ふふ」

「なにかあったのか」

「ほら、あれ」


 教卓の後ろから天に伸びる光の線を、ソラス先生は指差した。


「遠くからも見られるでしょ。それでみんな、集まってきたのです」


 なるほど。あの光は、俺にヒエロガモスの地を教えるだけじゃなく、この世界のモンスター全てに「ここに集まれ」と目印にする意味があったんだな。マジよく設計されてるわ、この世界。


「だからドワーフのヨアンナさんをはじめ、工作が得意な『おともだち』が、机と椅子をたくさん作ってくれてね」

「きみがエヴァンスくんだね」


 黒髪長髪の娘が、俺の前に進み出た。体にぴったりした、ワンピースの水着を着ている。


「私はシーサーパントのシンジー。海沿いのビーチで暮らしていたんだけれど、あの光を見て、川を遡ってきたんだよ」

「へえ……」


 俺の体をじろじろ眺め回す。


「ソラス先生の話のとおり、『おとこのこ』というのは、変わった体つきなんだね」

「エヴァンスくん、あれ……」


 アンリエッタに袖を引かれた。見ると、教卓横の「こくばん」に、裸の男のイラストが描かれていた。もう、モロの奴。なかなかソラス先生、絵がうまい。絵にはところどころ引き出し線が描かれて、細々となにかの注意書きが書き込まれている。胸とか、股間とか。


 カンベンしてほしい。俺が居ない間にあいつ、初見の娘にもぜえーんぶ教えたな。俺の体について。


「海のおともだち、みんなこっちを目指してるよ。私のように川を使う子、それに空のおともだちに運んでもらう子とか」

「大移動だな」


 こりゃ、あと数日でもっと人が増えるな。


「それよりエヴァンスくん……」


 ソラス先生の眼鏡が、きらりと光った。


「いよいよ聖婚をするんでしょ。私達全員と。そのために戻ってきた。……違う?」

「ああそうだよ、先生」

「ならば行きましょう。ヒエロガモスの地に」


 手を取られた。


「ちょっと待ったーっ!」


 それまで描いていた絵を、バステトが突きつけた。どうやら俺の絵のようだ。立った俺が、笑顔でこっちに手を広げている奴。


「あたしは待ちに待ったんだ」

「ありがとうな、バステト。……俺のこと、好きなんだな」


 胸が熱くなった。多少稚拙な絵だが、そこがかえっていじらしく感じる。


「ああそうさ。だから、先に少しだけ時間をくれ」


 ネコマタのコマを呼び寄せる。


「行くぞコマ。がおーっ!」

「にゃーんっ!」


 ふたりが飛びついてきたので、抱いてやった。


 まあいい。半月ぶりだ。かわいそうだもんな、これまで我慢してきたんだし。一時間もすれば落ち着く。そうしたらみんなとヒエロガモスの地に進めばいい。そうしていよいよ、聖婚の儀式に入るんだ。




●な、なんとか1日5話書けた。死ぬかと思った……。

これで審査対象話は締切。ここまでで概ね「第一部完結」までが見えるくらいまでは出せたので、まあよしとします。


といっても、あと1週間、読者審査期間が続きます。読者審査はフォロー数と★数で決まるので、そのへんどうか、さらなる応援・ご支持などよろしくお願いします。ここで落ちたら1日5話公開の苦労とか全部無駄になるので……。


明日からも毎日更新予定です。お楽しみにー!

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