12-3 俺とアンリエッタ、ふたりの決意

「ふむ……」


 俺とアンリエッタの長い話を聞き終わると、イドじいさんはほっと息を吐いた。コーンウォール学園長室。いつもの悪巧み同様、俺とアンリエッタ、あとじいさんに学園長、カイラ先生が集まっている。


「それで戻ってきたのか。ヒエロガモスの地から」

「はい」

「神々の仕掛けを突っぱねて戻ってくるとは……」


 苦笑いだ。


「相変わらず突っ走る奴じゃのう」

「まあまあ……」


 各人のカップに、学園長が茶を注いだ。


「エヴァンスは我々の助言通りにしただけですよ。最後の決断を迫られたら、一度戻れという」

「まあのう……。おかげで助かったわい。最後の最後、ヒエロガモスの地でなにを求められるかは、わしらもわからんかったからのう……」

「それで……」


 カイラ先生は、湯気の立つカップを口に運んだ。


「エヴァンスくんとアンリエッタさんは、具体的にはどうするつもりですか、今後」

「はい、カイラ先生……」


 俺とアンリエッタは、目を見合わせた。ふたり、手を握り合いながら。


「俺、アンリエッタの実家に行こうと思います。その……今後あの世界で再創造を始めるなら、アンリエッタがいつ親と会えなくなるかはわからない。俺は孤児だから、独りこの世界から消えたっていいかもしれない。でもアンリエッタは違う。悲しむ人がいる」

「嫁取りの挨拶か……」


 くっくっと、じいさんは笑った。


「わしまで恥ずかしくなってくるわい」

「からかわないで下さい。俺は真剣だ」

「いや悪い悪い」


 言うものの、にやにやしながら髭など撫でてやがる。


「父は必ずやわかってくれます。ご主公様の帰還です。事はマクアート家の、開闢かいびゃく以来の悲願ですもの」

「もちろんじゃ。のうグリフィスよ」

「そうですね、イド様。……ただ、エヴァンスはその前に王宮に顔を出した方がいい」

「当然じゃ」

「なんでです。なんか理由ありますか。あそこ行くとまつりごとの渦で、どえらく疲れる。ふたりとは違って俺、ああいうの苦手で」

「わしらも同行する。そこは安心せい。それよりいいか、考えてもみよ、エヴァンス」


 イドじいさんは、ようやく真剣な顔に戻った。


「アンリエッタの親元、マクアート家の領地に行くのであろう。つまりはガレイ地区じゃ。馬車の旅になる。まあどう考えても、片道十日は掛かるのう……」

「あなたはこれまで毎週金曜に固有ダンジョンから帰還し、近衛兵パーシヴァルの前で業績報告をしてきた。それができなくなりますね。三週間ほど」

「お前の不在を、タラニス国王は不審に思うじゃろう。そうして調べると、エヴァンスはアンリエッタを伴い、ガレイ地区に馬車を飛ばしていると知る。国王はどう思うかのう……」

「そうか……」


 歴史的経緯から国王や王家は、マクアート家に複雑な思いを抱いている。俺とアンリエッタがガレイ地区に走れば、「いよいよマクアート家がエヴァンスを取り込みに来た。娘にたぶらかさせて……」くらい思われたって、不思議ではない。


「わかりました。俺、国王と対決します」

「馬鹿者」


 じいさんにはたかれた。


「お前はすぐ先走る。どっしり構えよ。なにも宣戦布告に行くわけではないわい」




●本日いよいよ賞レース受付期間最終日。つまり「審査対象話公開、最終期限日」です。もうストックもなく、どこまで突っ走れるかわかりませんが本日、リアルタイム執筆しながらマルチ公開に挑みます。可能なら1日5話公開目標にて……。応援よろです!

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