11-2 「てらごや」の秘密

「もしかすると、ここが『ヒエロガモスの地』ってことか……」

「こんな光、見たことがないですね……」


 ソラス先生は、口をあんぐり開け、雲に消える光の筋を眺めていた。


「ソラス先生」

「なんですか、エヴァンスくん」

「この『てらごや』を作ったのは、先生だよな」

「ええ」

「なんでここに作ったんだ」

「それは……教卓があったから」

「どういうことかな」

「先生がこの場所を見つけたときに、既に教卓だけは置かれていたのです」

「はあ……」


 話はこうだった。


 好奇心旺盛なウエアモールのソラスは、毎日空を駆け、面白そうな場所を見つけてはその地の研究をしていた。ある日、大木の下に太陽を反射する平面があるのに気づき、舞い降りるとこの「教卓」だった。


 丘の上にぽつんと置かれた謎の机。しかもその引き出しには、分厚い「きょうかしょ」が残されていた。誰かの手によって。自分が古エルフ語を多少は読めると初めて知ったソラスはここで「きょうかしょ」を読み解くと同時に、通りかかった「おともだち」に、「きょうかしょ」の知識、また自分が世界を巡って得た知識などを教えた。


 それを面白がる「おともだち」がどんどん集まるようになり、みんなで木を使って学習机や黒板を工作した。そうしていつの日にかここは、情報交換の拠点としてみんなに重宝される場所になった。


「それに……ここに来れば普段あんまり会わないおともだちとも仲良く話せるし……。いい息抜きになったんです」


 語り終わると、ソラス先生はほっと息を吐いた。


「がっこうごっこか……」

「なにより、ここは最初から誰かに設定されていたというのが重要よね」


 アンリエッタが、教卓をそっと撫でた。


「まるで……誰かが前もってヒントをくれていたようじゃない」

「ここなら宝箱の情報も自然と集まってくる。それに、超古代の神託を記した『きょうかしょ』もあるしな。おまけに……」

「多分……『ヒエロガモスの地』も、ね」

「ああ。この穴が『ヒエロガモスの地』と仮定すればの話だけどな。その最終目的地に自然と情報や仲間が集まるように、最初から設計されていたんだ」


 神だか古代人だか知らんが、しっかり計画してやがる。おかげで実際、俺はこうして段取りを踏めたわけだしな。


「どうするの、エヴァンスくん」

「そうだな……」


 見回した。リアンやバステト、ソラス先生やグウィネス、ルシファーやコマ、それに多くの仲間達が、静かに俺の言葉を待っている。


「穴に下りて、地下に潜ってみよう」


 一拍置いて続けた。


「エヴァンスダンジョン組の遠足だ」


 俺の声に、歓声が巻き起こった。

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