10-5 タラニス国王との対峙
「ではこの王冠は、エヴァンスのダンジョン内部限定のアイテムだと言うのか」
王冠鑑定の日。深夜、王宮最深部。俺達は国王の私室に通されていた。謁見の間ではなく。もちろんパーシヴァルの手配で馬車に放り込まれてきたわけよ。
臨席しているのは、俺側が俺とアンリエッタ、イドじいさんにグリフィス学園長、近衛兵パーシヴァル。国王側はタラニス国王と側近ひとり、あと王立学術院長のイェルドとかいうじいさんだけ。可能な限り人払いした、異例の会合だ。
「そういうことじゃ、タラニスよ」
白大理石のテーブルに置かれた「ティアマトの王冠」を、イドじいさんは気軽にぽんぽんと叩いてみせた。隣にムンムの種とアプスーの鋤も並べられている。
「決して現世のアイテムではない。じゃからなにも気に病むことはないわい。それにエヴァンスとアンリエッタ……いやマクアート家の恭順の意は、お主もよくわかったじゃろうて。前回ふたりに会ったときに」
「それに先程、山程の宝石を献上しましたしね」
グリフィス学園長が付け加える。
「あの自発光の宝石など、おそらく史上初めて発掘されたものですよ」
「ふむ……それはわかっておる。エヴァンスの忠誠心はのう……」
国王の私室は、意外なことに質素な
「それより問題はこのアイテム三種よ。……イェルド、お前はどう判断する」
「我が君……」
イェルドと呼ばれた王立学術院長は、眼鏡を直した。
「まず『ティアマトの王冠』という名称ですが、神話時代以降、ティアマトという響きに類似する王朝はありません。また王冠の意匠ですが、いずれの時代のものとも違います。細密に施された紋様も同様。この紋様はアプスーの鋤にも見られ、その点からも揃いのアイテムと思われます」
一気にそこまで言い切ると、ほっと息を吐いた。
「つまり発見経緯まで考え合わせれば、この三つはひと揃いのアイテム。しかも現実世界の歴史には無かったと判断できます」
「ふむ……」
タラニス国王は頷いた。
「我が君……」
ただひとり残された側近……女だったが……が、一歩進み出た。
「たとえそれが事実なれど、各領主に動揺をもたらすのは必至かと。デーン王朝の正当性について」
「噂好きは多いからのう……」
やれやれといった風に、国王は苦笑いを浮かべた。
「また触れを出さねばならんか」
「それがよろしいかと。わたくしと仲間で、朝までに文面を検討しておきます」
「頼むわい。……それで」
国王は、俺を見た。
「収集が終わったから『ヒエロガモスの地』を開放する――。そう神託があったのだな」
「そうです」
俺は認めた。
「王冠鑑定の折に言われたので、王冠がキーアイテムのひとつなのは確定。また王冠の入っていた宝箱と類似だったのは、この鋤と種のみ。よってこれら三種のことを指しているのは確実でしょう」
「なるほど……」
「鋤に種に王冠か……。新たな国を開墾せよ……といったところかな」
「我が君」
イェルド学術院長が口を挟んだ。
「必ずしもそうとは限りません。それに開墾するにせよ、種と鋤ひとつでは、国どころか農家の片手間にも及びません。おそらく……なにか象徴的な儀式に使うのかと」
「ヒエロガモスの地については」
「調べましたが、これもさっぱりわかりません」
学術院長が首を振った。
「そのようにあっさり言い切るでない」
さすがに国王も苦笑いだ。
「王立学術院の面目はどうした」
「いや、それでよい」
イドじいさんが口を挟んだ。
「タラニスよ。重要なのは、真実、事実を包み隠さずお主に話してくれる側近じゃ。
「……たしかにそうですな。師匠には頭が上がりません」
ひと声唸ると、続ける。
「で、エヴァンスはどうしたいのじゃ」
「はいタラニス様。俺は固有ダンジョンの探索を続けます。アイテムだけでなく、ヒエロガモスの地とかいう目標も、女神ダナの神託で与えられたし」
それにヒエロガモスの地を目指せと、ダンジョン探索当初からイドじいさんにも言われてたしな。
「そう言うと思っておったわい。さてさて……」
国王は黙ってしまった。俺とアンリエッタの顔を、交互に見比べている。それから側近を振り返る。
「マリーリを呼べ」
「姫様ですか……。寝所にて、ぐっすりお休みかと」
「いいから呼べ」
「は、はい、今すぐ」
慌てたように側近が出ていく。大きな楕円テーブルで、イドじいさんとグリフィス学園長が目配せをし合うのがわかった。
王女だと……。なんでこんな深夜に王女を呼び出す。どういう意味があるんだ。タラニス国王の意図とは……?
俺の脳内を、疑問がぐるぐる駆け巡った。
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